夢目が開くと薄く濁った青の空が広がっていた。
垂れていた腕を頭に乗せ。「あぁ、またこの夢だ。」と思考が揺らいだ。
広い空の天井と無限に続きそうな水面の中、瓦礫と現実の自室にもあるソファやテーブルが置かれたこの空間を僕は何度か夢に見た。
ベッドで眠ればいいものを、いつも目覚めるのは一人暮らしには大きすぎたソファの上。
だが、何故かとても心地がいい。ここで永遠に眠り続けたいとすら思える。そんな夢。
「(今日はもっとーーーーー……)」
瞼を閉じる。夢のさらにその奥に引き込まれてしまいたい。今日は疲れた。
そんな時、僕の頬を包む感覚がした。そして柔らかい感触が唇に触れる。
その感触はとても優しくて懐かしい気がする。
まるで親鳥から餌を与えられる雛のように、僕はその行為を受け入れた。
そして口の中に何かが入り込む。それは僕の意思とは関係なく動き回り、やがて舌に触れた。
甘い味がして、頭がくらくらとする。脳の奥底まで痺れていくようだ。
息ができないほど苦しくて、でも気持ち良くて。ずっとこのままでいたいと思った。
「……んっ……ふぅ…………」
水音だけが響く部屋の中で、誰か聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がした。
その声は優しくて僕を撫でる手も優しくて泣きそうになった。誰だろう?誰がこんなにも優しい声で僕に触れてくれるのだろうか。
『ミコト』
僕の名前を呼んだ。声の主は僕を優しく抱きしめた。自分と同じ体格の男…知らないはずの人に抱きしめられているのに不安は一切なくて。目を開けて確認すればいいのに瞼が重くて開けられなかった。
『俺がいるから。大丈夫だ。』
手が僕の胸元に触れる。心臓の音を確かめるようにゆっくりと動いていく。
その手の動きに合わせて身体が熱くなって、吐息が漏れてしまう。
自分の呼吸音が耳に届いて恥ずかしくなった。それでも離れたくないと思ってしまう。
『俺はお前を見捨てないよ。だから安心しろ。』
耳元で囁かれる言葉はどこか甘く感じられた。聞いたことのないはずなのにひどく懐かしい声色だった。
どうしてかわからないけれど涙が出そうになる。
『愛しているよ。ミコト。』
名前を呼ばれてまたキスをされた。今度はさっきよりも深くて長い。何度も角度を変えて貪られる度に頭の奥が痺れて何も考えられなくなる。
『ミコト、ミコト……。』
名前を呼びながら男は僕を強く強く抱き締めた。
『もう離さないからな。』
そう言って微笑んだ男の顔はーーーーーーー
「うわぁあああ!!!」
勢いよくベッドから起き上がる。全身汗びっしょりで着ている服は肌に張り付いて気持ち悪い。
「ゆ、め?」
なんの夢を見たのか思い出そうとするが、頭に霧がかかったみたいにぼんやりとして思い出せない。
ただひとつだけわかることは、その夢が幸せだったということだ。
「……シャワーあびよ…」
ドクンドクンと脈打つ心臓が落ち着くのを待ってから。
***
俺はミコトのいなくなったソファの上に座った。
あそこまで接触できるなんて…と多幸感に包まれる。だが同時にまだ足りないとも思ってしまう。もっと欲しい。もっともっと。
外に疲れてここにいたいなら。いつまでもいていいから。
だから早く帰っておいでよ。