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    ポン酒

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    ポン酒

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    3人でぐちゃぐちゃに絡まり合って、最終的にドロドロに混ざり合って欲しい🌎🇷🇺🪖

    「そんな顔初めて見た」【ノムラ視点】

    ───ちゃんと気づいてる?お互いに惹かれ合ってること。

    ある日の夕暮れ。
    またガイアが気まぐれを起こして、僕が“戻ってきた”。

    アパートの自室のドアを開けて、顔を覗かせると、シコルがこちらを見て目を細めた。
    大柄な体躯に不釣り合いなほど、その笑顔はどこか柔らかく、幼さを残してる。

    「おかえり、ノムラ」

    それだけの言葉が、胸の奥をきゅうと締めつける。
    日常に溶け込むような、優しい声音。
    けれどそのぬくもりは、僕に向けられたものじゃないような気がして。
    ほんの少し、遠かった。

    ふたりの間には、僕の知らないやりとりが、きっとたくさんある。
    強く、気高い軍人であるガイアが、唯一心を許しているのは──
    弱くて、なんの役にも立たない僕なんかじゃなく、君なんじゃないかな。

    口に出さなくてもわかる。
    過酷な闘いに身を投じるふたりの間には、確かに響き合ってる“何か”がある。

    シコルの空色の瞳が、ふとした瞬間、無意識に“彼”を探しているのを、僕は何度も見てしまった。

    そんな記憶がふと蘇って、つい、ぽつりとこぼしてしまった。

    「なんだか……僕だけ、置いていかれてるみたい」

    シコルは何か言いかけて、だけど言葉を呑み込んだ。
    久しぶりに会えた“親友”に、こんなことを言いたかったわけじゃない。
    困らせたくなんてなかったのに。
    でも──
    優しさで返されることが、どうしようもなく自分を惨めにさせる。

    心配する様に、そろそろと伸びてきた長い指が、僕の頭をそっと撫でた。
    その瞬間、喉の奥に震えが込み上げる。

    泣きたくなんてなかったのに。
    眼は勝手に、じわりと涙の膜を張る。
    顔を上げることができなくて、視線を逸らしたまま俯いた。
    それでも、優しい彼は、きっと気づいてしまうのだ。

    どうにか気づかれまいと、俯いたまま、そっと目線だけを動かす。
    ちらりと、睫毛の隙間から彼を見上げた。

    不安そうに、こちらを覗き込むその顔。
    大きな体を少しだけ屈めて、どうしていいかわからないような表情で。

    まるで、母親とはぐれて、声も出せずに立ち尽くす少年のようだった。

    僕のことを心配しているのに、彼自身が心細そうで。
    その表情が、どうしようもなく、愛おしかった。

    「君の、そんな顔。初めて見た」

    ぽつりと漏れたその言葉に、彼は一瞬、目を見開いたように見えた。

    掌から伝わる温度が、あまりにもあたたかくて。
    なのに、そのぬくもりは確かに──
    僕のものじゃないと、そう思えてしまった。





    【ガイア視点】

    ───私は、なぜ此処にいるのか。

    夜の静けさが、肌にじわり染みる。
    不本意な同居人は、いつも通り間抜けな顔をして、彼の寝床となっている壁にその身を預けている。
    再び眠りについたノムラから、意識を引き継いだ私は、洗面所の鏡の前に立っていた。

    同じ骨格。
    同じ肌。
    同じ声。

    だが、ノムラは人に好かれる。
    大切にされるべき存在だと、思う。
    不器用で、純粋で、拙いところもあるが……いや、だからこそ。
    脆く、守りたくなる存在だ。

    私は、同じパーツを使っていながら、その優しさを引き寄せることはできない。
    戦うために生まれたようなこの人格は、誰かに甘えるという機能を持たない。

    そして今現在、同居人となっているシコルスキーは、ノムラを好いている。
    それはもう、見ていれば嫌でもわかる。
    ノムラの所在を探すときの、あの真剣な眼差し。

    ノムラもまた、遠いロシアから押しかけてきたこの男に、少なからず……
    いや、否定したところで意味はない。
    大切な半身が誰かに好意を寄せることは、私にとって痛みでしかないが、それを咎める資格も持ち合わせていない。

    ……ならば、此処にいる私は?
    私は、何のために、此処にいる?

    問いかけるたび、“半身”の名前が胸に浮かぶ。
    私の存在意義は、ノムラを守るため──そう、信じてきた。
    これまでも、これからも。

    ──しかし。

    二人きりだった世界に、“不純物”が混ざってからというもの、わずかにズレ始めたその信念の輪郭が、胸の奥で軋む。

    奴が私の半身を求めるたび、
    その名を呼ぶたび、
    ただそれだけのことが、どうして、これほどまでに心を乱すのか。

    もし、ノムラのために生まれた存在であるはずの私が、
    その“ノムラが欲しがるもの”を、同じように欲しがっているのだとしたら──

    「こんな思いをするくらいなら……知りたくはなかった」

    私は、こんなにも弱かったのか。
    誰より強く在るべき自分が
    誰より脆い場所を、自身で見つけてしまった。

    鏡の中には、酷く憔悴した顔の男が立っていた。
    ノムラと同じ輪郭。だが、その目の奥にあったのは、紛れもなく“私”の弱さだった

    「……はは、そんな顔、初めて見たな」

    自傷的な笑いが漏れる。
    自身の中に、こんな表情が眠っていたことすら知らなかった。
    それに気づいた瞬間、私はそっと、眼を逸らすしかなかった。





    【シコルスキー視点】

    ───俺は、誰に嫉妬している?

    目を覚ました時、四畳半の部屋はまだ薄暗かった。
    一瞬の静寂が耳を刺す。
    ノムラの気配を探すように室内を見回すが、彼の姿はどこにもなかった。

    代わりに、窓際にひとつの影。
    奴は、無言のまま壁にもたれ、外の気配をじっと伺っていた。

    同じ顔、同じ声、同じ背丈。
    けれど、それでも、決定的に異なると、すぐに分かる。

    ノムラは、光だ。
    柔らかくて、人の懐に自然と入りこむ。
    その笑顔を見るたび、俺は守りたいと思う。

    一方で、ガイアは刃だ。
    誰も寄せつけず、警戒を全身に張り巡らせながら、ただそこに居る。
    戦闘に周囲の環境を利用するという癖が、その佇まいにすら滲んでいた。

    けれど──俺は、そのどちらにも、視線を奪われていた。

    ノムラの笑顔を見ると、胸が温かくなる。
    ガイアと目が合うと、試されている気がして、呼吸が浅くなる。
    そのどちらにも、胸の奥がざわついていた。

    奴らが言葉を交わす場面を、俺は一度も見たことがない。
    それでも理解できる。
    2人は“通じ合っている”。
    言葉など必要ない。
    互いを支え合い、補い合い、信頼し合っている。

    俺は、その中に入れるのか?
    割って入ってもいいのだろうか?

    ノムラを心配するたび、ガイアに刺すような目で睨まれる。
    ガイアの鋭い目を見返すたび、ノムラの優しい笑顔がよぎる。

    あの2人の絆は、戦場という場所で築かれたものかもしれない。
    俺が遠い北の母国からこの地に辿り着くまでにも、ガイアとノムラは、それぞれの役割を背負い、共に過酷な任務へと身を投じてきたのだろう。

    その繋がりは、他人には到底踏み込めないほどに深く、濃い。

    俺は、ノムラを想っていると思っていた。
    けれど、ガイアに向ける自分の視線はなんだ?
    拒絶されてもなお、なぜ近づこうとする?
    理解しがたい。
    けれど、無視することもできない。

    それはきっと、敵意でも、殺意でも、ましてや友情でもなかった。


    思考が渦を巻く中、奴がようやくこちらに顔を向けた。
    ほんのわずかに伏せられた切長の目元が、普段よりも深く影を落としている。

    「……寝てないのか?」

    何気ない問いが喉をついて出た。
    返ってきたのは、短く吐き捨てるようなひと言だった。

    「お前には関係ないだろ」

    それだけで、胸の奥がかすかに痛んだ。

    歩み寄って、隣に立つ。
    しばらく、言葉のない時間が流れた。

    ふと、奴の横顔が視界に入る。

    いつも凛と張っていたはずの表情が、どこか揺らいで見えた。
    険しさの奥に、怯えのようなものが、かすかに滲んでいた。

    その顔を見た時、また言葉が溢れた。

    「……お前の、そんな顔は初めて見た」

    ガイアはゆっくりと、こちらに目を向ける。
    その視線には怒りも威圧もなく、
    ただ、静かに何かを閉ざすような、脆さがあった。

    俺は、それ以上、言葉を続けられなかった。
    一歩踏み込めば、日常と呼べるこの均衡が崩れてしまいそうで。

    けれど気づけば、無意識に手を伸ばしていた。
    理屈も覚悟もなく、ただ、その存在を確かめるように。



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