「キツネ色」.
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今日は沢山じゃが芋を貰ったのだ。
よしと気合を入れると、揃えた食材を卓に置いてまずは下拵えからと流し台までゆく。あの人は今どの辺りだろうか。
綺麗に洗ったじゃが芋を四~六等分に切り分け、鍋へ入れては被るくらいの水を入れる。少々の塩を加えたら、中火から弱火で軟らかく竹串が通るまで茹でていく。
頭の中で茹で上がったそれをついバターや塩でつまみ食いしたくなる。想像すると誘惑に負けそうになるが、そこをぐっとこらえて茹でている間に玉ねぎをみじん切りにした。
玉ねぎをバターで炒めている間に、燻るバターのまろやかな香りに混じって茹ったじゃが芋の匂いも立ち始めた。固さを確認してはざるにあげて水気を切る。炒めている玉ねぎにひき肉を加え、味付をして炒めているその間に冷蔵庫で休んでもらう事にした。
まだまだ完成までほど遠い。けれどこの後に続くその音が何処かからか聞こえては口の中を欲が満たしていく。お隣さんはカレーだろうか。学校帰りによく香っていたのを思い出してはあの頃が懐かしくなる。そんな事を考えていたら道筋から賑やかな声が。ぐうとお腹を空かす小学生たちが近所の公園を後にした様だ。気をつけてお帰りを。
あの人はどんな反応をするかな。
なだらかな逆さまの山が目の前のステンレスに映り込み、また一つ気合を入れる。おっと寝坊させてしまう。
起こしたじゃが芋を大きめの鉢の中でつぶしながら混ぜていく。あの人は少しごろっとした方が好きなのだ。だからこれくらいにして、あとは炒めた者達と混ぜ合わせた。
ころころころと丸く転がしてはへらべたく。姿を成したそれをまた休息させる。そして衣をまとわせては今日の本題だ。
加減は一七〇度。大丈夫。今日はしっかり冷ましたのだ。今日こそは綺麗に揚げきるのだ。
ごくりと息を飲み込む。
並ぶそれを一つ持ち上げてはそっと油の中へ落としていく。じゅっと音をたてては次第に音は連ねていく。ぱちぱちじゅわっと。
じゅっと揚がっては浮きあがるそれを裏返す。ほくほくとした身はからりと様変わりする。頃よく揚げたキツネ色に、音で惑わされていたお腹は声を上げた。
「今日は綺麗に出来た!」
心の中で万歳をする。誇らしさを胸に、次にはトントンと刻む音。細く千切りにしたキャベツを皿に盛り付け、共に切っておいた付け合わせも用意する。既に用意していた幾つかの副菜に、味噌汁に――、丁度ご飯も炊けた様だ。
そこへ聞こえてきた音に、顔をふいっと持ち上げる。催促をしていたお腹をこれでようやく満足させてあげられる。
帰っては早々に顔を見せた相手が身支度へ向かう。そして料理が並んだ卓を見ては「上手くできたな!」と喜んだ。二人でサクッと一口食んでは、二人して笑みが深まる。
成長できた私は誇らしい。自分を化かし、食材を化かす。疲れを含んだ顔を笑顔に変える。
貴方を美味しいと笑顔にさせる事が出来る私は化かし上手だ。……揚げたてのコロッケとは、なぜこうも魅力的なのだろうか。
- 了 -
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エブリスタ「三行から参加できる」用に新しく書いたもの。お題は「化ける」。
※ポイピクの仕様上で、拡大するとなぜか題と本文が詰まって読みづらいので、出だしに点をうっています。特に本文とは関係が無いので気にしないでください。