「好き」は呪いだ。簡単に口に出してしまえばいろんなものを失ってしまう。
その言葉を口にして大事な人や物をなくしてしまった人がたくさんいるらしい。
だけど反対に、「好き」を伝えて幸せになれることもある。
おれはアイドルが好き。キラキラしたものが好き。ALKALOIDのみんなが大好き。
アイドルになって、ALKALOIDのみんなに出会って。昔は怖くて口に出せなかった「好き」をこんなにも堂々と伝えられることに幸せを感じる。
じゃあ、ヒロくんのことは?
おれはヒロくんのことが好きだ。大好き。友愛の意味でももちろん好きだけど、恋愛の方。おれはヒロくんに恋い焦がれている。
ヒロくんはよくおれに「好きだよ」「愛してる」なんて言葉をくれる。実兄にも言うその「愛してる」という言葉。それはきっとおれの「好き」とは違う気持ちなんだと思う。
純粋な思いで伝えてくれるその言葉が、おれが持ってる気持ちと同じ意味合いだったらどんなに嬉しいだろう。
ヒロくんにこんな気持ちを抱くようになったのはいつからだろうか。
きっと、「藍良に触るな!」って真剣な顔付きで言ってたあのときからかもしれない。あのときは本気でヒロくんならおれを愛してくれるかもしれない、なんて女の子みたいなことを考えてしまった。周りからよく可愛い、女の子みたいとは言われるけれど、ついてるものはついてるし、おれはれっきとした男なのにね。おれってこんなに女々しかったっけ?
一度この気持ちに気づいてしまえばもう、抑えることはできなかった。
学校やレッスン中でも自然と目で追ってしまうことが増えたし、話しているときはときめきで目が合わせられないし、ハイタッチみたいなただのスキンシップにも鼓動が高鳴ってしまう。
ヒロくんが眩しいくらいにかっこよくて直視できない。少女漫画のヒロインも恋をしたらこんな気持ちになってるのかな、なんて思う。少女漫画はそんなに読んだことがないから分からない。
自分では必死に平常心を装っているつもりだったけど、冷静に思い返してみればどこからどうみても挙動不審だったと思う。ヒロくんが近づいてきたら固まってぎこちなくなってるし、きっと顔も真っ赤だった。ヒロくんは馬鹿だから気づいていないと願いたい。
「好き」は呪いだ。
おれが「好き」だとひとこと言えば、優しいヒロくんはきっと応えてくれるだろう。呪いをかければ、ヒロくんを縛り付けて動けなくしてしまう。
だけどおれは、ヒロくんを縛り付けたいわけじゃない。ヒロくんだってきっとそんなこと望んでいないだろう。心地良いこの関係がずっと続くなら、ずっと一緒にいられるなら。
自分の気持ちを隠してくれるまじないをかけて、ずっと綺麗なままで。