三角のモノ☆quiet followDONE真八真。真下が報われる、あるいは一歩地獄へ進む話。9月か10月か。 二十一時。帰宅ラッシュを終えて随分と時間が経っている。新幹線が止まるといっても、ここら一帯は人口が少なく賑わいも乏しい。ホームに立つ人もまばらで、他に行くあてもないから訪れる電車を待っているだけだ。 真下は出発を待つ電車の一両へ八敷と共に乗り込んだ。二人がけのシートが礼拝堂のように並ぶ中で、入り口からすぐ近くへ八敷を詰め込む。他の乗客がいないので席はいくらでも空いていたが、怪異を消滅させたばかりの男をなるべく早く休ませてやりたかった。「なんか食べるか?」 シートへと背中をべたりとくっ付けた八敷は真下の方を見もしない。ただ憂鬱そうに眉根を寄せて何かを考え込んでいるようだ。 真下はため息を吐きながらその場を離れる。出発まで時間があるわけではない。疲労が体の端々まで根を張っている。手っ取り早く栄養をとって、この疲れを少しでも軽くしなければ眠ってしまいそうだった。 人の少ないホームに売店はない。仕方なく自販機からおしること無糖のコーヒーを取り出した真下は、八敷のいる車両へと戻ってきた。 相変わらず他の乗客の姿は見当たらない。座席からはみ出した八敷の頭だけが目立っている。 真下はなんとなくその後ろに立って、黒い髪の中から旋毛を探す。八敷はそれに気がついていないのか、はたまた意識する余裕すらないのか、周囲を見渡す素振りすら見せない。 真下にはそれがひどくむなしい。 そこにあるということは、いつかなくなるということだ。そのいつかを限りなく遠くに追いやるために真下は何度でも手を伸ばしてきた。 それなのに、八敷の瞳はいつだって怪異の姿だけをうつして、真下の指先のひとつだってそこに入れてはくれないのだ。 もう二度とは手を離さないと誓っているけれど、ときおり、ふと、力が抜ける。それは目が覚めてベッドの中で天井を見上げる時であったり、探偵事務所のブラインド越しに太陽の光を浴びる時であったり。あるいは今この瞬間、窓枠に肘を預けて外を眺める八敷の姿を視界におさめた時であったりする。 真下は掌の中でつるつると滑る缶の表面へかつりと爪を当てた。その音に黒い頭が振り返るのを期待して。けれど、八敷の顔はいまだ車窓にとどまったまま、真下が戻ってきたことにも気がつかない。 柔らかくてあたたかいものをすべておいて来てしまったような表情で、ただ瞬きを繰り返している。それがどれほど真下をやるせなくさせるのか考えようともしないで。 車掌の声を合図に走り出した電車はゆっくりと隣の車両を追い越して、次第に速度を上げていった。 八敷の横へおさまった真下は、顔色の悪い男の手に無糖のコーヒーを握らせた後、おしるこの缶をひっくり返す。蓋を開けないまましばらくそうしていると粒を残さずに口へ入れることができる。「真下」 八敷の声がようやく真下の耳朶を打った。窓から床へと移った視線が真下の方へ向くことはない。「今日はすまなかった」 真下の服の下に傷などはない。怪異との対峙自体を指すのなら、それは甚だ検討違いだ。謝罪が欲しくて八敷について来ているわけでもない。 レールを踏む車輪の音が妙に大きく響いている。「八敷、見ろ」 だから、真下は窓の外を見るように促した。八敷の疲れはコーヒーでもおしるこでもとれそうにない。味覚で駄目なら視覚で、それでも駄目ならその時に考える。 億劫そうに動いた八敷の眼が外へ向いた途端、大きく見開かれた。煌々と輝くビルの光が、ガラスの砂を海へ撒いたように夜の地へと広がっている。八敷の瞳の中を細かな光が魚の群れのように泳いだ。 そして。ふ、と八敷の眉から力を抜ける。「ました、なぁ、ました」 八敷が振り返って、その緩やかに下がった眉の形のまま真下を見た。小さな魚がまだ残っているような優しい目をして真下の姿を捉えている。「めのなかに星がある」 そうして目尻に触れた親指のかさついた温度があまりにもあたたかいので、真下はなんだかひどく胸がいっぱいになった。 讃えられるためでも報われるためでもなく腕を伸ばしてきたけれど。それでも掴んだことを証明されるのなら、これ以上の喜びはないのだ。 伸ばさなければ届かず、届かなければ失ってしまうものがある中で、真下はそれを今、ちゃんと手に持っている。怪異と立ち会うよりも、己の死よりもよほどおそろしいことを知ってしまったから、それがどれほど幸福なことか身に染みて分かるのだ。「今度」 八敷が口を開いた。真下はその柔らかい声音を聞いている。「出かけるか。夜に、車で。街の見えるところへ」 どこかはおまえにまかせる。 その言葉は古い御伽話を思わせた。信憑性はまるでなくて、抽象的で、いつかさえ決まっていない。けれど、ベッドの中で語られたならさぞ優しい夢をみられるだろう。そんな物語に。 真下は、唇を開こうとした。しかし、震えたそれでは音を紡ぐことは難しく、ただ、顎を少しだけ引いてうなずいた。 八敷が眦を緩めて、スケジュールに書かないといけない、と呟くのに真下は目蓋を閉じる。 これ以上、満たされてしまったら、これ以下のことではきっと満足出来なくなる。そんな気がしたからだ。 ガタゴトと夜の静けさの中を進む車輪の音を真下はずっと忘れないだろう。いつかくる、光の粒がすべて消え去ってしまうその日まで、真下は何度でもこの音を思い出すことになる。 それがしあわせかは分からないけれど、知らないふりをするよりよほどマシだと思ったから、思ってしまったから。「八敷、約束しろ」 再び目を開いて絡めた指のぬくさが永遠となれば、こわいものは何もなくなるのに。 街の光はるか遠くで瞬いている。Tap to full screen .Repost is prohibited Let's send reactions! freqpopularsnackothersPayment processing Replies from the creator Follow creator you care about!☆quiet follow 三角のモノMAIKINGこういう、八敷に言って欲しいけど絶対言わないだろうなという言葉…… 543 三角のモノDONE真八真。クレープを食べられたり、食べたり、食べられなくしたりされたりする話。2020.12.18 3504 三角のモノDONE真八真。真下が報われる、あるいは一歩地獄へ進む話。9月か10月か。二十一時。帰宅ラッシュを終えて随分と時間が経っている。新幹線が止まるといっても、ここら一帯は人口が少なく賑わいも乏しい。ホームに立つ人もまばらで、他に行くあてもないから訪れる電車を待っているだけだ。 真下は出発を待つ電車の一両へ八敷と共に乗り込んだ。二人がけのシートが礼拝堂のように並ぶ中で、入り口からすぐ近くへ八敷を詰め込む。他の乗客がいないので席はいくらでも空いていたが、怪異を消滅させたばかりの男をなるべく早く休ませてやりたかった。「なんか食べるか?」 シートへと背中をべたりとくっ付けた八敷は真下の方を見もしない。ただ憂鬱そうに眉根を寄せて何かを考え込んでいるようだ。 真下はため息を吐きながらその場を離れる。出発まで時間があるわけではない。疲労が体の端々まで根を張っている。手っ取り早く栄養をとって、この疲れを少しでも軽くしなければ眠ってしまいそうだった。 人の少ないホームに売店はない。仕方なく自販機からおしること無糖のコーヒーを取り出した真下は、八敷のいる車両へと戻ってきた。 相変わらず他の乗客の姿は見当たらない。座席からはみ出した八敷の頭だけが目立っている。 真下は 2351 三角のモノDONE真八真。夏の終わりの風景。10月か11月に書いたやつ。『真下、少し困ったことになった』 けたたましく鳴り響くコール音に携帯電話の通話ボタンを押した真下は、電話口から伝わってくるその困惑に慌てて事務所を飛び出した。案件を片付けてきたばかりでコートも鍵も手に持ったままだったので、置いたばかりの鞄を手に持つだけで準備が完了したのは幸いである。 事務所の扉は施錠し、車のドアは解錠。後部座席に放り投げた鞄からは茶封筒が飛び出すが、真下はそれを無視してエンジンをかけるとアクセルを目一杯に踏み込んだ。 その際に茶封筒へ行儀良く収まっていた紙達がおどりでて、後部座席の足下で絨毯のように広がる。しかし、これも真下は気にしなかった。というより気付いてもいなかった。 頭の中には。豪奢だがどこか寂しい雰囲気の館に住む主が古い形の受話器を手に青白い顔で立ちすくむ姿しかなかったからである。 ガレージの扉すれすれのところへバンパーをつけた真下は運転席の扉を半ば蹴りつけるようにして開け放つと、そのまま九条館の玄関扉まで走りよりドアノブを押した。 しかし、扉は開かない。普段は鍵の一つもかけはしないのに、こんな時に限って重たい金属の抵抗が真下の掌に返ってくる。 7772 三角のモノDONE真八真。冬の風景。2020.12.08 4345 三角のモノDOODLE真八真。吸血鬼パロ。ごはんをきちんと食べないかずおくんを心配して定期的にみにくるさとるくん。2020.12.07森というのは生命の息づく場所である。鳥が、虫が、獣が、地に着ける足の数だけ生きている。だが、ここにはそういった生き物の気配というのが何一つ見当たらなかった。 九条館。鬱蒼とした樹木の壁の向こう、突然現れたその館を初めて眼にしたとき、真下は古いホラー映画に迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。 歴史ある建物特有の堅牢な出で立ち。名家の所有する館らしい瀟洒な外見。見る者が見れば美しいとさえ感じるだろうその館はしかし、刑事として数々の凄惨な現場を見てきた真下をもってしても息を呑むほどの異様さを放っている。夏の重怠い、じっとりとした空気の中で風もなく月もなく夜の静寂だけを纏ったその姿はどうしてだか、真下には巨大な棺桶のように思えて仕方がなかった。 森の奥には吸血鬼の住む館がある。 昔からここ一体にはそんな噂に事欠かなかった。曰く付きの土地なのか、あるいは暇人が多いのか。真下はそういったオカルトじみた話を信じていなかったし、飲みの席で恐々として語る人間を馬鹿にしたこともある。 だが。 真下は九条館のエントランスホールに立っていた。豪奢な装飾の数々を天井照明の淡い光が照らす。中央階段の 1768 recommended works はすみPROGRESS⚪️24/06/01進捗です。 drakenstelDOODLEMy friend gave me the idea to draw the unused Blade Lineage NPC in a situation. にかわ(もろみ)DOODLE体と声がデカくて炎 LL_tadanoDOODLE키스는 안돼요태대등번호 Oh_mochi_tsukiDOODLE何個食べても当たらない時ってあるよね? Oh_mochi_tsukiDOODLEなんで僕も呼んでくれなかったのさ イズおDOODLE MAIDOODLEボールペン一発描きディーヴァちゃん🤖🎶肩幅が広くなってしまった…💧 ApumiCAN’T MAKEカラム騎士団長と狂プラのお話ずっと書いてたけど、カラムさんをいじめていいものが悩んで公開できずにいたのでこっちで上げちゃう。とりあえず、ワンクッションってどうするんですかね?笑 4111