ありったけの愛を贈る 伊黒にとって、バレンタインとは愛おしい恋人へ愛を贈る日である。日本では女性から男性にチョコを贈るのが一般的ではあるが、海外では男性から女性に贈ることの方が圧倒的に多い。
甘いものが大好きで、大食いでもある甘露寺への贈り物は、それはもう両手では抱えきれないほど準備してある。毎年のことではあるが、彼女のことを思い浮かべながら、チョコを選ぶのは伊黒にとって密かな楽しみでもあった。口にいっぱいに頬張って食べる甘露寺を見るのが、伊黒は好きなのだ。
今年もまた、彼女の愛らしい食べっぷりを見るのを当たり前のように楽しみにしていた。だが、しかし。バレンタイン当日に、問題は起きてしまった——。
「……三十八度五分……」
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