氷の呪いとラーメン王子氷結弱点の敵だと分かった今ならダウンが取れるかもしれない。
絶好のチャンスだ!
「ペルソナ! ジャックフロスト!」
ピキッ
目元の仮面から何か妙な音がする
「 「 「 「 ワンダー!? 」 」 」 」
「ヒッヒホヒー!」
あれ?手が白くてやけに丸い...?
結論から言うと、俺はジャックフロストになってしまった。
「ジャックフロストになってしまった」というのはどういうことかって?
どんぐり眼に間抜けに空いた口、関節がどこにあるか分からない腕に頭には二股にとんがりがついた帽子。
ここまで言えばもう分かるだろう。
更に最悪なのは口を開けば勝手に語尾が変わってヒホヒホ言ってしまうってことだ。
「で、どうしたらよいかしら、これは」
「うーん、可愛いし連れて帰りたいけど、さすがにウチは無理かな〜」
「俺も」
「この姿になってからなんだか溶けそうで怖いホ...」
「体が氷塊で構成されている以上常温で長時間存在するのは難しいのかもしれぬな...一体どうしたものか...」
「メメントスから出てもこのままなら対策を考えないといけないわ。UMETANEの業務用冷凍庫なら何とかなるでしょうけど、家からは距離が離れているし、車で迎えに行けたとしても父になんて説明をすればよいかは、難しいわね....」
「なら、俺がおやっさんに頼んで渡来軒の冷凍庫の空きスペースが借りられないか頼んでみる。渚が困ってるって説明すればおやっさんもきっと何とかしてくれるかもしんねぇ」
自分の頭上で会話が飛び交う。
普段見慣れない視点から仲間たちを見上げると、自分が幼くなったみたいで歳上のお兄さんお姉さんが必死に自分の世話をあれこれと焼こうとしてくれているみたいに見えて少し心強い。
キャトルとは背が同じくらいだから、こっちはお友だちって感じか。
まぁそれ以前に自分の手足が先端から溶けていきそうでさっきからそれどころじゃないんだけど。
その後は、こんな図体の怪物をどうやって人目に触れさせず移動するかという話になり、先輩が一足先に車を呼びつけて何とか車に乗り込むことになった。
「危なかったなぁ、マジで」
「ルフェルが空中で人目を引いておいてくれたおかげで何とか見られずに済んだ、ホ...」
「チャーシュー仕込んでご褒美やらねぇとな」
「ホヒー」
駿が閉店後の渡来軒の鍵を借りてくれたので、自分もアルバイト中に食材を出し入れしたことのある冷凍庫で今日はなんとか体を休められそうだ。
「俺はここから近ぇし、ルフェルを迎えに行かなきゃなんねぇから今日はお前んちに泊まるからな」
「ホヒ、そうしてほしいホ」
「しっかし、こんな事故が起こるとはな...散々だが、まだ小柄のこいつ、ジャックフロストだっけ?でまだよかったのかもな」
「でも、悲しいホ...」
「だぁー、悪かったよ!慰めにもなってねぇよな。こんなこと言っても」
「ホー」
「まぁ、元気出せ。明日には治ってるかもだろ?」
丸くてスベスベしてんなー、なんて駿が顔周りを撫でる。
触れてくれるのは嬉しいけど、体温でもっと溶けそうだし、こんな姿じゃ恋人らしいことなんてもっとできない。
「冷凍庫に入る前にチューだけしてホ」
「はいぃ?」
「ホ、ホ、ホ、」
こうなったらこの姿をとことん利用するまでだ、そう決意して、丸くてふわふわしてそうな見た目の腕を(あくまで見た目だけだ)ぷらん、ぷらん、と左右に揺らしつつ小さく跳ねてみる。
どうだ、可愛かろう。
「くっ....!クソ、アイツら普段見ても何も思わねぇのに渚がやると破壊力がすげぇ...!」
「ホー、かわいい俺のおねだり聞いてくれないホ?」
両手を頬に添えて小首傾げの上目遣い!
これで畳み掛ける!
「うおぉ....!抗えねぇ!」
「俺の勝ちホ」
駿が胸を押さえて蹲っている。
端から見たらものすごくアホみたいな絵面だろうな。
でもそんなことはいいんだ、今は。
「わーったよ。ほら、チュー」
「ホー」
口は虚ろだからたぶん当たったのは歯かなんかの部分だ。
でもいい、ハッピー。
「ホォ!!!!!???」
バフンッとカートゥーンみたいな煙が上がる。
「あ、戻った」
やっぱり呪いの解除のは王子様のキスってやつ?
ありがとう、俺のラーメン好きの王子様。