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    ##ミツキとトカゲ

    月に叢雲、花に風関東某所に居を構える極道グループ、相原組。
    影響力はそれなりに大きく、組員の大半が組長────相原景一に拾われたゴロツキだ。非合法的なことは殆どしていないが、それでも世間の目は厳しい。

    さて、そんな相原家には一人、子供がいる。言わずとも知れた相原景一の愛娘───つまり組員にとってはお嬢にあたるその少女は、酷く警戒心が強かった。まだ自我が甘かったころは遊んだ組員も居たが、記憶など日々整理されるもの。最も、彼女にとっては一組員と遊んだことなぞ重要なものではないだろう。

    話は変わるが、相原組には一人とびきりに強い組員がいる。名を蒜野蜥蜴、他の極道グループには人喰い蜥蜴などと恐れられているその男が組長に呼び出しを食らうことはそう珍しい話ではなかった。
    例えば殴り過ぎて意識を飛ばした結果、相手が記憶も飛ばしたり…関係ない一般人の車を他の極道グループとの抗争の末に破壊した請求書がきたり…その度に呼び出されてはお前はもっと加減を知るべきだと口酸っぱく言われているのだ。今回もその類の話であろうと、しかしトンと身に覚えがないのは何故だろうかと、そんなことを思いながらも向かった先で感じた空気感に「とうとう勘当されるかも」と思ったことは忘れはしないだろうが。

    有り体に言えば、その考えは杞憂だった。代わりにもっと厄介な役目を請け負うことになったのかもしれないが。

    ───蜥蜴、今日からお前には美月の目付け役を頼む
    ───…っと……おやっさん、マジですかい?
    ───態々こんな嘘つくか、美月もそろそろ小学生に上がる…目付け役が必要だと考えていたんだ。お前はこの組一番の腕っ節があるし…話も、まあ合うだろう
    ───そっすかねぇ…俺より適任が居ると思うんすけど…
    ───四の五の言うな、決まったことだ。くれぐれも美月を危険な目に合わせるんじゃねえぞ。…もし危険な目に合わせるようなことがあれば…
    ───分かってます、お嬢のことは俺がお守りしてみせやすよ

    なんてやり取りをする間、向けられる鋭い視線に気付かなかったわけじゃない。不安と恐怖を綯い交ぜにしたその目は、片時も自分を見つめて逸らさなかった。









    目付け役にとやって来た男はそれはそれは身長の高い威圧感のある男だった。口調こそ軽々しいものだったが、その本質は極道…悪い人なのだ。唯一、私の味方をしてくれるはずの父はどうしても目付け役が必要なのだと取り合ってはくれなかった。優しく頭を撫でてごめんなぁと言う声は柔らかい、謝るくらいなら目付け役なんてつけないでパパがそばにいてなんて言葉は音にならなかった。



    「お嬢~一緒に散歩でも行きやせんか?」

    ひょこひょことこちらにやって来た男は飽きもせずに話しかけてくる、あれから三日毎日散歩に行かないか遊ばないか一緒におやつを食べようと喧しく声をかけてくる。

    「…行かない、みつきお人形遊びするからあっち行って」
    「おっ人形遊びっすか!俺も付き合いやすよ!お嬢!」
    「………………」

    この間もそう言ってドールハウスをめちゃくちゃにしたのをもう忘れたのだろうか、ずいぶん覚えが悪い。

    「やっぱりやめた、みつき公園行く」
    「公園っすか!じゃあ俺も!」
    「公園行かない、みつきお昼寝する」
    「それなら俺が子守唄を歌いやすよ、お嬢!」
    「…やっぱりお絵描きする」
    「じゃあ俺が画用紙持ってきやすぜ、お嬢!」
    「~~~~ッもう!着いてこないで!」

    最後に我慢ならないといった様子で美月が走り去ってしまうのはいつもの事だった、小さい背中を見送りながら蜥蜴はため息をつく。

    「はぁ~~~…どうすりゃいいんだ……」

    目付け役になったのだからと距離を縮めるべく奮闘を始めて三日、未だ手応えはなくむしろ距離は開いてるような気さえする。人を殴るのが趣味のような自分に(実際趣味では無いが)幼子との接し方が分かるはずもない。

    「でもな~このままじゃ不味いよなぁ……」

    本当は、彼女が何を求めているのか知っている。お嬢はおやっさんの部屋の前を通る度に少し寂しげな顔をしてその隙間を見てる、見て、そして、諦めたような顔をして部屋へと帰るのを何度見たか。一度それを見て話しかけに行かないんすか?と聞いたことがある、それが良くなかったのかもしれない。お嬢はキッとこちらを睨んで「あなたにみつきの何がわかるの!」と走り去ってしまったのだ。それからだ、お嬢があの様子になったのは。

    「…俺には難しいっすよ~おやっさん……」








    ───みつきちゃんのパパってゴクドーなんでしょ?
    ───知ってる!ゴクドーって悪い人なんだよ!
    ───………みつきのパパは、悪い人じゃないもん
    ───ウソだぁ!ママが言ってたよ!ゴクドーは悪い人だから、一緒に遊んじゃいけませんって!
    ───じゃあ一緒におままごと出来ないね!あっちいってよ!
    ───……………………………

    「……………?ここ、どこ?」

    ひんやりとした空気で目を覚ます。見覚えのない暗い部屋、どうしてこんなところにいるんだっけ?

    「確か、おじさんが声をかけてきて…」

    ───君、ここらへんの子?相原さんってお宅、知ってる?
    ───それ、みつきと同じお名前だよ
    ───へえ、そうなんだ…君、一人?
    ───うん、お散歩くらい一人で行けるもん

    そんな話をして、それで?その後はどうしたんだっけ?いきなり眠くなった気がして、よく覚えてない。うんうん悩んでいると扉が開く音がした

    「……あ、おじさん…?」
    「あ?……ああ、目ぇ覚ましたのか」

    キラリと輝く襟元のそれに見覚えがあった、あれはうちにいる男たちも付けている極道の証。

    「お嬢ちゃん、今ね──────」
    「………おじさん、悪い人なの?」
    「…………ん?なんでそう思う?」
    「……それ、パパのお仕事仲間の人が付けてるのとおんなじ」

    じりじりと後ろに後退する、この人も悪い人なんだ。だからみつきに声をかけたんだ、前にもこんな事があった。でもあの時は周りに人がいたから、すぐに助けて貰えた。でも

    「…………意外と鋭いガキだなぁ…」
    「…………!」

    こういう時、どうするのかはパパが教えてくれた。

    「おっとぉ、逃がすわけねえだろ!」

    グッと襟首が引かれて思わず転がる、私を見下ろすその瞳は今まで見た事のない冷たさを秘めている。

    「や…っ離して!」
    「のこのこ着いてきたから楽だと思ったのによぉ、やっぱりガキってのはめんどくせえなあ…もう相原の方には連絡したみてえだし、始末したって良いだろう」
    「やだ……たすけて、パパ…パパぁ…!」
    「残念ながらパパは来ねえよ!連絡付けたのは目付け役の───」

    「お嬢からその薄汚ねえ手を離しな」

    衝撃音がして、刹那。叫び声と命乞いと冷たい声、薄暗いその場所では何が起きてるのかなんて分からなかった。一つ、確かなことがあるなら。パパが助けに来てくれなかったことだけだ。

    「お嬢…!大丈夫ですか!?怪我とかしてやせんか!」

    青い顔で私の様子を確認する男は頬に擦り傷が出来てるのを見て「あんにゃろう…」と零している。

    「………どうして」
    「え?」
    「………どうして、あなたなの?……パパは?」
    「え、っと…お嬢、すいやせん…俺、連絡受けてすぐ来ちまって…まだおやっさんには……」
    「………やっぱり、パパも悪い人なの?」
    「………ん?」
    「だからみつきのこと助けに来てくれなかったの?」
    「いやいや!違いますよお嬢!おやっさんは、これからすぐ来やす!」

    この男の前で泣きたくなんてなかったのに、寂しさと恐怖が綯い交ぜになって、耐えられなかった。それを見た男がギョッとしたのを見て、尚のこと涙が出る。

    「パパは…みつきの事なんてどうでもいいから…だから、いつもかまってくれない…一緒にいてくれない…っ」

    ひくりと喉がしゃくりを上げる、ボロボロ溢れる涙が止まらない。

    「みつきと一緒にいたくないから目付け役なんて付けたんでしょ…?いらないのに…パパと一緒にいられたらそれだけで良いのに…」

    「それは違います、お嬢」

    真剣な声色でそう言い切った男を見上げる、いつもはサングラスで見えないその瞳は優しい色をしていた。

    「おやっさんは、お嬢のパパはお嬢と一緒にいたくないわけがない。むしろ逆ですよ!一緒にいたいんすよ!お嬢は知らないかもしれないですけど、パパはいつもお嬢が眠っちまった後にお嬢の部屋まで行っていつも頭を撫でてますよ!それにいつだってお嬢のことを気にしてて…俺、いつもお嬢の様子がどうだったか聞かれます!元気かとか笑ってるかとか、…寂しそうにしてないかとか」

    いつも怖かった、目元が見えないから。どんなことを考えてるのか、今どう思ってるのか。見えても同じだと思ってた。けど、その瞳は存外、分かりやすくて。申し訳なさと悲しみを称えて、男は言葉を続ける。

    「ねえお嬢、そんな悲しいこと言わないでください。お嬢がパパを大好きなようにパパもお嬢が大好きで一番大事なんす…俺がそばに居るのが嫌だったら、俺もパパにお願いしてみます。だから、俺も大好きなパパのことそんなふうに言わないでやってくだせえ」
    「あなたも、大好きなの…?」
    「はい!俺はお嬢もお嬢のパパも組員達も、みーんな大好きっすよ!パパはきっと、お嬢が大好きで…その次に組のみんなも好きで…好きだからこそ、俺をお嬢の傍に置いたんだと思います。…俺、こう見えても組一番の力持ちなんすよ!」
    「…じゃあ、みつきのパパも守ってくれる?」
    「もちろん!お嬢もお嬢のパパもぜーったい守ってみせやす!」
    「………とかげは、みつきの傍にずっといてくれる…?」
    「!…もっちろん!お嬢の傍にずーっといます!」

    その日、私と蜥蜴はそれはもう叱られた。特に蜥蜴は勘当直前だったと聞いたのはその数年後、今でもアイツが私の目付け役をしているのは、多分。

    「みつき、とかげと一緒がいい」


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