熱出すのなんていつぶりだろうか。熱いのに寒い。どっちやねんって感じやけどどっちもやねんな。朝貼ったおでこの冷却シートはとっくに冷たさを感じないような気がする。シートを剥がして枕元に放って布団に潜り込もうとすると扉の方でちらりと黄緑が揺れた気がした。見間違いかと視線を向けると大和が顔を覗かせた。
「起きてるか?」
「ちょーど起きたとこ」
発した声がガサガサで自分自身でもびっくりした。
「飯食えるか?」
手にお盆を乗せて部屋へと入ってきて、ベット横にあぐらをかいて座った。お盆に乗ったお粥からふわりと湯気が上がる。
「もうお昼?んー。あんま食欲ない」
「そうか」
レンゲを手にするとそのままバクバクと食べ出した。
「お昼ごはんまだなん?」
「食った。瑛二が親子丼作ってくれた。うまかったぞ」
「そっか。今日オフはやまちゃんとえーじちゃんやったっけ?これもえーじちゃんが作ってくれたんかな?食べれんくってわるいな」
話ながらもお粥はどんどん大和の口に入っていく。
「いや、俺が作った。瑛二はオフじゃなくて昼から。飯食って出てったよ」
「えーやまちゃんのおかゆ。ちょっとほしい」
「もう一口しかねぇよ」
レンゲに乗せられたお粥を頬張る。ほとんど味なんてわからへんかったけどちょっと大和が嬉しそうな顔をしたので良かった。
「食えそうなら作ってくるぞ?」
「んーん。大丈夫」
「そうか。水分ちゃんと飲んでんのか?」
そういえば朝に何本かドリンクを置いていかれたような気がするがまったく口をつけていなかった。
「なんだ全然飲んでねぇじゃねぇか」
大和が水やスポーツドリンクのペットボトルを確認する。そして未開封のペットボトルのキャップを捻るとそのままゴクゴクと飲んでしまう。
「あ、のど渇いてたから飲んじまった。おまえもいるか?」
大和が口元に差し出したペットボトルに口をつけるとゴクっと喉がなった。そのまま大和が残した分を飲み干す。
「ちゃんと水分摂っておけよ」
「ん」と答えて枕に頭を戻す。額に大和の手の平が触れ、珍しく自分より低い体温に驚いた。
「まだ熱いな。ほら」
手の代わりに冷却シートがひたいに置かれた。
「ありがとう。もう大丈夫やで」
「寝るか?」
「ん、それにやまちゃんにうつしたくない」
「俺風邪引かねぇよ」
「それでもワイが心配する」
大和がポンポンと頭を撫でた。
「わかった。なんかあったら呼べよ」
パタリと閉まる扉と一緒に瞼を閉じた。
次に目を覚ますとすっかり熱は下がっていた。時間は22時。リビングへと降りていけば賑やかな声がしていた。
「ヴァン、起きてきて平気か?」
「辛くはないか?」
仕事を終えたメンバー全員が揃っていた。
「えーちゃん、大丈夫。しーちゃんも心配かけたな」
「心配…した。夕食の…おかゆもある。温める…か?」
「食べやすいゼリーも買ってきたよ。食べる?」
「綺羅ちゃんありがとう頂くわ。ゼリーはナギちゃん買うてきてくれたん?食後にもらうわ」
そう答えると綺羅は台所に向かい、ナギも連れ立った。テーブルに付くと程なく温められたお粥が運ばれ、みんなの手にゼリーが渡った。
「ヴァンが熱で倒れるなんてびっくりしちゃった。午前中大和がずっとソワソワしてて大変だったんだよ」
「おい、瑛二。ソワソワなんてしてねぇよ」
頬を赤らめて瑛二を肘で小突くのをみると本当に心配させていたんだなとレンゲを咥えてじーんとした。
「今度からは体調管理ちゃんと気をつける。ほんまごめんな」
「あぁ、そうだな。みなもくれぐれも気をつけてくれ。ただ無理をしろと言う訳ではない。何かあればすぐ言ってくれ」
瑛一がそう締め括るとみながはーいと元気よく返事をし、それぞれゼリーを口に運んだ。
メンバーの優しさに浸かってヴァンもゼリーに手を伸ばした。