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    @KeiKa_WR

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    こっちに移行するかもしれない

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    テスト。
    現代AUっぽいなにか。
    一部転生設定、オリキャラあり。

    #MDZS
    #温情
    kindliness
    #温寧
    wenNing
    #温姉弟
    warmSisters
    #現代AU
    modernAu

    温寧が現代まで生きてる話①その人を初めて見たのは、幼い頃に別荘地の山で迷子になった時だった。肩あたりで切り揃えられた黒髪の後ろ姿を見て、最初は女性だと思った。迷子になって数時間、山の中で迷子になった時は動かないことという教えと、待てども迎えが来ない不安感の中で押しつぶされそうになっていた温情にとって、その人影は間違いなく大きな希望であった。
    「まって!」
    ふらりと何処かに歩いて行こうとする後ろ姿を、遠くから慌てて呼び止める。数拍置いて、驚いたようにゆるゆると辺りを見回し、ようやく温情の姿を背の低い常緑樹の間に見つけたらしい。離れたところからわかるほど明確に、その人は目を見開いていた。顔を見て、その人が女性でなく男性だったことに気づく。草木をかき分けて近づいていけば、なるほど確かに背も高い。青白い顔は元からなのか、それとも具合が悪いからなのか。具合が悪いのだとしたらあまり頼りにならないかもしれないが、一人山の中を彷徨うよりはずっと心強いと思った。
    「あなた、この辺りの人?」
    この辺りはいくつかの別荘が集まっている。温情が入った森は共同市有地だったはずなので、人がいてもおかしくはない。
    男と距離を詰めながら、温情は声高に問いかけた。
    「え、ああ。うん。」
    頼りなく、おぼつかない返事。声が揺れているのは、急に話しかけられた動揺からだろうか。
    「どこの別荘の人?」
    念のために重ねて尋ねると、男は李夫婦の別荘だと答えた。温情のいる別荘の数軒先にある別荘で、李という老夫婦が所有している木組が美しい建物だ。
    男の答えを聞いて、温情は歩みを少し緩めた。確かあの老夫婦のには子がいなかったはずだ。
    「あの別荘にいるの?」
    「ぁ、ああ。あそこで李夫婦がいない間、住み込みで管理人みたいなことをしているんだ。」
    そう答えた男の声音は相変わらず頼りない者だったが、内容は得心いくものだった。以前李夫婦の別荘を訪れた際に、管理人がいると聞いた記憶があったからだ。
    李夫婦には子どもがいないので、温情を大変可愛がってくれていた。別荘にいる期間が被れば、遊びに来るように誘ってくれたし別荘にいない時期も、季節の折々で絵手紙などを送ってくれる。
    「李おばあさんたちに聞いたことがあるわ。あなたのことだったのね。」
    首をもたげていた警戒心を少し解いて、男のほうへ駆け足に歩み寄る。近づくと、男は彼の醸す雰囲気よりもずっと若い見た目であることが分かった。
    「帰り道、わかる?」
    「迷子になったのかい?」
    「…うん」
    正しく今の温情は迷子以外の何者でもない。幼い頃から何度も来ている別荘地だという安心感から、油断していたのだ。裏山に入ったのはこれで3回目で、そのうち2回は親と一緒だった。
    温情が頷いたのを見て、男は少しだけ口の端を持ち上げた。
    「こっちまで入り込んでくると少し、分かりづらい。少し歩けば、別荘地の屋根が見える場所に行けるよ。」
    着いてきて、と背を向けた男の声音は相変わらず小さかったが随分やさしくて。迷子の温情にとって、男の細い背中は頼もしく見えた。
    あの口元の動きは、彼の微笑だったのかもしれない。



    次にその男を見たのは、2年後の秋だった。
    同じように家族で別荘地を訪れて、たまたま同じタイミングで別荘地に来ていた李夫婦のところに、温情だけで遊びに行った。最初、男の姿は見当たらず李おばあさんに「今日は管理人さんはいないの?」と問うたのだ。2年前のお礼もしたかったし、この2年なんとなくずっとあの男の存在が気にかかっていた。李夫婦は男と温情が面識があると知らなかったらしい。驚いたように顔を見合わせていた。2年前の夏に裏山で迷子になっているところを男に助けてもらった話をすると、夫婦は再び顔を見合わせ、数拍おいておじいさんが居間を出て行った。一杯の紅茶が冷めるほどの時間が経過した後、戻ってきたおじいさんの後ろには例の男がいた。長身白皙、というよりも相変わらず病人のように顔色が悪い。そんな青白い顔に困惑を隠しもせずに、口元を微妙に引きつらせて「やあ」といった。それが温情と男の2度目の邂逅だ。
    それから、李夫婦の別荘に遊びに行くたびに男にも会うようになった。いつも蒼白な顔色をしていて、たどたどしく喋るわりに動きが機敏。だけど、繊細な動きが得意ではないようだった。得意でないといえば、表情を作るのも得意ではなく、口元を少しひくつかせるのが彼にとっての「笑み」のようだった。




    「管理人さん、今日は表情筋のトレーニングをしましょう」
    恐らく5度目にその男にあった時、温情はそう提案した。クラスの女子が面白半分に表情筋トレーニングなるものをしている光景を見て以来、次に別荘に行った管理人さんと表情筋トレーニングをしようと密かにずっと計画をあたためていた温情である。調べてみると、色々な道具も売っているらしかったが、手軽にできる内容のほうが抵抗感が少ない気がしたので、あえて道具を買いそろえたりはしなかった。使うのは己の表情筋と手、それから割りばし等である。温情の提案に、男はしばらくきょとんとした表情を浮かべ、おもむろに「表情筋トレーニング?」と温情の言葉をオウム返しにした。
    「管理人さん、表情筋はわかる?」
    「あ。うん。」
    「それを動かすのよ。筋トレと一緒で表情筋もトレーニングをすれば、動きやすくなるらしいわ」
    李夫婦に聞いた断片的な情報から察するに、彼は一年中この別住にいて管理の仕事をしているらしい。町に降りることもないというから、きっと人と交流がない間に表情筋が衰えてしまうのだ。せめて温情が別荘にいる間だけでも、トレーニングをすれば少しは変わるのではないか。
    「試しにやってみましょう」
    別荘にいる数日間ではあるが、もう何年もこの男とは会っているわけで、乏しい彼の顔の動きからある程度の表情を読み取れるようになっていた。いや、もともと彼は表情こそ乏しいものの、感情は表に出やすいほうだ。そんな彼は今、明らかに困惑している。さぁ、と促すように言ってテーブルを挟んで向き合うように座った。
    「私がやるのを真似してみて」
    男がうなずいたのを見止めてから、温情は「あ」と実際発生しながら口を大きく開けて見せた。続いて男が、温情がしたように「あ」と発声しながらロを大きく開ける。実際には、子どもである温情の半分も開いてはいなかったが…。
    「もっと、大きく口を開けるのよ。あと、驚いたように目を見開いてみて」
    こう、と実際に温情が目と口を大きく見開いて見せる。続くように、「あ」と発声を伴いながら男が目と口を大きく開いた。先ほどよりは及第点といえる。
    「じゃあ、次は上下の歯を合わせて、左右の口角を上げるイメージで『い』って言ってみて」
    こうよ、と言いながら温情が口を大きく左右に開いて見せる。わかったというように男はこくりとうなずいて見せると、温情と同じように口を噛み締めた口を左右に開いて見せた。
    「もう少し…最初は無理に口角を上げようとしなくてもいいわ」
    うんと、またうなずいた男の素直な返事に反して、彼の口はミリ単位も動かない。ギギギっといびつな音がしてきそうな様は、いっそブリキ人形のようだ。思わず笑ってしまいそうになるのをどうにか堪える。
    「管理人さん、頑張って」
    励ましてどうにかなるものでもないと思うのだが、そう言わずにはいられなかった。一所懸命に口を横一文字に広げようとする男の懸命な様が、かえって笑いを誘う。
    「この際、手を使ってみるのはどうかしら」
    男の表情筋は、温情の想定していたよりもずっと凝り固まっていたようだ。割り箸なども用意してはいたが、それ以前の問題だ。自力で動かないのであれば、手で補助してやるしかない。温情は、自身の両方の口端に小指をひっかけると、少し大げさなほど左右に引っ張って見せた。男が温情を真似て、黒い手袋をしたまま左右の口端に小指をひっかけて引っ張る。今度こそ、ギギギっと音がしたに違いない。何年凝り固まっていたのか分からない男の口が無理やり左右に大きく開かれた。普通の人よりも少し立派な犬歯が隙間から除く。出会ってから数年経つが、男がこんなに大きく口を開いた表情を見たのは、間違いなく初めてだった。
    「すごいわ、管理人さん」
    「うん」
    温情がほめると、少し嬉しそうに男がうなずいた。再び両手を使って口角を上げて温情が男に手本を見せる。不意にトントンと壁をノックする音がして、振り向けば李おばあさんがティーセットを持って入ってきたところだった。
    「阿情、温寧、調子はどう?」
    少し休憩にしましょう、と言いかけたおばあさんが、温情と男の姿を目にしてあらあらと可笑しそうに笑った。
    「二人とも、そんなに口の端を引っ張たら可愛らしいお口が大きくなってしまうわよ」
    ころころと上品な笑い声が心地よく二人を包む。
    大の大人と、少女が二人して頭を突き合わせて口の端を引っ張っている様は、側から見れば確かになんとも滑稽だ。せっかく笑いをこらえていたというのに、李おばあさんにつられて呆気なく温情の笑いの堰が崩壊した。
    「ふふっ、あはは」
    一度笑い出すと止まらなくなるのは何故だろう。こらえていた分余計に可笑しさが込み上げてくる。ギギギっと音がしそうな男の口角の筋肉も、筋肉はありえないくらい凍っているのに何故か分かりやすい男の表情も、黒い手袋を外さずに口の端に手を突っ込んだ様も、全部可笑しい。
    顔を上げると、口の端に小指をひっかけたままの男と目があった。いったんお終いにしましょうと言いたいのに、笑いが収まらなくて言葉が出ない。それでもどうにか息を落ち着かせて言葉を紡ごうとした時だった。

    男が、笑った。
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    Replies from the creator

    @KeiKa_WR

    DONE
    温寧が現代まで生きている話②ふぅと、細く温情は息を吐いた。気づかないうちに息を詰めていたようた。今日は少しだけ宿題に手間取ってしまった。ようやく終わった課題の束をトントンと揃え、そそくさと提出用のファイルに仕舞う。宿題を終えてからパソコンを立ち上げて、メールサーバーの確認をするのがここのところ温情の日課になっていた。
    初級中学校への進学が決まってすぐ、男とメールのやり取りを始めた。きっかけは、李夫妻からの勧めだった。温情自身は早めに受験を終えて進学先が決まったものの、友人のほとんどは未だ受験活動の真っ最中で、自然と放課後の時間を持て余すことが多くなった。相変わらず日々膨大な量の宿題は出るし予習復習は欠かしていないが、余った時間に暇を持て余すのは寂しい。そんなことを李夫婦への手紙へしたためたところ、男とメールのやりとりをしてはどうかと提案されたのだ。今どき古めかしいE-mailでのやりとりになったのは、男が携帯を持っていなかったから。せっかくなので温情も男にあわせてスマートフォンでなくパソコンでメールのやり取りをすることにした。学校でITの授業も受けていたが、タイピングはそこまで練習していなかったのでいい機会だと思った。
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