プロキオンには妻がいる。実年齢からすると姉さん女房というやつなのだが、普段の彼女の振る舞いや見た目の幼さからそんな感じは全くしない。今だって彼女は拗ねて布団に篭ってしまっていた。とはいえ、嫉妬深い彼女がヤキモチを焼くようなこともしていないし、からかった覚えもない。何故拗ねているのかさっぱり分からなくて、プロキオンは布団をゆさゆさとゆすった。
「チコちゃーん」
「……」
「な〜、機嫌直して〜」
布団の隙間からむす、とした顔でチコーニャが自分を睨みつけている。
「あー。ええんかなぁそんな態度取ってぇ。僕せっかくチコちゃんのだーいすきなプリン焼いたったのにぃ。」
「!」
「食べたい?」
「……食べたい……」
「ほな出ておいで。何が不満やったの」
もそもそと布団から出てくるチコーニャを捕まえて自分の膝の上に乗せた。なでなでと頭を撫でてやりながらチコーニャの言葉を待つ。彼女は子供のように唇を尖らせながら暫く黙り込んでいたが、やがてうる、と目に涙を浮かべた。
「オラクルさんのご飯食べてたら太ったから痩せるって言ったのに、オラクルさんチコーニャに美味しいものばっかり食べさせてくるから……」
「うーん。せやかてなぁ」
プリンに釣られて出てくるチコーニャから痩せたいと言われても、という気持ちが頭をよぎったプロキオンは首を竦める。チコーニャはその気持ちを察してか一度ぎろりとプロキオンを睨むが、すぐに耳をぺたりと伏せてしょぼくれた。
「オラクルさんに釣り合うために綺麗になりたいのに……」
ぱちぱちとプロキオンは瞬きを繰り返す。それから堪え切れなかった笑いをこぼすとむぎゅうとチコーニャを抱きしめた。やー!とじたじたする彼女を抱き込み、そのままかぷ、と首筋を軽く噛む。途端に大人しくなったチコーニャの頭を撫で回しながら、プロキオンはにこにこと笑った。
「あーーー僕の嫁さんてほんまかわええなあ、そんなん気にすることないんよ〜。ちょっとくらいぷにぷにしとった方がええで、健康的で」
「でも……」
「もー、僕が言うとるのに信じてくれへんの?これからずうぅっと僕ら一緒におるんやからチコちゃんはそのままでええの!」
前までのように骨が浮くほど痩せている状態を健康的とは言いづらい。漸く普通に食事を摂ることができるようになって肉もついてきたのに、ここでまたあの状態に逆戻りさせるのは御免蒙りたいのだ。彼女には健康でいてもらわねば困る。なにせこれから長いこと連れ添う相手なのだから。
「……チコーニャ、可愛いですか?」
「そらもう!可愛くて可愛くてしょーがないわ。」
「わたし前と違って何にもできないのに……」
「僕がその分できるようになるさかい、安心しぃ」
すりすりと鼻を擦り合わせてどこか嬉しそうにオラクルが笑う。チコーニャはぽや、とした顔をした後に、ゆっくり頷いた。