「ようこそ、歓迎しよう」
男が多少芝居がかった動作でラインハルト・ハイドリヒをうながすように手を広げると、石畳がうごめき、組み変わりはじめた。城の廊下のような空間が変化していく。
精緻な細工が施された調度品で飾られた部屋は、たしかに知らないというのに、妙な親しみやすさを感じて、鍔をつかんで下げた軍帽の陰で戸惑いに目を伏せる。
二脚の椅子の片方に座るように勧められるが、どうにも足が動かない。警戒している、というのもあるが、困惑が強い。
そんなことは知らぬとばかりに、長い黄金の髪をゆらして男はラインハルト・ハイドリヒの手を取った。導かれるまま、椅子に座らされる。
「卿の好み、あててみせようか」
男は対面の椅子に腰をおろして、くすくすと悪戯を思いついたような表情で笑った。
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