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    温寧が現代まで生きている話②ふぅと、細く温情は息を吐いた。気づかないうちに息を詰めていたようた。今日は少しだけ宿題に手間取ってしまった。ようやく終わった課題の束をトントンと揃え、そそくさと提出用のファイルに仕舞う。宿題を終えてからパソコンを立ち上げて、メールサーバーの確認をするのがここのところ温情の日課になっていた。
    初級中学校への進学が決まってすぐ、男とメールのやり取りを始めた。きっかけは、李夫妻からの勧めだった。温情自身は早めに受験を終えて進学先が決まったものの、友人のほとんどは未だ受験活動の真っ最中で、自然と放課後の時間を持て余すことが多くなった。相変わらず日々膨大な量の宿題は出るし予習復習は欠かしていないが、余った時間に暇を持て余すのは寂しい。そんなことを李夫婦への手紙へしたためたところ、男とメールのやりとりをしてはどうかと提案されたのだ。今どき古めかしいE-mailでのやりとりになったのは、男が携帯を持っていなかったから。せっかくなので温情も男にあわせてスマートフォンでなくパソコンでメールのやり取りをすることにした。学校でITの授業も受けていたが、タイピングはそこまで練習していなかったのでいい機会だと思った。
    男とのやり取りは、数日に1通メールをやりとりするような緩やかなものだった。最初のうちは、友人たちとメッセージアプリでやりとりをする速度に慣れきっていたので返事がなかなか返ってこないことに焦ったさも感じだが、次第に緩やかなやりとりの速度が心地いいと感じるようになった。特に急ぎの用事でもないので支障もない。いつしか温情は男とのメールのやり取りを『文通』と称すようになっていた。
    李夫婦と男の周りは、時間の流れがゆったりしていて心地いい。いつも別荘地という一種の特殊な空間で会うから余計にそう感じるのかもしれないが、なんというか都会的なせせこましさを感じさせないのだ。同年代の友達や、日頃の生活で関わる大人たちよりもゆとりを感じる。牧歌的といえばいいのか。いずれにせよ温情にとってそれはとても好ましいものだった。
    ゆっくりと起動したお古のパソコンを操作して、今日は返信が着ているだろうかと、少しドキドキしながらメールサーバーを開く。新着1件の文字。慌ててマウスを操作して男から届いたメールを開く。このメールサーバーは、男との文通用に開設したものなので、必然的に届くメールも男からのもの以外あり得ない。
    先日学校で行った工場見学の感想や、学校で起きた他愛のない出来事への律儀な返信が続く。男が別荘地から全く離れないのを知っているので、温情はなるべく日々の面白かった出来事などを細かく書いて送るようにしていた。男がその一つ一つに丁寧かつ律儀に返事をくれるのが嬉しかった。そのせいでお互いメールの文章がつい長くなってしまいがちなのだが・・・。
    「わっ!」
    最後の一文を読んで、温情の口から思わず歓喜の声が漏れた。
    『夏は別荘に来れないということで、残念です。海外旅行はどこに行くのかな。楽しんできてください。代わりにといってはなんだけど、李夫婦がクリスマスを別荘で是非一緒にどうかと言っているけれど、来れそうかな?』





    「まぁ、まぁ!いらっしゃい!」
    玄関ベルを鳴らすとすぐに扉が開いて、李おばあさんに迎え入れられた。抱きしめられた拍子に、カシミヤのセーターが頬にあたって少しくすぐったい。
    「李おばあさん、お久しぶりです」
    「また背が伸びたのではない?」
    「少し伸びたのよ」「髪も伸びてすっかりお嬢さんね、新しい学校はどう?」なんて会話を玄関先で繰り広げていると奥から李おじいさんが出てきて「寒いのだから早く阿情を中に入れておやりなさい」とおばあさんを窘めた。クリスマスを別荘で過ごす話はトントン拍子で進んだのだが、直前になって両親に学会の仕事が入ってしまい結果的に温情一人で李夫婦の別荘に泊まることが決まった。初級中学に進学して間もない温情が、別荘に一人長期滞在するのは流石に難しいので、今回は断ろうと事情を李夫婦に話すと、「阿情が嫌でなければ、うちに泊まればいい」と言ってくれたのは李おじいさんで、おばあさんも手放しにそれは名案ね!とさっそく温情の両親にメッセージを送ってくれたのだ。
    李おばあさんのあたたかい手に引かれて、すっかり慣れ親しんだ室内に足を踏み入れる。廊下を進みリビングに足を踏み入れると、大きなクリスマスツリーが飾られていて、思わず足を止めてそのツリーを見上げた。温情の背丈よりもずっと高い。
    「温寧が毎年飾ってくれるのよ」
    温情の目線に気づいた李おばあさんがそっと耳打ちするように言った。
    「毎年?」
    「そう。別荘に来ない年もね。毎年飾って、写真を送ってくれるの。」
    写真の撮り方も年々腕を上げてきてるのよと優しく微笑む。李夫妻も、毎年クリスマスに別荘を訪れる訳ではない。むしろ来ない年のほうが多いのではないだろうか。この立派なツリーを、誰も来ない別荘に毎年飾るのは大変な労力だろう。それに、一人でこの大きなクリスマスツリーと過ごす冬はなんだか寂しいなと感じた。
    「お嬢さん」
    「管理人さん、こんにちは。」
    呼ばれて振り返れば、一年と少し前に会った時と何一つ変わらない様子の男が立っていた。相変わらず青白い顔をしていて、表情も固いが、特訓の成果もあり以前よりは少し口角が上がるようになった気もする。…温情の気のせいかもしれないが。リビングは暖房が効いていて暖かいとはいえ、男の格好は随分と薄着のように思えた。冷え性の男のクリスマスプレゼントに防寒グッズを用意したのはやはり正解だったと温情は内心ガッツポーズを作る。
    スーツケースの中には李夫婦へのクリスマスプレゼントと男へのクリスマスプレゼントがそれぞれ入っており、李夫婦には手触り良いストールとマフラー、男には手袋と靴下を用意した。本当は手作りの何かをプレゼントしたかったのだが、進学準備や新しい環境での生活でバタバタするので間に合わないかもしれないと今回は諦め、代わりにそれぞれへのプレゼントに名前の刺繍を施したのだ。何回も練習して刺繍を入れたのでそこそこ綺麗に仕上がったのではないかと思っている。気に入ってもらえれば良いのだが。
    「新しい学校にはもう慣れたかい?」
    少し表情を和らげて、男が温情に問う。男が元来人懐っこい性格らしいということは、何年めかの夏に気づいた。まるで、仮面を被るように人を寄せ付けないようにしている。
    「少しね。まだまだ覚えなきゃいけないことが沢山!」
    「阿情は特進クラスだったか…勉強も大変だろう。」
    「毎日山ほど宿題が出るのよ」
    李おじいさんの言葉にうんざりした表情を作れば、可笑しそうに皆が笑った。男も「ははっ」と引き攣ったような歪な声をこぼす。(多分これも笑っているのだ)
    「さぁ、積もる話ばかりだけど先に荷物を客間に運んでしまいましょう。それから、お茶を淹れるわね」
    李おばあさんの言葉に、男がスーツケースを持ち上げる。案内されるままに温情は居間を出て客間へと向かった。





    ゆらゆらと目の前で赤い炎が揺れる。パチパチと薪が爆ぜる音が少し新鮮な気がして炎に照らされて顔が熱くなるのも気にならない。炎には催眠効果があるというのは本当だろうか。電気暖炉とは違う自然の炎は不思議な力があると思う。
    「ぉ、お嬢さん」
    どれくらい炎を見ていたのか、気づくと後ろにタオルを持った男が立っていた。
    「風邪を引いてしまうよ」
    「暖炉が暖かいから平気よ」
    男の言葉に反論してみるも、暖炉の火が直接当たらない背中側は確かに少し肌寒い。自覚した途端に冷気が体を上がってきたような気がしたが構わず暖炉の炎を見つめていると、見かねたように男が大判のタオルを温情の肩に掛けてくれた。ふわふわとして肌触りもいいので、ブランケットのように暖かい。「毛布を持ってこようか?」と問う男に首を振り、代わりに自分の横の空間を指し示す。少し迷っう動作をしたあと、男は温情の隣に座った。間に微妙な距離を取ってではあったが。
    「いつもメールをありがとう」
    暖炉の炎に照らされた男の横顔は、いつもより心なしか血色がよく見える。今度会ったら一度、ちゃんと文通のお礼を言おうと考えていたのだ。
    「こ、こちらこそ、ありがとう。学校のこととか、お嬢さんの周りで起こったことを聞けるのは楽しい。」
    ぎこちないけれど、おだやかな表情で男が言う。男にとっても温情との文通がそれなりに楽しい時間であったのなら嬉しい。
    「学校も忙しいと聞いていたから…きみの負担になっていないかと心配だった」
    「まさか!管理人さんとのメールはすごく楽しいわ。私のほうこそ、管理人さんの負担になっていないかと…」
    まるで日記のように、その日あったことをメールにしたためては送っているので、つい文量が多くなってしまいがちなので、律儀に返事を書いてくれるのが少し申し訳ない気もしていた。
    「う、ううん。そんなことないよ。」
    慌てて勢いよく男が首を横に振る。勢いがよすぎて目を回してしまいそうなほどだった。そんなに勢いよく否定しなくても…と言いかけて、自分が逆の立場だったらやはり同じように否定していたなと思い直す。それにしても、お互いに全く同じ心配をしていたなんて、少しおかしい。思わず噴き出した温情を、男が不思議そうに見つめてくる。
    「私たち、同じ心配をしていたのね」
    一拍置いて、「本当だ」と男も可笑しそうに笑った。心なしか、いつもよりも口元が強く孤を描いている気がして嬉しくなる。
    「学校でね、新しく友達が出来るたびに一人っ子だというと驚かれるの。友達は私に兄妹がいるなら絶対『上』だというんだけど。私は管理人さんと兄妹みたいだなって思って…」
    勢いに任せて、最近密かにずっと思っていたことを口にする。メールには書いたことがない。書く機会がなかったし、改まって文字に起こそうとすると何と書けばいいかわからなかった。それでも一度だけ、メールに書いてみたことがあったが、読み返していたらなんだか小恥ずかしくなってすぐに消した。
    「寧兄さんって呼んでもいい?」
    時間が止まった。
    そう錯覚するほど明確に、男の表情が固まる。ああ、これは踏み込んではいけない領域だったのかと、その瞬間温情は悟った。
    「無理にとは言わないわ」
    フォローするように言えば、男が慌てたように「そ、そうじゃないんだ」とどもりながら続けた。
    「実は昔、姉がいたから…。少し思い出してしまって」
    「お姉さんがいたの?」
    男が自分のことを話すのは珍しくて、思わず聞き返してしまった。少し逡巡する素振りを見せた後、ゆっくりと男が頷く。極端なまでに自分のこと…特に過去のことを語ろうとしない男にしては珍しい発言だ。『昔いた』ということは、今はいないのだろうか。もう少し詳しく話を聞きたかったが、この流れでこれ以上追求するのは気が引けた。男の口から、姉がいたという事実を聞けただけでも十分だ。
    「管理人さんが、管理人さんって呼ばれるのに違和感が無ければそれでいいわ」
    本当は少し残念でもあったが、今までの呼び名で支障があるわけではないし、返って呼び名を変えることでぎくしゃくしてしまうよりはずっといい。
    「ありがとう」
    それ以上なにも聞かなかったことに対してか、呼称を改めなったことに対してか。もしくはそのどちらに対してもなのか。その謝辞の意味が温情にはわからなかった。
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    @KeiKa_WR

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