神崎姫の大切な人【古い友人(篠崎ケイ)】
コードネーム『真祖”マスター・ノスフェラトゥ”』
昔、戻ってこれなかった友人がいた。
彼は正義感に溢れ、それに見合う素質を持っていた。
自分をヴァンパイアの真祖だと信じ、姫をその仲間だと信じ切っていた。
正直姫自身はどうでもよかったが
それが彼のロイスだと知っていたが故ごっこ程度に付き合っていた。
彼の名前は篠崎ケイ。
赤ん坊の頃に一人でいるはずの部屋から人の気配がし、両親が扉から覗いて見ると
人の形を成していない何か、母親の面影を模したモノが赤ん坊をあやしている姿が発見される。
後に、力が弱く形成は出来ていなかったがブラムストーカーの力で従者を呼び出していたことがわかる。
両親も最初は不審者か怪奇現象と思われ、何度も引っ越しを繰り返す。
どこへ移り住んでも現れる謎の物体に気持ち悪がり軽いノイローゼになる両親。
そこでUGNに発見され、保護される。
保護されチルドレンとして生活する事になったケイ。
物心着く前に両親と引き離され、あまり顔は覚えていない。
ケイにとっての家族はUGNのエージェントと、共に訓練をうけるチルドレン達だけになっていた。
それでもぼんやりと記憶の片隅にある両親
同胞が焦がれる両親像に憧れる日々…
ある日図書館でヴァンパイアの本を読んだ。
ビビっと雷が落ちる感覚に「これだ!!」と衝撃を受けた。
それは子供向けの小説で、夢物語。
噛まれずに悪魔と契約して自らヴァンパイアになったものは真祖と言われるという設定だった。
自分は赤ん坊の頃ベッドのそばに得体の知れないものが立っていたらしいし、多分それだわ!と深く納得した。
そう思い込むことで元気になった彼は元々明るく快活な性格だった為、持ち前の正義感でモリモリ成長する。
そこに巻き込まれたのがたまたま同じチームだった姫。
本にはヴァンパイアはオオカミやコウモリを使役できるとも書いていた。
キュマイラでオオカミになる姫を自分の眷属だと思い込んだケイ。
守ってやるから、俺の眷属として働け!と、まだお嬢様育ちが抜けていなかった姫を振り回した。
予測のつかない彼の気ままな行動に言われるがままに着いて行く姫。それでも本気で自分を守ってくれ、本当に頼りになる彼を信頼し、かけがえのない存在となった。
兄のように慕い、家族の元が恋しくても寂しくなく、楽しい時間を過ごせたのは間違いなく彼のおかげだった。
彼にとって自分はヴァンパイアの眷属。
彼の気持ちを汲み取り、眷属として振る舞っていた。
「おいで、僕のプリンセス」
チームとして、相棒として同じ任務に就き、何度も背中を預けた仲間で、共に切磋琢磨するライバルにもなっていた。
そんな彼が、戻ってこれなくなった。
苦戦し、なんとか任務を遂行した直後、目の前で変貌し自分に襲い掛かるケイに姫の脳が考えることを拒絶する。
自分はここで死ぬのだと覚悟を決め、彼に殺されるなら悪い人生じゃなかったと諦め目を閉じた。
しかし、諦めたはずの体は勝手に動き気が付けば完全獣化した自身の爪が彼を貫いていた。
「ジャームは倒す」
訓練で体に叩き込まれた習性。
涙は一滴も流れない。
爪を伝って流れる血液から、彼もコレを一番望んでいただろうとわかったから。
ならば自分が悲しむべきではないと思った。
それでも心が拒絶を起こし、遺体を抱え必死で逃げ出そうとした。
当然一人でUGNから逃げ切ることは出来ず連れ戻される。
数日間謹慎を受け、傷心状態と診断される。
厳しい罰は下されなかったが、懲罰として白い部屋の中で数日間隔離された。
数日後、謹慎期間が明け、職員が扉を開いた時
一人でいたはずの姫は従者を傍らに置き、姫自らヴァンパイアと名乗った。
そして、今度こそ、誰一人死なせないと心に誓う。
「私は鮮血のローレライ、プリンセスとお呼びなさい。」