Disclosure高級焼き肉店の個室。天井のスピーカーから発せられるイージーミュージックと、肉がジュージューと焼ける音が耳元で混ざり合う。トングを置き、何杯目か分からないグラスを空にしてから玉田が口を開いた。
「で、世界中回ってばっかだけど、良い人は出来たのか?」
「へ?」
肉を食べようと開けた口のままで返事をする。
「もう30手前よ、オレたち。そろそろ考えるだろ、結婚のこととかさあ」
確かに、と頷いて、口の傍で止めていた肉を口に入れる。玉田が前のめりになり、上目遣いで此方を見た。
「で、いるのか?」
ゆっくり肉を咀嚼し、喉を鳴らして食道に送り込む。玉田はじっとこちらを見つめて、答えを待つように黙り込んでいる。箸を置いて、玉田の茶色い瞳を見つめ返す。
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