重い水音が響く。
柔らかいものと固いものを同時に砕く音が響く。
息。
飛沫。
悲鳴。
そして、上機嫌な歌声。
暗闇の中で、絶え間なく存在感を放っている。
「──かつて。私がいた村に、似たような症状の子がいました」
鈍い音の中に、突き放すように高く鋭い足音と、甘やかに愛撫するような低音が響く。
「いくら食べても満足出来ない──と。毎日のように、お腹がすいたと喚いていた」
語りかける声と同時、何かを嚥下する音が、僅かに耳に届く。
「死にたくない、と、その子は限られた、他の人の食料にまで手を出しました」
寒い。
「村人はその子を『悪魔の使いだ』と糾弾。結果、墜放されました」
音が認識できない。
「ですが──あの子はね、どうあっても人を食べようとはしませんでした」
噛みちぎられた喉から息が漏れる。
「ですから、えぇ。私が言いたいのは──」
体から離れたパーツが粉々に咀嚼されて消えていく。
「いくら人に唆されたからって、人を喰らうなんて」
痛い。
「それを私のせいにしようとするなんて」
眠い。
「彼が最初からそういう人間だったということを、20年も一緒にいた貴方が何一つ知らなかった。それだけでしょう? 愛川さん」