タイトル未定♦︎
「美奈子、今日の格好いいじゃん!そういう自然な感じ、オレは単純に好きだな」
「ふふ、希くんありがとう」
名家の若様と言われるリョータ先輩、陸上部のエースことノゾム先輩、その中心にいる彼女、美奈子先輩とよく連んで遊ぶようになった。薄々感じていた悪い予感と言うのはよく当たるものだ。いつも彼女はノゾム先輩が好きそうなファッションでやってくる。
「よっし!やったぜ」
「すごい!希くんストライク!」
今日は4人でボーリング場に遊びに来ていた。ノゾム先輩が華麗にストライクを決めると先輩とハイタッチをする。
「美奈子、サンキュ!」
「お・ま・え!距離が近いんだよ!」
「え?オレのこと?」
「そーーーだ、颯沙お前のことだよ!」
そこにリョータ先輩が噛み付くように入ってくる。彼女に自分以外の男が近付くのがお気に召さないらしい。僕にもその気持ちは分からなくもないけれど。
「一紀くんも頑張って!」
「玲太、ストライク狙ってけ!」
僕"も"か…と複雑な気持ちになりつつ球を投げる。力んで10番ピン残し。リョータ先輩は球筋が曲がりすぎてガーター。
この時に話したっけ、球筋は投げた人を反映するって。ノゾム先輩は一直線、リョータ先輩は複雑。僕はリョータ先輩によると『イノリはプイッとそっぽ向く感じ。』
真っ直ぐなノゾム先輩は見事に彼女の心を射止めた。むしろ同じ真っ直ぐな彼女と惹かれあっていたのかもしれない。
捻くれ屋の僕や、捻じ曲がりの彼と違って。
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「希さん、美奈子さん、並びにご両家の皆様、本日は誠にご結婚おめでとうございます。このような素晴らしい席にお招きいただき、心より感謝申し上げます。僭越ではございますが、友人代表としてお祝いの言葉を述べさせていただきます。
新郎新婦とは幼稚園からの付き合いなので、本日もいつも通り名前で呼ばせていただきたいと思います。希は陸上部のエースで美奈子はその陸上部のマネージャーでした。高校の青春時代をずっと一緒にすごしました。
美奈子はいつも穏やかで、みんなに優しくて、クラスの中でもいつもにこにこ笑っていました。困った人がいると進んで力になりに行くような人で優しくて頼りになる彼女は、みんなに一目置かれる存在で、美奈子の周りにはいつの間にか人が集まっていました。
そんな美奈子から、希を結婚相手として紹介された時は、あんまりにも幸せそうでふたりならきっと、あたたかく明るい家庭を築いていけると思いました。希も美奈子も私の自慢の幼馴染です。どうかいつまでもお互いの存在を大切にしてあげてください。そしてもし困ったときは、いつも力になりたいと思っている友がいることを忘れないでください。おふたりの末永いお幸せを心より願い、私のスピーチとさせていただきます」
スピーチを終えると背筋を伸ばし一礼してリョータ先輩は着席した。まばゆい会場が拍手で包まれる。
今日はノゾム先輩と美奈子先輩の結婚式である。
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「俺が新郎側に立つはずだったのに」
「かざぐるまにした願い事なんて意味がなかった」
「こんなの間違ってる」
結婚式のあとの二次会の会場には行かず、僕とリョータ先輩はバーで男二人の二次会をしている。あんなにすらすらと二人の門出を祝っていたのに、今は止まらない呪詛を吐き続けている。
「イノリもそう思うだろ?なあ!」
「そうですね、まずリョータ先輩呑みすぎなのでセーブしてください」
バーのマスターに水を頼んでリョータ先輩に手渡す。もう何が酒か水か解らないのか、一気に飲み干したあと「マスターおかわり!」と水を頼んでいる。
「俺の生きるための存在って何だと思う?」
いや、そんな質問形式にしなくても解るでしょ。
「あいつが俺の横にいない人生なんて会えなかった9年間の空白よりずっときついよ…」
もうこのまま死のうかな、なんて顔をしたリョータ先輩を見たら
「美奈子先輩の代わりにはなれないとは思いますけど、」
「その空白、僕じゃ埋められませんか?」
なんて咄嗟に口走ってしまった。僕もアルコールで酔ってしまってあてられたみたいだ。すぐ失言を撤回しようとするとリョータ先輩が真顔で、
「お前が美奈子になってくれるのか?」
「は?美奈子先輩の代理というかなんというか…ああもう!撤回します!酒の勢いでした!!」
「お前もそうやって俺を裏切るんだな!誰も俺のことなんて必要ないんだ…美奈子ぉ…」
はあ、高校時代から思っていたけど相変わらず面倒な人だ。美奈子先輩しか見えてなくて自己中で厄介な人。それだけ好きだから辛いんだろうけど。僕だって美奈子先輩に淡い恋心を寄せていたというのにリョータ先輩の落ち込みっぷりようを見ていると自分の失恋を嘆く暇すらない。世話のかかる人だ。
「もう店じまいするようですし、帰りましょう」
「嫌だ。颯沙のやつを殺してからだ」
「美奈子先輩が不幸すぎます」
ほら、行きますよ、とテーブルにひっぺりついたリョータ先輩を引き起こす。酔ってる人間は案の定重たい。今にも自殺しそうな泥酔している人間を置いていけるはずもなく仕方ないから自宅まで一緒に連れて帰ることにした。
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