Wisteria:零れ話(2)●「Wisteria:零れ話」について。
本編閑話タイトル其々のおまけのような話、補足や本編その後、とても短い話・隙間話や納めきれなかったお話達。時系列は都度変わります。大体本編と同じ様にいちゃついてるだけの他愛のない話。
以下は本編と同じ注意書き。
○「Wisteria」に含まれるもの:創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・ファンタジー・なんでも許せる人向け
異種姦を含む人外×人のBL作品。
世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
○R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。
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【項目 Wisteria:零れ話】
「外へ出るのが…?:101」
「寂しさは何処から来るの?」
「外へ出るのが…?:101」
「じゃ、あとでね」
重い物はむつに任せ、其々手分けして目的の場所に向かう事にしたその道中。
むつの方はもう少しだけかかるかもしれない。何処かに寄り道をして行こうかな。目当ての物は得る事が出来たので、あとはもう少しだけ寄り道して……――
そう考えていた思考の端に、ベンチに腰掛けている顔色の悪い人物が映り込む。
「大丈夫かな?」
放っておいたらそのまま折れてしまいそうで。
声を掛けてみようと、すでに足はその人物へと向けられていた。
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「すまないトーア。遅くなった」
「大丈夫だよ」
待ち合わせの場所へ来て暫くすると、ムツキが足早に此方へ向かい辿りつく。待たせると悪いと思ったのか、慌てて此処へ向かったらしい。
つい先ほど買って飲んでいた冷たいお茶を傍に置くと、そこへ置いていたもう一人の分を目の前の人物へと渡す。重さのある荷物を軽々と運んでいた人物は足元へそれを置くと、礼を言いながら差し出されたお茶を受け取った。
「あのね、むつが買い物している間に新しい友達できちゃった。最近此処に移って来たんだって」
嬉しそうな笑みがうきうきとしている人物に浮かぶ。それを眺めていた人物も笑みを浮かべた。
「この前ルカと友達になったばかりなのに、もう友達が増えたのか。凄いな。……意外と浮気者なのか? トーアは」
「せめてよわたりじょーずって言ってよ!」
冗談めかしては嬉しそうに笑みを浮かべる自身の心情に、それを悟っては誇らしげなトーアに言葉を渡される。(果たしてそれも当て嵌まるのだろうか?)と苦笑した。
移り棲み、好奇心と明るさを携えて、様々な意味で初めて見るものが多いであろうこの世にも、臆することなく元気に駆けていく。誰かと対面しては恐れ無く会話している事も多い。
目の前の子は生きる事を目一杯楽しんで跳ねる様に謳歌していた。
「蛇と暮らしている子でね、今度植物園に遊びに来てって誘ってみたんだ」
飲み終えた空容器をくずカゴに捨て、寄り掛かっていた石柵から離れ立ち上がる。
「外へ出るの、楽しいね。此処に移って来てよかった」
楽しそうに、そしてわくわくと弾んでいる目の前の唯一の家族を目にして、今度は此方が頷きながら話す。
「鍵屋に礼を言わないとな」
〝あの二人〟が居なくならなかったら、鍵屋が立ち寄らなければ、あのままあの場所に居たら。もしかしたら二人で消える事を選んでいたかもしれない。此処に来たからトーアがここまで明るくなったのだろう。
『貴方達を造った私達は、神様に等しいのだから従いなさい』
そういえばそんな事をあの二人は言っていたな。
〝自称カミサマ達〟なぞ守ってはくれない。大切なものも〝自分自身〟も、〝誰か頼み〟にしてはいけない。自分達の脚で立ち上がり歩かなければ。
「あんな人達を家族だなんて思えないよな」
ぼそりと呟くそれは空気に混ざり、溶けていく。そして歩き出し始めていたトウアに声を掛けられた。
「帰ろうか、むつ」
ただ一人の家族と共に、沢山の植物達が待つ我が家へと歩き出していた。
「寂しさは何処から来るの?」
「そうだ、飴が残ってたかも」
お腹は空いていないのに、なんだか口寂しい。
何だか物足らなさがついて離れず、添えていた指で唇をなぞる。そしてそういえばと棚の中に入れておいたものの存在を思い出した。
箱の中から丁寧に包まれた可愛らしい飴粒を一つ摘まむ。くるりと開くと薄黄色の甘い粒が現れた。それをぱくりと食むと、優しい風味が口の中に広がっていく。けれど――
「うーん……」
長椅子に座り、口の中で甘い粒を転がしながら首を捻った。視線を移す飴の包み紙を、指先で弄り畳んではなぜ晴れないのか思案する。
すると何時の間にか部屋へ来ていた蛇が、その指先を映す視界の端ににょろりと映り込んで来た。
「どうしたんだ?」
「えっと……何だか物寂しくて。それで、飴が残っていたの思い出したからそれを――」
蛇がぴとりと藤へ口を合わせると、ちろりと舌先で唇を舐める。言葉を発していた隙間から舐め取られ、微かに自身の舌に相手の舌先が触れていった。
「美味いな」
ふっと笑った様に感じるその相手は、恐らく飴に関して言っていないかもしれない。突然味見された藤の顔は赤く染まっていく。
「その味と同じ様な色をしているな」
そう言う蛇は満足気にしていた。突然の事に固まっていた藤は、言葉を返そうと唇を開きかける。
だが、カラカラとなった外の鈴の音に、言葉が口の中に残されてしまった。
「私が行くから休んで居ろ」
するりと身から降りていく蛇を見守る。
やがて林檎の味わいを口に残したまま、ぼふっと傍に置いてあったクッションに顔を埋めた。
何より恥ずかしいのは、蛇がした味見で口寂しさが満たされてしまった事だった。
- 了 -