山の怪異あの夏のことを、今でも夢に見る。
蝉の鳴き声が妙に耳に刺さる日があると、胸の奥に、冷たい風のような何かが這い寄ってくる。
湿った土の匂いと、風の中に紛れたあの声。
あれはきっと夢なんかじゃなかった。
◆
たしか、小学四年の夏休みだった。
その日、俺は朝から妙に落ち着かなかった。
きっかけは、図書館で見つけた郷土資料の本だったと思う。
「地元の山には、地図に載らない沢がある」
「誰にも知られていない滝がある」
そんな曖昧な言葉が、子どもなりの想像力に火を点けた。
(もしかしたら、俺にも見つけられるかもしれない)
そう思った。いや、そう思いたかったのかもしれない。
クラスではいつも引っ込み思案で、ドッジボールは当たる前に逃げるタイプ。
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