うつつのゆめ部屋の扉を閉めて、ふうっと息を吐く。
「アイツには悪いことしちゃったわね…」
トカゲと別れて家に入った後、案の定見つかった。
「美月、おめえこんな時間までどこに行ってやがった」
「…ただいま、ちょっと買い物に出てただけ」
「そんな格好でか?……まあ良い」
組長の威圧感にそれはそれは竦み上がってたけど、仕様がなかった。これも全てこの男のため。
「ちょっとね…もう帰ったんだし良いでしょ?」
「………蜥蜴はどうした」
びくりと隣の若衆が肩を揺らしたのが見える。…はあ、面倒くさい
「トカゲには内緒、あいつ…そろそろ誕生日でしょ?だからトカゲが欲しがってそうな物を聞いてただけ」
「………はあ、わあったわあった…次は気をつけろよ」
「はぁい、…じゃ、行きましょ」
大方、父にはバレているだろう。しかしあの若衆の面子を潰さぬようにしてくれることを私は理解してる。
「どうせトカゲは今度大目玉を食らうでしょうけどね…」
そんなことをごちながらクローゼットを開く、棚の奥、大切に仕舞われたそれを見るのは久しぶりだった。
「ほんと、懐かしい」
シンデレラ、白雪姫、人魚姫、眠り姫…これだけこんな絵本を持っていればお姫様願望があると思われても仕方ないかもしれない。
「ま、覚えてる様子はなかったけど…」
───お嬢、また絵本すか?ホントにお嬢は絵本を読むのが好きなんすねぇ!
───………別に、絵本が好きなわけじゃない
───え、そうなんすか?毎日絵本持ってるからてっきり読むのが好きなのかと…
───……みつきが好きなのは───
───蜥蜴!
───ハイ!すいやせんお嬢…
───………………………
───すぐ戻ってくるんで、待っててくだせえ!
───………え?
───アレ、違いやした?いつも読み聞かせてくれるから今日もそうなのかと思ったんすけど
───…うん、待ってる。だから、早く帰ってきなさいよね!
アイツはそれに私が救われたなんて知らないんだろうけど、いつもずっと一緒にいて、そばに居てくれる約束を守ってくれていることが何より嬉しいなんて、知らないんだろうけど。
「本当に馬鹿な男、私が好きなのは絵本じゃなくて…アンタと過ごす時間だったのにね」
今はもう、そんなことを素直に言える自信はない。言ってしまってそれを認めてもらえるとも、思ってない。
「本当に───」
「馬鹿者たちが、俺が気付かないと思ってるのか」
一つ溜息を吐く、大方今回も何か面倒事に巻き込まれたのだろう。蜥蜴と共に。
「全く…どちらかが早く素直になればいいものを」
「………いや、素直になれない状況を作り出しているのは俺か」
月を見る、美しく輝く月を。