終煙怪奇譚:「誰そ彼、その声は、」.
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『それはこっちの方がいい』
また今日も声が聞こえた。
幼い頃からこうだ。何かに迷う時、危機を回避する時、失敗して泣きそうになった時は宥め、子供ながらに悪さをしてしまった時は親に見つかる前に諭すように声が出てくる事もある。ポケットから。
ただ、最終的には己で決めるので、その声に沿う事もあれば携えた小さな反抗心で沿わない事もあった。
「お前は何にする?」
「……そうだな」
夕の色も瞑色に変化しつつある街中を抜けた先、訪れた店の卓上で、品書きの羅列を眺めながら通り過ぎたいつもの声をやり過ごす。
喉が渇き、まずは茶かそれとも酒かで迷い、けれど今の状況、結局の所最後には酒をあおる事になるのだから――
『無駄だろう』
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