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    POIPOI 43

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    ペーパーウェル12参加作品のテキスト版です
    (くれぐれも注意事項)
    二次ではなく一次創作です
    全年齢ですが本人はのちのちBLを想定して書いています
    苦手な方はご遠慮ください
    ちなみに
    前作(https://poipiku.com/3510961/9379724.html)と
    いつぞやのモブ目線のやつとほぼ同じ世界線ですが
    単体で読めます
    おっモブは出ません
    何でも許せる方のみどうぞ

    そこを上がってみれば 一月上旬のとある平日のこと、駅前コンビニ夜勤バイトの小野寺朔哉(20)は、まだ冬休みが終わりきっていないこともあり、店長の許しを得て普段より少し早めに切り上げ、朝の澄んだ空気を原付で走り出した。いつもと違い、そのまま帰宅して、母に洗濯を頼み食事と入浴のち自室でバタンキュー、という訳にはいかず、家とはやや違う方向へ進んでいる。トラックやら各種施設の送迎車が行き交うが、渋滞は無く至って快適だ。逆にこのままだとだいぶ早めに待ち合わせ場所へ着いてしまいそうだと思ったが、あまり時間を潰せるところも無いので、仕方なく集合場所としたコンビニまで先に到着してだらだらしておくことにした。ひとまず温かいペットボトルと、その場しのぎ程度の小さな菓子パンを買って、外に出て腹に納める。そうして何となく体温が上がってきたのを感じながら、今来た道の方を向き、この後のことを思い巡らせるというテイでぼんやりしていた。
     今日はこれから、友人で駅係員の小此木花騎(もとき)(28)と合流し、朔哉お気に入りの場所へ案内することになっている。本来ならば他所から赴任してきた彼へ、地元の有名無名スポットを紹介するのが定石だが、なんせこの地域、駅の向こう側こそ名の知れた工場がでん、と据わってはいるが、こちら側というと、家も田畑も点々、その工場や隣駅となる中心街へ勤めに出る人々の、かろうじてベッドタウン程度でしかなく、ようやく挙げられるのが、その工場主催の花火大会(ただし夏)や、こことは若干方向が違うが山の中腹にひそむ、歴史上とある人物が関わるとされている古寺しかないような、観光とは無縁の土地である。そしてそんなことは、ほんの少しでも地図やネット検索をかければたちどころに分かることなので、さんざ逡巡したあげく、おそらく自分しか利用、というか立つことのない場所を紹介することにしたのだ。
     あらかじめ書いておくと、このコンビニから山道が始まり、電車も高速道路すら近くに無い、いわゆる限界と呼ばれる小規模な集落が点々とする細道の途中に、数年前からちょくちょく立ち寄っていて、そこに招く気でいる。
     施設は当然のこととして、設備の類は一切無い。道も少々外れるので、ひょっとすると誰かの所有地なのかどうかすら確認していない。そして秘密基地然として私物を持ち込むことも控えている(あってもきちんと持ち去っている)。とはいえ他人、もしくは他の獣などが踏み込んだ跡がみられないのは安堵しているところだが。
     そこを見つけたのは完全に偶然で、まだ高校生だったその頃、彼の個人的事情のため、皆が集まるショッピングモール等に足が向かなくなり、かといって引きこもるのも彼の性分に合わないので、ひとり原付で近辺をうろうろした結果である。先の古寺をいだく側の山の尾根にはかろうじて展望台らしき場所が整備されており、春や秋などはぽつぽつ客が集うようだが、そことはまた違った、彼しか知らないであろうこちらの景色に癒やされつつあった。
     だが、自分以外を連れ込むのはこれが初めてのことである。客観的には単に見晴らしだけがいいあの場所を、果たして気に入ってもらえるのだろうかという不安も、ずっとつきまとっている。
     そしてもう一つが、二人の共有事項だけで留まって貰えるのかという懸念である。
     そもそもなぜこういう話になったのかというと、お決まりの「休日は何してる」の流れで口を滑らせたからではあるが、工場側へ降り立つ出張族の皆が「どうせこっちは何もないもんね」と諦めきった口調で都会の隣駅へそそくさと退散するのが、確かに旅館の一つもないので間違いではないと分かっていてもモヤモヤする、と零されついうっかり、「晴らしてみますか」と言ってしまったのだ。
     現実問題、駅員の職務として乗降客数は気になるところだろう。今のところあちら側が安定しているし、こちらもそれなりに利用があるので、駅を廃止するとかそういう話では無いが、それでも寂れていくよりは賑わったほうが好ましいはずだ。その起爆剤となりうるかは分からないが、とはいえ人に知られるというのは拡散される恐れもあるわけで、ここから芋づる的に私有地不法侵入がバレる? とか、厄介な「映えスポット」化によって文字通り踏み荒らされる、あげく電気も通っていないから、悪意も難なく忍び寄れてしまう。当の朔哉も、せめて日が落ちた後は極力訪れないようにしていたし、人気(ひとけ)がないからといっても人でないものへの警戒はそれなりにしていた。これまで遭遇したのはせいぜいリス程度だったが、そのずっと先である奥地では熊を見たという新聞記事もあったことからも、こちらには来ないという保証などない。
     それでも、この人になら、と思ってしまったのは、今のところ親しくなったからに他ならない。八つ離れているが他のスタッフや職員より年が近いし、夜勤・当直明けなど度々連れ立ってファミレスにご相伴預かるくらいには打ち解けている。何が琴線に触れたのか、駅反対側のコンビニの方が若干近いだろうに、日参とまではいわないものの足しげく通ってくれて、タイミングを見計らっては話しかけてくれる。その内容も、高卒でまだまだ世間知らずの朔哉にはことごとく目新しく、毎度違った知人、友人が登場して、交友の広さがうかがい知れ、それは姉しかきょうだいがいなかった彼にとっては兄のように感じられ、憧れの念をいだくのにそう時間はかからなかった。
     食べ終わった包裝紙などを片付け、ダウンジャケットのポケットに入れておいた使い捨てカイロを、ぎゅっと握りしめた。

    ***

    「おはよう、小野寺君。お待ちどうさま」
    「おはようございます。早かったですね」
     やがて見慣れた水色の軽自動車が横付けになり、窓から爽やかイケメン(朔哉個人の感覚です)が笑顔を見せた。ただし少々眠そうだが。いつもの制服や、通勤のスーツと違って私服のタートルネックのニット姿が薄着ではないかと心配しかけたが、それは車内が暖まっているからだろうと思い直した。
    「お休みなのに朝早くからすいません」
    「気にしなくていいよ、楽しみにしてたんだから」
     それは本心なのかもとあわや錯覚しかねない集合三十分前。
    「君の方こそ、夜勤明けお疲れさま。寝てないのしんどくない?」
    「早上がりですし平気です」
    「若いね。じゃ、あ、ちょっと、ここ(のコンビニに)寄ってからにしていい?」
    「どうぞどうぞ。うちの系列じゃないですけどね笑」
    「じゃあ、悪いけどちょっと待っててね」
    「はいっ」
     程なくして小ぶりなレジ袋を下げて出てきた小此木は、中から白い包みを取り出し、朔哉に手渡した。ちょっと熱い。
    「肉まんだけどよかったらどうぞ」
    「あっありがとうございます。いただきます」
     菓子パンのちょっと残った甘さが、塩気で流されていった。彼ももう一つを頬張っている。遠くで鳥がさえずった。

    ***

     酷道、というほどではないが落ち葉やら枝やらが無造作にバラまかれ、アスファルトもかろうじて平坦だと言い張っているであろう、手入れが後回しになっている道を原付を先導にしばらくどたどたと上り、朔哉は目印にしているが知らない人にとってはおもむろに脇に逸れてすぐ、舗装が無くなったところで停車した。そこから目立たないよう、また帰りやすいように車の向きを定めてから、小此木は上着を羽織り、貴重品を携帯して降り立った。それほど上がった感覚はないが、やはりふもとよりいくぶん寒いなと自然と身震いが出た。
    「滑らないよう、気をつけてくださいね」
    「わかった」
     それきり、たまに「大丈夫ですか」とかけられる以外はほぼ無言で、ひたすら彼の後をついて行った。季節柄、木々は葉が落ちたものが多く、藪も細々としているので周囲はさほど暗くはなく、ただし地面の落ち葉にだけは足を取られないよう用心し、確かに車道よりはほんのわずかきつくなった傾斜を上った。都会育ちだがそれなりにスポーツはしてきたし、本格的ではないが登山も学生時代に何度か行ったことがある。それでもネイティブというか、生まれてこのかた、山が身近にある子の動きはやはりどこか違うなと、ここ以前に様々な場所を訪れた記憶を掘り起こしながら、ただだいたいそれくらいしか考えられずに、やがて息を切らし、額が汗ばんできたのを感じ始めた頃に、ようやくたどり着いた、ようだ。危うく彼の背中にぶつかりそうになるのをすんでのところでとどまり、避けて立つ。
    「着きました。ここです」
     人の手が入っていないので当然ベンチもあずまやも何も無いが、およそワンルームほどの広さか、さらに前というのか下りの斜面も少し先まで木が生えておらず、天然のバルコニーといったおもむきだろうか。それでも藪まみれになっていないのは、彼が「調整」しているのかもしれないが、そこは今考えなくてもいいことだろう。
     冬の澄んでほんの少し濃い青空に、あちらから遠くに雪を冠した山々、そしてふもととしてのなじみの街並み、駅も工場も見渡すことができる。それから、あれは古寺のある山だろうか、連続していないのかあちらの見晴らし台のほうが僅かに下にあるようだが、こちらの存在は気づかないものなのか。
     そんな雑念はさておいても、街を一望、これはなかなか贅沢な景観である。柵などもないので、すんなり飛び立ってしまいそうでもある。まあ鳥ではないからできっこないが。
     どれほど見入っていたかわからない。どちらも黙ったまま立ちつくしていたが、ようやく、小此木はその視界に隣の朔哉を含め始めた。彼はまだ前方を向いていて、こちらが目をやっていることに気づいていないようだ。自分のために振り向かせるのはまだ早いと思い、もうしばらくこのままでいることにした。さらさらと髪が風になびいている。その輪郭をたどっていると、こちらを向かずに口をついてきた。
    「いかがでしょうか。お気に召しましたか」
    「あっああ、こんなところがあるなんてね。素晴らしいよ、大満足だ。ありがとう」
     そう言ってあげると、くりっとこちらに向いて照れつつも破顔する。ついでに小花や水玉なんかも飛び出す漫画のような演出が脳裏をよぎった。
    「これ、冬の朝、今頃だからこんな山とかハッキリしてますけど、あとちょっとでガスっちまいますし、今日晴れて本当に良かったです。それと、夕焼け時はシルエットになっててオレンジの空とで、また格別なんですよ。あっという間に暗くなっちゃうのがネックなんですけどね」
    「夜景も見事かもな」
    「だと思うんですけど、暗い中あの斜面を登り下りするのは怖くて無理っす」
    「そりゃそうだ。高確率で滑り落ちそうだ」
    「怪我したら元も子もないですし」
    「今だって、あれを下りて帰ると考えると、明るくてもちょっとげんなりするな」
    「また僕が先導しますんで大丈夫です、たぶん。まあ明日の筋肉痛はあれですけど。
    って、もう帰ります?」
    「いや、まだもう少し……ああ、君は帰らないといけないかな?」
    「いえっ、もう少しなら大丈夫です。小此木さん、写真とか撮りますか?」
    「撮らせてもらっていいかな。スマホだけど」
    「SNSとかに上げないんなら……」
    「わかった。個人で楽しむ」
    「ありがとうございます」
    「それにしても、本当いいとこだね、連れてきてくれて有難う」
    「いえいえ、実際何の変哲もないし行くの面度くさいですし、ついてきてくださっただけで十分です」
    「そんなことないよ。まあ、だけど、秘密の場所だったね。胸にしまっておく。
    また、何かの折に誘ってくれると嬉しいね」
    「あっはい、また今度」
     それから、そうそう、と言って小此木は持参したレジ袋の中からミニサイズのペットボトル、ほうじ茶を取り出して朔哉に手渡した。ホットのキャップだったがもう熱くはない。朔哉はお礼を述べて一口含むと、案の定ぬるかった。だが不思議と心地良い。ひと山越えた余韻なのか、まだ体が冷え切っていないのだろう。
     ここで、次からは一人で来てもいいですよ、と言っても良かった。だが踏み切れなかった。許しを出した途端、朔哉でない誰かと訪れてしまうのでは、と恐れてしまった。この人はそんなことする筈ないと信じたかったが、それを口にすることで、暗に「まだ見ぬ誰か」への牽制とも取れるし、いくらこちらが若輩でもそんな小さな人だと思われたくない。とはいえ、この妙なわだかまりとは。
     朔哉は香ばしい苦みを流しこみ、楽しげにあちこちスマホを構える彼に目を細めていた。
     なお、何度目かの来訪でこの二人がああなったりあんなこんなことをしてしまうのは、もう少し先の、別のお話となります。
    〈了〉
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    二次ではなく一次創作です
    全年齢ですが本人はのちのちBLを想定して書いています
    苦手な方はご遠慮ください
    ちなみに
    前作(https://poipiku.com/3510961/9379724.html)と
    いつぞやのモブ目線のやつとほぼ同じ世界線ですが
    単体で読めます
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    そこを上がってみれば 一月上旬のとある平日のこと、駅前コンビニ夜勤バイトの小野寺朔哉(20)は、まだ冬休みが終わりきっていないこともあり、店長の許しを得て普段より少し早めに切り上げ、朝の澄んだ空気を原付で走り出した。いつもと違い、そのまま帰宅して、母に洗濯を頼み食事と入浴のち自室でバタンキュー、という訳にはいかず、家とはやや違う方向へ進んでいる。トラックやら各種施設の送迎車が行き交うが、渋滞は無く至って快適だ。逆にこのままだとだいぶ早めに待ち合わせ場所へ着いてしまいそうだと思ったが、あまり時間を潰せるところも無いので、仕方なく集合場所としたコンビニまで先に到着してだらだらしておくことにした。ひとまず温かいペットボトルと、その場しのぎ程度の小さな菓子パンを買って、外に出て腹に納める。そうして何となく体温が上がってきたのを感じながら、今来た道の方を向き、この後のことを思い巡らせるというテイでぼんやりしていた。
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