同じ空の下で 柄の悪い連中が集まる場所で聞こえてくるのは、喧嘩と女と悪事自慢と決まっている。そして悪事自慢の中でも「日本人」は定番の一つだ。
「メトロで平気で寝る」
「警戒してるのにスキだらけ」
「背後を気にするという発想がない」
「エクスキューズミーと声をかけると律儀に立ち止まる」
など、日本人の警戒心のなさは枚挙に暇がなかった。故郷よりずっと遠くの、銃のない平和な国。自分が生きている世界とはあまりに違いすぎて、おとぎ話に出てくる国のようだ。盛り上がる連中の話を聞き流しながら、腰のあたりにそっと触れた。冷たく重い金属の塊。それがアッシュにとっての「現実」だった。
そんな「おとぎ話の国」から来た日本人奥村英二は、あらくれ者の集まるバーでそれはもう浮いていた。見るからにおろしたての服を着て、大きな黒い瞳を好奇心に輝かせきょろきょろと周りを見渡していた。おそらく彼なりの防犯対策であるボディバッグは、逆にそこに貴重品が入っているとばればれだ。警察のエスコートがなかったら、とっくに身ぐるみを剝がされていただろう。
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