Wisteria:零れ話(3)●「Wisteria:零れ話」について。
本編閑話タイトル其々のおまけのような話、補足や本編その後、とても短い話・隙間話や納めきれなかったお話達。時系列は都度変わります。大体本編と同じ様にいちゃついてるだけの他愛のない話。
以下は本編と同じ注意書き。
○「Wisteria」に含まれるもの:創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・ファンタジー・なんでも許せる人向け
異種姦を含む人外×人のBL作品。
世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
○R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。
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【項目 Wisteria:零れ話】
「空色の爆弾」
「健やかなる時も」
「空色の爆弾」
「これはどういうものなんですか?」
じりりと陽射しが照っている空の元、無事に依頼を達成し、その帰りに少しだけ散歩でもと寄り道をする。特に目的地を定めず、気の向くままに歩いていると、以前トウアとルカと共に立ち寄った事もある駄菓子屋まで辿りついていた。
日差しは傾き出しているものの、まだまだ暑さが漂うので何か冷たい物でもないかと覗き込む。そして見つけたのが光に照らされきらりと光る空色の瓶だった。
「そうだねぇ、例えていうなら〝空色の爆弾〟かね」
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藤が息を飲み、思い切って手元の瓶の上から栓をぐっと抑えると、弾んで抜ける音がポンッと響く。店主の言葉が過ると、「なるほど」と納得をする。
そのまましばし待つと、余韻を残す音を発したそれは落ち着きを取り戻し、空色の爆弾から恐る恐る抑えた手を退かしていく。まんまるい珠がころころと中で揺れていた。
ついさっきまで恐々としていたのに、なぜだか魅力的に感じるその中身を見ては向けられた瞳がきらりと光る。そうして好奇心で光る眼を、今度は空色の瓶を難なく開けていた朽名へと向けた。
「綺麗。水の中みたいだね」
ころりと転がる珠とふくふくと上がる気泡に、柔らかな笑みが楽しいと伝えてくる。隣でそれを聞いていた蛇は、今まさに輝く淡い白縹の瞳の方がより惹かれたが、口にすると隠されてしまうので黙っておく事にした。
太陽に照らされて煌めく空色の瓶を片手に、二人は店先の長椅子に隣り合って腰を掛ける。
瓶を傾けてはからりと音を鳴らす。
そしてしゅわっと口の中で弾けた炭酸に、藤の肩が揺れた。
「口の中で跳ねた!」
興味深さと好奇心を転がしては驚きに目を丸くする。藤の一連の反応が面白くて蛇は微笑を溢した。
「喉越しが面白いな」
藤がくすくすと笑う。
「大変なものを飲んじゃったね」
空の中にも爆弾が潜んでいた。
いや、これを含めて爆弾と例えていたのかもしれない。瞬間で弾けるそれは驚きはするが、喉越しよく爽やかに喉を通ると淡い風味を残していく。暑いこの夏に良く冷やしたこの飲み物を手に取りたくなる。
「おいしい! ……あ、この前のに似ているね。あの――」
其処まで言おうとして詰まってしまった。
縁側で仕返そうとしたあの後の流れを思い出してしまったのだ。
「あの冷たい氷菓か?」
「そ、そう。あの冷たいやつ。さっぱりとしていて美味しかったね」
「確かに後味も似ているな」
もう一口と煽る朽名を藤が見つめる。
心に余裕を持てるようにと思っていても、まだまだ心は忙しなく、相手の行動で余裕を無くしてしまう。ついあの時の事を思い出して、一人胸を騒がしてしまった事は、
(……朽名には黙っておこう)
奥底で、今も鼓動が爆ぜ続けているのを知っているのは、そのただ一人だけだろう。
そろそろ生物達の音色が変化していく時間の事。
青い空と夏の色に照らされた屋根の下で、二つの影が楽しそうに揺らいでいた。
「健やかなる時も」
今日も良く晴れるらしく、朝の光が窓から差し込む。
朝陽に照らされ、少しづつ寝具が温度を含む中で蛇は僅かに頭を上げた。
「……」
冴えない頭を抱えたまま隣人を見つめる。
何時もは健やかに眠る藤だが、稀に寝癖が凄かったり口の端からよだれがこぼれていたりする。今日はそんな日らしい。
「……」
それを起きたばかりの寝ぼけ眼な蛇が、心中で称賛を浮かべながらじっと観察する。
「……」
そうして眺めて焼き付けている内に、室内の光は差し込み始めた時よりも空気を温めていた。その温もりが目覚めを催促したのか、目の前の人物の瞼がゆっくりと開かれていく。それでも蛇は相手を眺め続けた。
「……目が覚めたか? 藤」
散々心中で賛美していた相手が目覚めた事で、更に気分が高揚する。にこりと笑みを浮かべた蛇は、起きたばかりの頭で此方を見ている相手へ言葉を渡した。
「……おはよう、くちな……」
ふよふよとした声色で朝の挨拶をするが、それでもぼぅっとし続けている。此方を眺め続けている相手へ藤も眠たげな瞳を向けた。
しばしにこにことしている蛇を見ている内に少しづつ頭が起きだしたらしい。横たえていた身を起こしては目を擦る。
「よだれがついているぞ」
「ん……」
生返事を返しつつ、「もう一度寝具へ」と誘惑してくる脳と戦っては身をゆらゆら揺らしていた藤へ、その口元を蛇が拭う。つられて手で口元を抑えた。
「私が動くから眠いのならまだ横になっていてもいいぞ。また愛らしいものを見れたしな」
うんうんと頷いては告げると寝具から降り、楽し気な蛇は身を変えて部屋を後にした。
「……」
(……これ、前にもあったような……)
蛇を見送った藤は段々と以前にあった事を思い出していく。その時もじっと此方を見続けては口元を拭っていたような……。
途端ぼっと顔に火がつく。そして身を返し倒れると、そのまま枕に顔を埋めた。
「みないでよ!」
- 了 -