お題「紅葉」「コナン君、おかえり」
「ただいま、安室さん」
「あれ、右手の指ちょっと見せて?」
下校中、掃除をするためポアロの玄関先に出ていた安室と鉢合わせて挨拶をしていると、目敏くこう尋ねられた。コナンは咄嗟に右手を握りこむ。しかしそれを見逃さない安室がすぐに手首を掴み、指を広げてまじまじと見つめてきた。何となくバツが悪い。人差し指には絆創膏が巻かれていた。
「えっと、今日学校の教室でちょっと切っちゃって」
アハハ……と苦笑いしながらコナンは正直に告白する。大した怪我ではない。割れた花瓶を拾った時に破片で少し切っただけだ。その時は出血もしたものの今はすっかり止まっている。
それを聞いた安室はしゃがみこみほっとしたのか小さく息を吐いた。でもまだ指は掴まれたまま放してくれる気配はない。
「コナン君、時々そそっかしいから心配になるよ。大した怪我じゃなくて安心した。」
それにしても、と続けた。
「こんな紅葉みたいな小さな手でいつも色んな事を成し遂げてるんだな」
スリ……と大きさや手触りを確かめるように安室の大きくて少しかさついた手がコナンの手を包み込む。安室の高めの体温の手が触れていると心地良い。この手が拳銃を握ったり、器用にサンドイッチやケーキを作るのか、とぼんやりコナンは眺めていた。安室は最初するすると手の甲を撫でさすっていたが徐々に手の平側に移動して、その内それぞれの手指を絡めるような触れ方に代わっていった。向かい合ってまるでこれでは恋人繋ぎをしているみたいではないか。
コナンは急にいたたまれなくなり、思わず手をふりほどいた。あっさりと手を解放した安室は赤面するコナンの耳元で囁いた。
「君は蘭さんや周りの人達が困った時にこの手を惜しげもなく差し出すんだろうね。でももし君の身に何か起こりそうだったら、僕にこの手を守らせてもらうよ」
覚えておいてね、と言うと安室は立ち上がりポアロの店内に入っていった。バーロー、それはこっちの台詞だっつーの。そう呟いたコナンは、しばらく閉まったドアをじっと睨んでいた。