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    みたか

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    星に願いをを踏まえた映画のエンディングのあたりの🦨と🐈
    今←市っぽいかもしれないし、そうじゃないかもしれない
    何かあったら後々手直しします

     誘われるまま参加したお花見が意外にも楽しくて、久しぶりに気持ちが晴れたような気がした。柿花(さん)もいたけれど、気にならないくらいには気分が良い。桜も満開、タエ子さんや白川さん、あと名前はきいたけど忘れてしまったゴリラみたいなお医者さんが持ってきたお弁当はどれもおいしかった。
     いつまでもこんな楽しい日常だったらいいのにと心底思ってしまったせいか、親身に話を聞いてくれる今井さんに、つい誰にも話していない事までしゃべってしまった。
    「えっ。市村さんアイドル辞めちゃうの?」
     くるくる変わる今井さんの表情は、いかにもしょんぼりといった具合に眉を下げている。
    「うん、まあ……流石にね。まだ事務所にもはっきり言ってないけど、わかってると思う」
     “休業中”のわたしはそこそこ元気だった。もうこの業界で働かなくてもいいと吹っ切れたからかもしれない。
    「ネットで『もう一人も何かやってるだろ』って言われてるしさ。そういう目立ち方してまでやってられないっていうか」
     元々向いてないな、って思い始めてたし。そう言おうと思ったところに、今井さんの言葉が重なる。
    「俺、仮面付けちゃうのもったいないなって思ってたんだ。だから素顔でアイドルできるのすごく、何ていうか……よかったなって思ったんだ。良かったっていうのも、あれだけど……」
     二階堂さんがあんな事になって、この人にとって良かったなんて事はひとつもないはずなのに。
     それにわたし、別にアイドルする程かわいくもないし。
    「市村さん、かわいいのに」
    「えっ」
    「えっ……? あっ、ご、ごめん。普通女の子にいきなりこんなこと言わないか、はは……」
    「ううん。ごめんなさい、褒めてくれたのに。ちょっとびっくりして……。わたしなんてかわいくもないしって、言おうと思ってたから。そんなこと言われたって今井さん困るよね」
    「困りはしないけどさ」
    「そんなことない、面倒くさいやつだって思うでしょ」
    「おっ、思わないって……! かわいさを売りにしてるアイドルだったら、それで悩むのは全然面倒くさくなんかないよ」
     さっきまで極端なハの字だった眉に、今度は力がこもっている。
     どうしてこの人みたいなファンがわたしにもついてくれなかったんだろう。
    「でも、市村さんのやりたいことをやるのが一番だよ」
    「……うーん、やりたいことっていうのも特にないんだけどね。一年はバイトして、次の春からとりあえず何かの学校行こうかな、くらいで」
     バイト、とは言ったものの労働に対する熱意はほとんどない。そうせざるを得ないだけで。
    「そっか。それなら、市村さんのペースでがんばったらいいよ」
     聞き覚えがある言葉だった。
     懐かしい感じがした。アイドルがしたいって、まだ胸の片隅にそんな気持ちが残っていた頃に掛けられた言葉……。ほんの数ヶ月前の話とは思えないくらい昔の事に思える。
    「……って、アイドル追っかけながらフリーターしてる俺に言われても、って感じか」
     今井さんてなんの仕事してるんだっけ、と思ったその一瞬で、いろんな記憶がいっぺんに頭の中に湧き出してきた。今しがた感じた懐かしさもトリガーだったかもしれない。
     この人、キャバボーイさんだ。
     何で今まで気づかなかったのか不思議なくらいだ。
    「……今井さんてさ、もしかして、わたしがやってた配信見に来てくれたことある……?」
     確信を持ちながらも恐る恐る訊ねてみる。
    「そりゃあるよ! って言っても、ごめん、毎回じゃなかったけど……。仕事じゃないときは必ず見に行ってたよ」
     やっぱり。でも何で。二階堂推しなのに。あのとき、涙が出るほど嬉しかったあの言葉はわたしを一番に想ってくれてる人の言葉じゃなかった。
    「流星群見てるって」
    「うわぁ、覚えててくれたの? それ、俺がコメントしたんだ」
     思い出してしまう。
    「あのとき今井さん、何かお願いした?」
    「うん、した」
    「何て?」
    「それは……内緒」
     嘘のつけない人だ。急に元気がなくなったところを見ると、きっと二階堂さんの事をお願いしたのかも。売れますようにとか、もしくはもっと利己的な内容かもしれない。
    「市村さんは?」
    「自分は内緒なのにわたしには訊くの? 教えるわけないじゃん」
     思い出してしまう。あのときの気持ちを。
     胸が張り裂けそうって、こういう事だ。裂けた体の真ん中からえぐられてそのまま全部裏返しになってしまいそう。
    「あはは。でも、今でも覚えてる願い事なら、叶うといいね」
     満開の樹から花びらが降り続けている。
     散る様を美しいと思うだなんて不思議だ。中途半端なまま、無責任なネットの書き込みに原因を擦り付けて投げ出すわたしは今アイドルとしての散り際にいる。何の見どころもなく終わろうとしている。
    『市村さん、かわいいのに』
     もう一度聞きたかった。ねだる勇気もないのに、もう一度、嘘のつけないこの人の口からそう言ってもらえたなら、続ける勇気をもらえる気がした。
     でも、だからもう終わりなんだ。

    「今井さん、アイドルの子と仲良くなれてよかったですやん。何の話ししてはったん」
     話がひと段落してしまい、ふたりとも静かになったところに芸人のひとが声を掛けてきた。二階堂さんの彼氏の相方のひとだ。今井さんと知り合いなんだろうか。一応、かつて仕事でお世話になった事もあるひとだ。どことなく会釈をしておく。
    「別に市村さんがアイドルだから話しかけたわけじゃないし、変な言い方するなよな」
    「ほえー。今井さん、アイドル語り以外話の引き出しあったん?」
    「柴垣お前……、」
     妙な沈黙の後、わざとらしいくらい大きく深呼吸をして、今井さんはわたしにむかってにっこりと笑った。
    「市村さんがかわいい、って話をしてたんだよねー」
     それ結局アイドルの話やん! という芸人のひとに、今井さんが何か反論していたけれど、もうわたしの耳には入ってこなかった。
     たった今、今井さんから投げかけられた言葉だけが頭上から桜の花びらのように降ってくる。
     わたしの頭上にだけ、降り続ける。
     あの日の願い事を思い出す。


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