Lost 記憶喪失になった、らしい。正確には記憶障害というのだが。
わたしは事故に遭って数日の間、生死の境をさまよっていたようだ。それを病室で目覚めた際や、その後も甲斐甲斐しく病室に通い看病をしてくれていた人物――スペクターと自らを名乗ったのでそう呼んでいる。敬称をつけたらやめて欲しいと懇願され、よく分からないまま呼び捨てることになった――が丁寧に説明してくれた。
彼はわたしの家で生活している同居人だった。仕事上では秘書のような存在なのだと聞かされたが、まるで身に覚えのない話で、本当に自分の話なのかと疑ってしまう。しかし彼の他にも、後から現れた父の知人だと主張する男女三人からも同様の話を聞かされたので、どうやら本当の話らしい。
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