私の人生の物語夜分に失礼します。ヴァシリ・パヴリチェンコ画伯のお宅でよろしいですか。
あなたが今お描きになっている絵についてお願いしたいことがあって参上しました。
驚かれるのも無理はありません。あの絵について、あなたは誰にも口外していないのですから。あなたは戦火で言葉を失われた。その相手、生涯の宿敵とも畏友とも思う者を偲んでの絵画だということを私は知っています。誰にも売る気はなく、どこにも飾る気もなく、ただ自分のためだけに描いておられるのも知っています。何度描いてもうまくいかず、破り捨てる毎日であることも知っています。もしかしたら、これから私のする話がなにかのお役に立つかもしれません。
立ち話もなんです。入ってよろしいですか。
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