ウサギのキャロル◆◇◆◇ 甘い酒の匂いとうるさいくらいのジャズが充満した店内。非日常の象徴だったそれは、すっかり馴染んで安心さえ覚えるようになっていた。
僕はいつも通り入店して、まっすぐ奥のカウンターへ向かう。ホールの店員たちも最早、僕を見かけて「ご予約の方ですか」と声をかけてくるような事はない。
皆、僕が奥のカウンターでグラスを拭いているウサギを目当てに通っていることくらい、もうとっくに知っていた。
「いらっしゃいヒロくん。ごめんねェ、呼び出しちゃって」
カウンターの内側から、僕のウサギが笑顔を向けてくれた。閉店時間が近いからかカウンターには誰も座っていない。僕は「あいら」の正面の席に座る。
「いいよ。僕も会いたかったから」
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