20230801_乱寂掌編/テセウスの船は沈みゆくテセウスの船は沈みゆく
「――ああ、いた! 乱数くん、待ち合わせに遅くなってしまってごめんね、南口はふだんあまりつかわないから、」
「もーっ、寂雷おっそ! 遅すぎるから連れて行かれちゃったんだからねっ!」
「連れて行かれた、というのは?」
「寂雷が待ち合わせに遅れたから、僕が連れて行かれちゃったって意味だよんっ!」
「? きみはここにいるし、それはなにかで流行っている言い回しか何かかい」
「んー、やっぱまだぜんっぜん分かんないかあ。ま、それならべつにいーんじゃない、分かんないならそのまんまでいなよ。知らなくても済むことや、知らないほうがいいことばっかりで世界は回転し続けてるんだから。でも、いつか教えたげるね。いつか、のはなしだけど」
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