Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    RERU

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    RERU

    ☆quiet follow

    真ばじ。しれっと生存軸。

    graduation開け放していた窓から、桜の花びらがひらり、と舞い込んできた。
    真一郎は流し読みしていたバイク雑誌を傍らに置くと、床に舞い落ちた淡いピンク色のそれを指先で摘み、柔らかな日の光に透かして眺める。光に晒された所為か、幾分か赤みが薄れた花びらは場地の肌の色に良く似ていた。特に、うなじの色に。

    場地は色が白い。
    肌は肌理が細かく、手触りがひどく滑らかだ。おまけに腕や足にほとんど毛が生えていないせいか、パーツだけ見れば女子そのものである。
    これだけ毛が薄いとなると、下も産毛みたいなふわふわの毛しか生えていないのではないか。むしろ不毛の大地なのではないか。そんな疑念と好奇心に駆られた真一郎は、思い切って場地に聞いてみようとした——が、はたと気付いた。
    青っ洟を垂らしていたような頃から、真一郎くんのカノジョになりたい、だの、真一郎くんとチューしたい、だのと、顔を合わせるたびに口にしてきた場地のことだ。
    『ケースケって下の毛生えてンの?』などと真一郎が尋ねようものなら、『……生えてンのか、生えてねェのか、真一郎くんの目で確かめてみてよ♡』などと、語尾にハートマークを付けながら、いそいそと服を脱ぎ始めるに決まっている。
    髪が鎖骨の下あたりまで伸び、仕草も表情もめっきり色っぽくなってきた場地にそんな事をされたら、大人の余裕だとか、交わした約束——『お付き合いはするけど場地が卒業するまで、チュー以上のことはしない』——なんて、全てかなぐり捨てて押し倒してしまうだろう。それはダメだ。絶対にダメだ。男の約束は絶対なのだから。
    だからこそ真一郎は今日まで、ふと気を緩めれば暴れ馬の如く爆走してしまいそうな性欲を、必死に抑え付けてきたのである。

    何度、場地のうなじを伝い落ちる汗を舐め取り、塩気を味わいたいと思ったことだろう。
    何度、場地曰く『食っても食っても肉がつかねェ』華奢な体に余す所なく手を這わせたいと願ったことだろう。
    何度、場地の薄い腹がぽっこりと膨れるくらいまで、自分の欲を注ぎ込みたいと夢想しただろう。

    だが、そんな我慢の日々も今日で終わりだ。
    場地は今日、卒業式を迎える。不真面目を絵に描いたような真一郎ですら成しえなかった、義務教育での留年という珍事を何とか乗り越えて。


    「やべぇ、もうこんな時間じゃん」


    ふと、壁にかかった時計を見れば、そろそろ11時になろうとしている。卒業式というものは大概昼前に終わるものだが、着替えもバッチリ済んでいるし、今から愛機をブッ飛ばせば、場地のお出迎えには十分間に合うだろう。
    今日、真一郎が学校まで迎えに行く事を、場地には知らせていない。場地はああ見えてサプライズ——それも、とびっきりロマンティックなやつ——が好きだ。いつだったか一緒にテレビを見ていた時、花火でプロポーズ!みたいな企画に、うっとりとした眼差しを注いでいたし、お袋さんが若い時に集めていた少女漫画をこっそり読んでいることも知っている。
    流石に、100本の赤い薔薇で作った花束は用意できなかったし、フラッシュモブを仕込むこともできなかったけれど、いつものラフな服装ではない——スーツでバッチリキメた(ワカが貸してくれたスリーピースだ)真一郎が校門で待っていたら、きっと場地は感激してくれるはずだ。もしかしたら感激のあまり泣き出してしまうかもしれない。場地はロマンティストであると同時に、ひどく涙もろいところがあるから。


    「さて、と。お姫サマを迎えに行きますか」


    今頃、何も知らない場地は、赤と白の縞々に彩られた体育館の中で、背筋をピン、と伸ばしながら、校長だか誰だかの挨拶をクソ真面目に聞いているのだろう。その姿を思い浮かべるだけで、自然と笑みが溢れてくる——真一郎はふん、ふん、と上機嫌に鼻歌を歌いながら、階段を降りていった。


    ○○○


    「場地さん、今日の集まり行きますよね?マイキー君が企画してくれたヤツ」


    ブレザーのボタンは袖も含めて全滅。ワイシャツのボタンも真ん中あたりの物を一つだけ残して、同級生及び在校生の女子たちに全て剥ぎ取られてしまった無残な有様の千冬が、やや疲れたような表情を浮かべながら、隣を歩く場地にそう尋ねる。


    「ア?……そーいや、マイキーが卒業パーティーしてくれるって言ってたなァ…」


    千冬ほどではないにしても、ワイシャツやブレザーのボタン(第二ボタンは真一郎のために死守した)だけでなく、艶やかな黒髪を結っていたヘアゴムまで奪われてしまった場地は、絡れた髪を指先で梳きながら、千冬の言葉に今しがたそれを思い出したように、ああ、と頷いた。
    気心の知れた友人達と、羽目を外して馬鹿騒ぎをするのもきっと楽しいだろう。だが、場地が本当に祝って欲しい相手は別にいて——

    ——会いてェな、真一郎クンに。

    真一郎の、屈託のない笑みを思い浮かべながら、千冬に悟られないよう小さくため息を漏らす。
    真一郎と交わした約束を、場地はきちんと覚えている——『卒業するまで、チュー以上のコトはしない』。それはつまり、裏を返せば『卒業したら、チュー以上のコトをする』ということだ。
    無事に卒業式を終えた今なら、真一郎は自分にチュー以上のコトをしてくれるのではないか。あの、節くれだった綺麗な指で、余す所なく、自分の体を暴いてくれるのではないか——

    ——会いに、行っちまおうかな。

    ひとたび、真一郎の顔を、声を、仕草を思い出すと、もう止まらなかった。
    万次郎が企画してくれたという集まりには後から顔を出すとして、先に真一郎に会いに行こう。そして、言うのだ。『卒業したから、オレを真一郎クンのモノにしてよ』と——兎にも角にも、一旦家に帰って、このボロボロになった制服を着替える方が先だが。


    「……ン?場地さん、アレ…」
    「ア?どうしたンだよ、千冬ぅ、——!」


    千冬の訝しげな声に足を止め、その視線の先を見つめる——と、校門の側に立っていたのは、


    「真一郎クン…!」


    見慣れない、けれど良く似合っているスーツ姿で、バイクに跨っている真一郎で。
    真一郎も、場地と千冬の姿に気付いたのだろう。『よォ』とでも言っているかのように、小さく手を上げてみせた。
    ぶわり、と胸の中に温かな何かが広がっていくのが分かった。カラダを突き動かす温かな何か——その衝動に身を任せ、場地は真一郎の元へと駆け出す。
    真一郎の為に死守した第二ボタンと、卒業証書が入った筒をきつく握り締めながら。



    end
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭💒💒💒💒💒💞💞💖💖💒💘💗
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works