嵐が来た 嵐の最中に生まれたのだと、母から聞いたことがある。陣痛が始まって病院に行く途中、タクシーのなかで雨と風が作り出す轟音を聞きながら、無事に生まれてきますようにと祈ったと母は言っていた。
そんな日に生まれたから、いつも心のなかで嵐のような感情が吹き荒れていたのだろうか。嵐はなにかをきっかけに膨らんで一虎の理性とか常識をすべて飲み込んでしまう。制御できない怒りや憎しみをまとった自分をいつも透明な壁越しに眺めていた。
ガラス製のドアを開けてテラスに出た。途端にぬるく湿った風が一虎の頬を撫でていく。
テラスには二人掛け用の席が三つ設置されていて、テーブル毎に照明がひとつずつぶら下がっていた。それらの電源を入れながら奥に進んでいく。
6331