譲っているらしい「ナギ…大変だ」
「結論から話して」
「ダブル…の部屋…しか…取れなかった」
「だからこのロケ嫌だったのに」
本日のロケは、アイドルや役者、モデルにと今が旬の若手を集めたグルメリポート番組。
というのは、初期企画で。
実際は、フードファイトを行い、そのリアルなリアクションを撮るというものだった。
しかも、ボクが呼ばれたのはST☆RISHの翔が別仕事でキャンセルされたため、綺羅と同グループで見栄えもそう変わらないボクに白羽の矢が立った。
代役というだけでも腹立たしいのに、まさか泊まりのはずのロケでホテルが、ボクたちだけ取れていないなんてことがあるのか。
明らかにボクたちHE★VENSが軽んじられている。
「良いよ、それで」
「な、ナギ…!」
「早く行こ。カードキー出して」
「………」
部屋に入ると、綺羅が居心地悪そうにボクの様子を窺っていた。
「なに?」
「怒って…いるのか」
「まあね」
「ダブル…しか…取れなかった…から」
「そうじゃないよ」
そんなことで怒るものか。
同衾することなんてよくあるのだから、今更そんなことで怒るわけがない。
「ナギは…このロケ…嫌…だった?」
「誰かさんの代わりなんて嫌に決まってるでしょ」
「そう、か」
綺羅はゆっくりボクを抱き締めて、頭を撫でる。
「俺は…ナギと…来られて…嬉しい」
「ちょっと、シオンじゃないんだから」
「いつもは…シオンに…譲ってる…から」
「へえ、譲ってるんだ」
先程とは打って変わって嬉しそうな声の綺羅の背中に手を回す。
シオンに譲っていたというのは意外だ。
案外、気にもとめていないのかと思っていたのだけれど。
「ねえ…誰も…見て…ない」
「お腹もいっぱいだし、運動でもする?」
「楽しく…しよう」
折角のダブルベッドだ。
いつもより良いスプリングの上で、今日のカロリーの消費でもしようじゃないか。
「シャワー、一緒に浴びよ」
「ナギの髪…洗いたい」
「綺羅ってナギの髪好きだよね」
「うん…好き」
あ、今ボクの匂い吸ってる。
これは相当ストレス溜まってたな。
一人でイライラして悪かったかも。