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    _iikkrnggett

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    POIPOI 41

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    ペーパーウェル11参加作品のテキスト版です
    (くれぐれも注意事項)
    二次ではなく一次創作です
    全年齢でブロマンスラインにしてありますが
    本人はのちのちBLを想定して書いています
    苦手な方はご遠慮ください
    ちなみに
    いつぞやのモブ目線のやつ(https://poipiku.com/3510961/7471604.html)とほぼ同じ世界線ですが
    おっモブは出ません
    何でも許せる方のみどうぞ

    待ては甘露の時薬「いってらっしゃい。気をつけてね」
    「うん、わかってる、行ってきます」
     不安を隠しているのがうっすら感じ取れる母親の見送りとはうらはらに、小野寺朔哉は足取りも軽く、玄関を出た。外はそろそろ宵の内、勤めに出ている家族が帰宅してもおかしくない頃合いだが、今日の父は残業、六つ年上の姉は同僚とのちょっとしたガス抜きカフェがあるとかで、ともに不在である。まぁだいたいいつも通りなので気にすることではないが。愛用の原付を素通りして門を開け、すぐ脇に停められた水色の軽自動車に乗り込む。迎えに来たのは朔哉の(夜勤)バイト先のコンビニがある駅の係員、小此木花騎(もとき)(28才)。まだ着任して一年も経っていないが、その人当たりのよさと、爽やかそうな見た目もあって、だいぶ地元に馴染んできているように思える。そして朔哉にとって本来はコンビニ利用客とバイト店員、ごく稀に電車利用客と駅係員でしかなかったが、何かと顔を合わせることもあって、たまに食事をともにするくらいの仲にはなっており、きょうだいが姉しかいない彼に降ってきた兄のような感覚で接している。
    「こんばんは、お待たせしました」
    「全然。早かったね。それじゃ行こうか」
    「小此木さんお腹空いてますしね」
    「そうそう」
     ゆっくりと発車する。なお朔哉の方といえば、朝のラッシュ時終了とともに勤務明け、すぐに帰宅し風呂と食事と睡眠を済ませ、なおかつ先ほど軽く腹に入れてある良コンディションである。それに対して彼は空腹と疲労の色が若干にじむものの、それほどくたびれていないシャツにスラックスといういでたちで、ブラック企業ならこのまま月曜の出勤ですと言われても遜色ない姿であった。もう見慣れてしまったが、この自然な清潔感も彼の好印象に貢献しているんだと思うと、頑張って見習いたいものだと都度思っている。さすがにコンビニ店舗通勤にスーツはありえないが。
    「本日もお勤めお疲れ様でした」
    「ありがとう。休みのところに連れ出しちゃってすまないね」
    「いえいえ、気にしないでください。付き合わせちゃってるのは僕の方ですから」
    「うん。……本当に大丈夫なの」
     少しトーンが落ちる。
    「三年くらい……ですから、もう、ぼちぼち、平気なんじゃないかな、かな?」
    「うん、ならいいけど……」
    「今日は絶対、あそこの巨大ハンバーグにチャレンジしましょう!」
    「そうだね。楽しみだ」
     こういうときに、つい茶化すような態度を取ってしまいがちな彼は、空元気ではあるものの、自己にハッパをかけるように両の拳を握りふんっと鼻息を荒くし、隣で小此木は穏やかに、しかし力強く応えた。
     この地域は、いわゆる地方都市、人によっては田舎というやつで、駅ビルはおろか、周辺に商店街もなく、買い物や遊びなどは離れたショッピングモールが住民の定番となっている(ちなみに最寄り駅の反対側は大きな工場の建物がいくつも並んでおり、主にそこへの電車通勤組、それと沿線にある高校への通学利用もそれなりにあるため、駅の両側にそれぞれ別チェーンのコンビニが営業しているというのは参考までに)。当然高校・大学生の「初バイト」にこの施設を選ぶ子も相当数居て、朔哉もご多分にもれずとある店舗で働いていたのだが、そこでできた彼女を、端的に言えば奪われた、または鞍替えされたこともあって、以後ほぼまったく足を踏み入れていなかったのである。
     特に面前で修羅場になったわけではない。微妙な態度の変化に感づいた朔哉が距離を置くようになったらなんとなくどうでも良くなり、ある時遠くから仲睦まじそうな二人を見つけただけのことだった。それからわりとすぐにそこを辞め、今の駅前コンビニの夕勤に就き、やがて高校卒業と同時に深夜帯に収まった。進学するほどの成績ではなく、まあ専門学校に行くくらいの学費は出せたようだが、これといってやりたいことも無かったということもあって、あまり家族とも揉めずに今に至る。父親は自分が勤務している工場へ、せめて正社員に、と思っていたようだが、強要されなかったので気づかないふりをして流しておいた。
     なおその後は友人などから伝え聞いている。相手の大学生が就職だか大学院進学だかで上京、ついていったかは不明だが彼女も東京の大学へ進学したと。だからトラウマを克服するかどうかは朔哉自身が決めるしかない状況になってはいたのだが、深夜勤務だのめんどくさいだのと言ってズルズルと引き延ばしていた。実際それほど不便を感じていなかったので当分このままでも構わないなとぼんやり思っていたが、小此木と仲良くなったことで踏ん切りがついたかもしれないと、家族にもズバリそのままではないものの「今度の休みに行ってくる」としれっと蒔くまでには成った、そしてもちろん反応もあっさりしたものだったが。
     ゲートをくぐり(低層階だが)屋上駐車場に車を置き、エレベーターに乗ってすぐ下の施設上階、そこから目的のレストランへ行けばミッションクリア、と思いきや、朔哉は一階へのボタンを押した。いぶかる小此木に「すいません」とだけ伝えて。降りるとすぐ隣が出入口の一つとなっていて、一旦そこから外に出る。そして神妙な面持ち(と後から小此木に述懐された)で振り向き、自動扉を仰ぎ見る。何のコンセプトか知らないが、ステンドグラスのような装飾が上部にあり、きっと普段は誰も目に止めやしないんだろうなと思いながら凝視したのちに、意を決して正面へ向き直し、だが力(りき)みすぎて周りに不審がられないようあくまで自分基準で気を配りつつ、足を進めていった。たぶん小此木は後ろからついてきてくれている筈だ、と信じて。床が変わって二~三歩もすると、館内の人々が目に入ってくる。平日夜なので、あまり客は多くなく、スタッフもまばらであったが自分を注視する者は……ほぼいない。それでも歩みを止めず、かといって特に目標を定めることなく道なりに進んでいるうちに、どうやら肩の力も抜けてきたようで、背後の付き添いの気配を感じられるようになった。というより、まるで西洋のエスコートばりに密着寸前状態だったのだ。そびえ立つほどではないが、朔哉に何かが起きても瞬時に対応するよという、少し大きな背中の存在感。これに支えられ、まずは一階をぐるっと巡ってフードコートのソファーに沈み込んだ。あお向けに息を吐く。一緒に座った小此木は、すぐさま立ち上がり、ウォーターサーバーから水を汲んで朔哉によこしてくれた。
    「おめでとう、かな?」
    「ありがとうございます……いろいろと」
    「僕は何もしてないよ」
    「やっぱ三年も経てば、どうにかなるもんですね」
    「そうかもね」
     完全同意ではないような言い方だが、表情にはあくまでも笑みがあって、雰囲気がささくれ立つことはない。
    「さて、三年がムダだったのかはさておいて! 小此木さん、飯行きましょう!」
    「よしきた」
     すっかり憑き物が落ちたような清々しい顔で、朔哉は勢いよく立ち上がり、彼の腕を取った。
    ***
    「ごちそうさまです。おごってもらっちゃって本当すみません」
    「いいのいいの、これ位なら全然平気だから」
     一転してサラリーマンも真っ青な平身低頭に、小此木は彼の変化を楽しんでいた。口にしてしまうと怒られそうだが、小動物じみていて飽きないし可愛い。彼は自分のことを兄のようだと言ってくれて、その通りに慕ってくれているし、こちらも弟のようだと思っているし、思うようにしている。時々少々逸脱するが。
    「あぁでも本当、何かお返しさせて下さい。このままじゃちょっとさすがにアレなんで。何でも、うーん、できる範囲で何でもしますから」
     と覗き込んでくる大きな瞳に、一瞬くらっとなりかけるがどうにか心の中で踏ん張り受け流そうとする。
    「あー……うん……、そうだね、じゃあ、今度は小野寺君からおごって貰おうかな。隣の回転寿司とか、今日のところのチーズハンバーグにデザートをつけるのもいいな。どう?」
    「いいっすねー。パフェとかうまそうでしたもん。あっでもすいません、今月ちょっとやばいんで、給料日の後でいいですか?」
    「もちろん、いつでもいいよ」
    「じゃそれで」
    「そうだ、せっかくだから、今日みたいに食事だけじゃなくて、早いうちから他の店とかもぶらぶら見て回ろうか、君と」
    「えっ? いいですけど、それってなんかデああいやえっと、僕でよければ……」
     デートみたいだ、をあわてて飲み込み、それでも友達だって普通にやっていることだと動揺しつつも切り替えようと頬を染めたり目を白黒させている朔哉を、小此木は微笑ましく見ているが、その実こちらもちょっぴり目元が赤くなっていたのを自覚できていなかった。
    「うん。楽しみだ」
     館内放送で、閉店の時刻がアナウンスされる。すぐにというわけではないが、もう気にしてもいい時間帯だろう。二人はそのままエスカレーターを上がって駐車場へ向かった。
     小此木としては、確かにそれっぽい雰囲気がたまにあると感じてはいるものの、今すぐにはっきりさせる気はなく、まだ友人同士で構わないと思っている。先程のように、少しはまんざらでもない様子が見受けられるので、押し切ろうと思えば可能かもしれないが、ことを急ぐ必要は、今はない。とはいえ、どこぞの馬の骨に横からさらわれでもしたらたまったものではない。
     施設の照明のせいでいくぶん星が見えにくくなっている夜空だが、いつかは満天のもとへ連れ出そう。そう遠くはないはずだ。
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