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    とらきち

    @torakitilily

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    とらきち

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    ベルちゃん、出会った頃はひねくれててグルのこと好きじゃないといいな〜って思う。仲悪いベルグルが好きなので…
    完成品(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17079094

    面倒な後輩と、変な先輩「ドーベルちゃん、見て!エアグルーヴ先輩がトレーニングしてる!」

     隣を歩くクラスメイトの友人が、ふと大きな声をあげる。彼女が見る方に目をやると、アタシたちの1つ上、女帝とも呼ばれているエアグルーヴ先輩がコースに立っていた。その周りにはすでに何人かの後輩が集まり、ギャラリーができているみたいだ。

    「相変わらず凄い人気だね」
    「本当ね!あたしもずっとエアグルーヴ先輩に憧れてるんだ〜!走る姿も、普段の姿も本当にカッコよくない!?」
    「……うん、そうだね」

     隣の彼女は楽しそうに話を続ける。その様子から、本当に先輩のことが好きなんだと分かったけど、アタシはとても同じようには思えなかった。

    「先輩のトレーニング見ていこうかな!ドーベルちゃんもどう?」
    「あ……アタシはいいや、またね」
    「そっか、じゃあね!」

     彼女がギャラリーの輪に加わったのを見送って、その場を後にする。背中越しに、エアグルーヴ先輩の走る姿が目に入って……眩しくて、目を逸らした。

     多くの人に期待されて、その期待に応えることができて。常に自信を持っていて、後輩からも尊敬される……アタシとはまるで正反対の、完璧な先輩。
     かっこいいな、アタシもあんな風になれたら、なんて思うけど。……きっと一生、関わることがない人なんだろうな、とも思う。

    「アタシとは、違うもんね。……先輩は」

     そう。こんな、弱くて……何もないアタシなんかとは違う。だから、憧れるだけ無駄なんだ。あの人みたいになんて、なれるわけがないんだから。



     夕陽が滲み、人も少なくなったトレーニングコースを駆ける。……今日の授業は、男性教官の指導で上手く走れなかったから、ちゃんと復習しておきたかった。
     呼吸を意識しながら、フォームを体に染み込ませる。ストライドを大きく取るの、どうしても苦手だ。誰かに見てもらえたらなんて思うけど、そんな我儘言ってられないし……1人でも頑張らなくちゃ。
     ふと、コースの外に、こちらを見つめる人影が目に入った。肩にかかるくらいの髪に、凛とした立ち姿、遠目でも分かる。――エアグルーヴ先輩だ。
     もちろん、アタシのことを見てるわけないだろうけど、妙に意識してしまって、息が乱れそうになる。目を逸らして、「気にするな」、そう言い聞かせた。コースでは他の生徒も練習しているし、先輩だってきっと通りかかっただけだろうから。

     けれど……しばらく経っても、先輩はその場から動かず。明らかに、アタシのことを見ていた。自意識過剰だって言い聞かせていたけど間違いない。
     どうしてと疑問が浮かぶのと同時に、体の先が冷えていく。……視線が怖い。心臓がぎゅっと締まって、鼓動が頭に響くほどにうるさくなる。思わず逃げ出してしまいたい衝動に襲われて、ふと思った。こっちが出ていくのは、納得いかない。アタシが何かしてしまったのか知らないけど、ここから離れてもらおう。

    「……あ、あの!アタシに、何か用ですか?」
    「……ん?ああ、すまない」

     纏うオーラに圧倒されそうになりながら、震える手を強く握って声を掛けた。少し驚いた顔を見せて、先輩はふっと笑う。

    「いい走りをする後輩がいるものだと、つい見惚れてしまった。……名前は何と言うんだ?」
    「え……?あ……」

     予想していなかった返答に、耳を疑った。何、いい走りって。こんなアタシに、あのエアグルーヴ先輩がそんな事を言うなんて。ありえない、そんな訳ない…関わらないで、欲しい。

    「ありがとうございます。……でも、そういうの、いいですから。すみません」
    「失礼、見られるのが苦手だと言うのに、少々熱視線を送りすぎたな」

     まるで、アタシを知ってるような口ぶりに、言葉が詰まる。

    「私はエアグルーヴだ。困ったことがあったら、何でも相談してくれ」
    「……知って、ます。ありがたいですけど……余計なお世話なので――」
    「では、御世話などではなく……私からの頼みだ。今度、一緒にトレーニングしよう、“メジロドーベル”」
    「え……っ、な!アタシの名前、知って……!」

     また楽しそうに笑って、先輩は立ち去った。さっきアタシ、名前答えてないのに……調子狂う。いい走りだなんて、そんなこと言って。誰もが憧れる先輩が、アタシのことを知ってて、一緒にトレーニングしたいとか。

    「……勘違いしそうになるから、やめてよ、そういうの」

     気付けば揺れている尻尾を誤魔化すように、もう一度走り出す。アタシなんかに声を掛けるなんて、見る目がないし……やっぱり好きになれない、あの先輩。
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