・無血ミレニアムジャック成功とこれからの作戦をカガリへ共有、最終確認するための名目で人と物資の移動に混じってミレニアムのブリッジまで来ていたチャンドラ
・本当はこのままマリュ、ノイと共に宇宙へ上がりたい気持ちしか無かったけど、やるべきことがある&居ても人員が揃っていてやることが無いと理解しているから、後ろ髪引かれる思いで退艦しようとしたらノイマンにミレニアムのインカムを押し付けられた
という設定(↑を一生こねこねしているけど上手く纏まらない…)
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『こちらアスハ代表搭乗機キャバリアーアイフリッド2、チャンドラ。ミレニアム、聞こえますか?』
「こちらミレニアム、トンプソンです。聞こえています。どうぞ」
『ジャスティス及びフリーダムによる敵機撃破を確認。これよりアスハ代表はオーブ本国へ帰投。また、代表より、ミレニアムの今後の作戦行動については暫し待たれよ、とのことです』
「了解しました。ミレニアムはMS収容後、次回命令まで待機と致します」
『それでは…あ』
「如何されましたか?」
『ジャスティスが、ザラ一佐が今こちらへ合流しました。艦長には整備する機体が一つ減ったとお伝えください』
「ふふ、分かりました。それでは、」
「チャンドラ中尉、聞こえるか」
『ノイマン大尉?』
操舵をマグダネルと引き継いだノイマンはフラガ、ラミアスと共にブリッジを退出しようとしていた。
だがその直前にブリッジに響き渡ったチャンドラの声に足を止め、二人の回線が終わる頃を見計らい、自分に支給されたインカムで回線に割り込んだ。
「アスハ代表は無事なんだな?ハウやアーガイルも」
『こちらに敵機出現無し。大気圏ギリギリを航行していただけです。全員無事ですよ。そちらは』
「こちらも大きな損害なし。艦長も大佐も俺も無事さ」
『ご無事でなによりです。お疲れ様でした』
「そっちもな。代表を送り届けるまで、引き続き頼む」
『了解』
「あともうひとつ」
『ん?』
ノイマンの声色が変わったのを察知したチャンドラは、それに合わせて砕けた返事をする。
「お前の分まで仇とったから」
『…モニターしてたから知ってる、っていうかインカム渡してきたのお前だろ。全部聞こえてたよ。まさか本当に敵艦に突っ込むとは思ってなかったけど』
「艦長がやれって言ったんだ。仕方ないだろ」
『やれと言われて実行出来る人間が少ないこと、いい加減分かれよ』
「それはお前もだろ」
あらちょっと、それどういうこと?と後ろから聞こえるラミアスの声に、フラガのまあまあという声が被さるのを聞き流しながら、ノイマンは通信を続ける。
『とにかく、ちゃんと見てたから。ありがとな』
「ああ。じゃあまた後で」
『おう。早く帰ってこいよ』
プツリと回線が切れたことを確認したノイマンはインカムから手を離すとふう、とひと息つき、突然回線に割り込んだことをジェミーに詫びる。
全然大丈夫ですよ!お疲れ様でした!と溌剌な返事に礼を言い、三人は今度こそブリッジから退出した。
「今の相手、ノイマンさんですか?」
「ん、ああ。あっちも怪我なく終わったってさ」
「さっきチャンドラさんも言ってましたけど、敵艦に突っ込むなんて、やっぱり色々凄いですね。ラミアス艦長とノイマンさんは」
「良くも悪くも変わってないだろ?」
苦笑いを隠せないサイの言葉にチャンドラは肩を竦めてみせる。
「フラガ大佐もまた無茶して…。でもほんと、あの人ほど不可能を可能にするって言葉が似合う人もいないですね」
「アカツキの性能と持ち前のスキルと豪運がそうさせてるんだろうな」
チャンドラはミリアリアの言葉にも同調を示しながら外したばかりのインカムを手に転がした。
これはミレニアム出航直前、最終確認のために同行していたブリッジから退出しようとしたときにノイマンから渡された物だ。
曰く、常にこちらの状況を把握している者が必要だと、もちろん戦術リンクは構築するが、チャンドラなら聞いているだけでもミレニアムでのやり取りが分かるであろうと無理やり押し付けられた。
『聞いてわかるだろって、んなわけ』
『ミレニアムの大まかな兵装も名称も覚えてるだろ』
『そりゃまあ、資料貰ったから覚えてるけど』
『じゃあ大丈夫だろ』
『いや、そんなこと言われてもな』
『私からもお願いするわ。チャンドラ中尉とは別行動になってしまうけれど、気持ちはいつも一緒よ。どうか私たちの戦い、見守っていて』
『…分かりました。謹んで拝命致します』
なんてやり取りをしたのがたった半日前とは信じられないほど密度が濃い一日だった。
耳に入ってくるラミアスの指示がいつもより鬼気迫る声だったのは、先程ノイマンが言っていた通りアークエンジェルの弔い合戦でもあったからか。
宛てがわれた仕事を投げ出すなんてことはしない。カガリの、一国の代表首長と同じ機体に搭乗してすぐ側での戦闘補佐など、今のチャンドラが出来る仕事で最も名誉なことであることはわかっている。それでもなぜ、自分は今彼らと共に宇宙ではなく地球にいるのだろうと思ってしまうのはどうしてなのか。柄にもない感傷に浸りそうになるが、まだ自分達にはやるべきことが残っているとインカムを手放して頭を切り替える。
「さ、俺達にはまだ仕事が残ってるぜ。アスハ代表を本部に送り届けて、その後は色んなことの辻褄合わせだ」
「私たちよりサイの管轄ね」
「暫くは家に帰れなさそうだよ…」
「適材適所ってやつだよ。現場の俺たちのためにも頑張ってくれよな。外交官サマ?」
「ええ、もちろんです。この道を選んだのは自分です。最後まで頑張りますよ」
頼もしいサイの返事にチャンドラは目を細めた。四年前、悲運にも戦争に巻き込んでしまった学生たちは今もうそれぞれ自分のなすべきことを定め、それに全力で立ち向かっている。たかが四年。されど四年。彼等彼女等の成長が眩しく見えたことは、今度ノイマンと酒を交わすときのネタにしてやろうと思った。
『ミリアリア、本部に戻る前に少しアスランに聞きたいことがある。一旦アカツキ島に降りようと思うのだが大丈夫か?』
「了解。こちらは問題ありません。…もしかして、『破廉恥な妄想』ってやつ?」
『ばっ! いや! それはそうなんだけど! 一度問いただしておかないと気が済まないから…!!』
「あはは! そうね、本部に戻ったらゆっくり話す時間、取れないものね。本部にはこっちから伝えておくから降りて大丈夫よ」
『頼む』
カガリからの通信の後、幾許もしないうちにキャバリアーアイフリッド2とジャスティスはアカツキ島の浜辺に着陸した。
コクピットを飛び出すカガリとアスランをモニターしながら、チャンドラはサイとミリアリアに声をかける。
「二人も行ってこいよ。本部との連絡は俺が引き継いでやっとくから」
「え、でも」
「若者は甘えてればいーの。ほら!折角なんだ。顔合わせてこいよ」
サイとミリアリアは少し考えた後、顔を見合せて頷きあった。四年前からいつだってこの人は、この人たちは自分たちを厳しくも甘やかしてくれる。いつまでも甘えるのは悪いと思いながらも、こうやって時間が経っても甘やかされるのは嬉しいもので。むず痒い気持ちを抱きながら、チャンドラの言葉に甘えることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて行ってきますね。ありがとうございます。チャンドラさん」
「行ってきます」
「おーおー、いってらー」
ミリアリアから引き継いだ業務を並行しながら、チャンドラは外の様子をモニターしていた。
サイとミリアリアが二人に駆け寄るのが見えたと同時に、アスランがカガリを勢いよく抱き上げ、それをいつの間にか浜辺に降りていたメイリンと共に三人で賑やかしているようだった。
おいおい、あんまり邪魔してやるなよ?と思いつつ、アスランとカガリ、メイリン、ミリアリア、サイ、若者たち全員が年相応な笑顔でいることについ目尻が下がってしまう。
ラクスが先の演説で述べていた『誰に強制させられるわけでもない、それぞれが自由を選べる世界』。
チャンドラはこれまで、漠然と誰かに強制される世界だけは嫌だと思いアークエンジェルに乗り戦ってきたが、明確なビジョンは実の所見えていなかった。
だが、今目前に繰り広げられているこのあたたかな光景が、ナチュラルもコーディネイターも関係ない、心から惹かれたもの同士が自由に愛し合い、笑い合える世界、誰かと誰かがその日一日を楽しんで笑って暮らせる世界こそが。
そういう『当たり前の日常』と呼べるもののために俺たちは今まで戦ってきたのだと、そしてこれからも戦っていけばいいのだと、今更ながらにわかった気がした。
ふと、チャンドラは自分にとっての当たり前の日常とは、と思い返してみた。
自分が出来る精一杯の仕事をして、休みの日には趣味の電子工学を弄り、たまに同僚と酒を酌み交わし笑い合う。
ちっぽけと思われるかもしれないが、ノイマンとトノムラとパルと、気の知れた四人で酒を酌み交わし笑いあっている瞬間が、今のチャンドラにとっての一番の楽しみであり、これからも守るべき当たり前の日常なのだと気づいた。
「ったく、俺も若者に充てられたのかねぇ」
であれば、この大きな作戦行動が終わった今、願うこととは。
チャンドラは未だ賑わっている様子を告げるモニターから、視界いっぱいに拡がるオレンジ色の夕焼けのそのまた向こう、大気圏のその先へ想いを馳せる。
「早く帰ってこいよ、ノイマン」
俺たちが守った『当たり前の日常』を一緒に楽しむためにもな、と。