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    みたか

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    @mitaka_kotsu

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    🦨🦊
    誕生日をねつ造しています。
    これ(https://twitter.com/mitaka_kotsu/status/1571522583471992833?s=20&t=bh03suUogZmXHbxaUXGCmA)の誤字を直したり語順をかえたりしただけ。

    「運が悪い!」
     仕事から帰ってくるなり旬くんはずっとそうわめいている。かと思えば「本当にすみません」とかわいそうなくらいにしょぼくれて何度も俺に頭を下げてきたりして、いつもの事ながら見ていて飽きない子だ。浮いたり沈んだり百面相をしているのは、自分の誕生日に俺と休みを合わせてデート(旬くんはそう言っている)に行く約束がふいになってしまったからだ。何でも、ボーイである旬くんを指名して飲みに来る上客がいるらしく、丁度誕生日の日にその『ご指名』が入ってしまったそうなのだ。
     鼻持ちならない話ではある。指名が入るなんていう話も今知ったし、旬くんが俺の知らない男に気に入られて酒の席に座らされているなんて考えただけでも……、腹が立つので口には出さないが、誕生日である事を知っていてその日に来店するのではと勘ぐってしまう。
    「うわー!」
     俺の隣、ソファの上で膝を抱えてしょぼくれモードに入っていた旬くんが突然顔を上げて叫んだ。
    「なんだ、今度はどうしたの」
    「大事なこと忘れてました、俺、いつも自分の事ばっかりで……」
    「え、何? 何の話」
     旬くんの両手が俺の肩を鷲掴みにする。
    「誕生日ですよ! 冬樹さんの! 俺、知らないんですけど!」
     確かに、そんな話はしたことがない。旬くんの誕生日だって、此度のデートの約束の件をきっかけに知ったのだ。
    「じゃあ当ててみてよ。正解したらその日はデートしてやるから」
    「三百六十五分の一⁉」
     ものすごい難題を突き付けられたかのように元から丸い目を更に目を丸くしている。実際難題ではあるが、デートなんていつでもできるのに。
     旬くんは俺の両肩を掴んだまま、うーん、とわかり易く「考えるポーズ」で呻っている。こういう芝居がかったリアクションが面白くてついからかってしまうのだ。
    「『冬樹』ですから、冬生まれですよね?」
     俺も楽しくなってきて、にやにやしながら旬くんを見つめる。
    「合ってるときは合ってるって言ってくださいね⁉ 十二か月を四分割で……十二月~二月あたり、かなあ。ここまでの推理は合ってますか?」
     それは果たして推理という程か。問いかけには黙ったままでいたが、思わず笑いが漏れてしまう。
    「あっ、鼻で笑った! っていうか違うんですか? そうしたらもうヒント皆無じゃないですかー」
     意外と諦めるのが早い。あんなに自分の誕生日のデートに拘っていたくせに。
    「もう意地悪しないで教えてください」
     片頬を膨らませて恰好だけ怒ってみせるその姿は、四捨五入で三十の男とは思えない。このかわいらしい〈今井旬〉といういきものを、俺意外の男が独占する時間があるなんて。
    「十月四日」
    「えっ」
     ぽつりと呟いた日付に、驚いた顔が正面から見つめてくる。肩を掴んでいた手は脱力し、ずるずると俺の体から剥がれていく。
    「十月四日だってば」
     もう一度繰り返す。
     旬くんの頭に、きっとこの日付は刻み込まれている。――三矢ユキの命日として。思った通り、あんなにかわいらしい表情を作っていた顔から、血の気が引いていく。
    「本当ですか」
    「本当だよ」
     今日一番沈んだ表情で、「そうなんですね」と小さく呟いた後は言葉をなくしているその肩を抱き寄せる。
    「十月四日、俺が君に助けてもらった日」
     旬くんの肩が微かに震えた。ためらいがちに俺の背中を抱き返してくる両腕が愛おしい。この細くて、俺よりも小さな腕によって、俺の生き方が変えられたのは確かだった。

     身元引受人がいなかったために満期で釈放になった後、住居や就労の支援を受けながら暮らす中で、先も見えず生きる目的も見当たらない日々。この日だけは、吸い寄せられるように深夜、あの埠頭に向かった。
     死のうと考えていたわけではなかったが、死ぬのかもしれないな、と他人事のように思ってもいた。
     何も変わっていない倉庫群。揺れる漆黒の水面は、あの子の美しい髪を思い出させた。

    「あの時一旦死んだ俺は、今君に生かされてる」
    「あはは、なんかバラードの歌詞みたいですけど。しかも全然売れないやつ」
    「うるさい、茶化すな」
     黙らせようとキスをする。薄く開いた唇に、互いの舌の先だけが触れると、旬くんは唇を離して思い詰めたように言った。
    「俺、やっぱり出勤断ろうかな。指名料が発生するわけでもないし」
    「だめ。仕事は仕事。上客なんだろう、がっぽり払わせて帰らせろ」
     そう、所詮は仕事だ。俺に見せる顔と客に見せる顔が一緒のはずがない。触れた舌先の甘さに自分の特権を思い出していると、「がっぽりって言葉がなんか昭和」と旬くんが隣で笑った。

    ◇◇◇

     本当の誕生日なんて、調べようと思えばすぐにわかるのだ。
     俺は実際は夏生まれである。寒い冬を耐え抜く樹木のように強く育って欲しいからと、夏生まれなのに冬樹と名付けられたのだ。生まれた瞬間から滑稽な人生だった。
     寒い冬はもう、耐え抜いただろうか。
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