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    ペーパーウェル14「欠片」参加作品です
    テキストとプリントに、キャプション・奥付以外に違いは無いです
    全年齢版ですがスフィク☓イーサンのBLをふんわり想定していますので気になる方は引き返して下さい
    それでも宜しければどうぞ

    女神のかけらと呼ばれた魔石にほんとに女神がいた(らしい)件女神のかけらと呼ばれた魔石にほんとに女神がいた(らしい)件

    「イーサン!」
     最初に勘づいたのはさすがにリヴィ隊長だったが、一番近くに居たスフィクが呼応しとっさに「それ」から彼を護るように立ちふさがった。彼らの視線の先にある、魔石の中でもひときわ大きな石──この世界で「女神のかけら」とあだ名がつくほど見事な宝石からにわかに煙が立ちこめ、あたかも人の上半身のように見えたかと思うと、まるで矢のように一方──イーサンへと向かっていったのだ。だがそもそも魔石に込められているのは魔力であり、煙のように見えたとて実際は何なのかはこの時点で分かりようがなく、ただ反射で盾になったところで焼け石に水であり、煙はスフィクを(おそらく)素通りしたのちイーサンを取り囲み、あっという間に霧散したと同時に彼はへたり込んだ。すぐさま助け起こそうとしゃがんだスフィクに、イーサンはどうにかすがりつくものの、少し焦点の合わない目で
    「スフィク……女神……」
     とつぶやき、目を閉じた。スフィクは驚いたが、呼吸がしっかりしているのに気づいたので、隊長に息はしてる、と報告し、一同を安堵させた。当初の、猫の頭くらいはありそうだった大きな石だが、今は二回りほど小さくなり、ある程度魔力を感じられる者ならば「抜けがら」と分かる、ただの灰色の塊に成り果てていた。隊長は、持ち主の商人に尋ねた。
    「……改めてお聞きしますが、いかがされますか?」
     彼も膝をついていたが、大きなため息をつきながらよっこいしょとたいそうに立ち上がり、諦めの表情で答えた。
    「まあ……売ろうと思えば何とでもなりますけど……ほどほどには信用も失いたくないですし、結構ですよ、お持ちくださいませ、騎士様方。仕入れの損はどうにかしますわ」
    「ご協力、感謝いたします」
     彼は深々と頭を下げた。

     魔石というものは、文字通り魔力が込められている石を指すが、それでも一般に流通しているのはせいぜいアクセサリー程度の「粒」と言える大きさで、効能も「何となく気持ちが落ちつく」くらいのものにすぎないが、ごく稀に大きな石が出回り、それは厳密には定められていないが、おおよそ王家──国の管理下におかれ、研究対象として回収されるのが慣例(なお特に所持あるいは引き渡し拒絶による罰則などはない)となっている。その大きさ=魔力量ゆえ、一般人が取り扱うには持て余すしかなく、過去には興味本位で異世界からよからぬモノを召喚してしまい、対処にひどく手こずったという記録も残っている。なので、現地駐在の騎士だけで処理してはならない規則があり、今回通報を受け応援と確認のためにイーサンたちが派遣されたのだった。なお隊長とメアリ副長はともかく、残りの彼らはまだ養成校を卒業したばかりで研修中の身だが、数名ずつ割り振られ、時と場合によってはこのように「出張」や「一般人と交渉(物理含む)」など、ほぼ実務と変わらぬ内容に当たることもあり、長い目で見ればいい経験となるのだが、ひよっ子達にとっては厄介事に「当たってしまった」でしかない。なお、正式な配属はもうしばらく先で、王都の庁舎へ戻ればまた別の担当の指揮下に入り、全く違う職務に携わる予定になっている。

     ひとまず拠点へ戻った一行(イーサンはスフィクが背負い、目を覚ますまで傍に居ろと命じられた)は、ひと息つくも間もなく後処理に追われ、その途中にイーサンが気が付いたので、ケアと言う名の尋問が始まった。スフィクは記録役を仰せつかっている。それによれば、
    ・体調は問題なし
    ・煙のようなものは、おそらく体内に入ってしまったようだが、魔力が増えたかどうかも含めて実感がない
    ・「女神だ」と思ったのは、目が合った「ような気がした」ため
    ・今のところ吸収させられた「何か」に干渉されてはいない
     など淡々と述べ、簡易計測で実際の魔力量も微増という結果で、おそらく誤差の範囲と言っても過言ではないだろう。そして、既に起き上がっていたイーサンは、直ぐにでも職務に戻ろうとしたが、隊長は大事を取って、今夜は休んでおけと指示した。そしてスフィクに向かって今回の報告書を作成するように、後で俺達が直すから気負わずやってみろ、と告げ、部屋を退出していった。

    「報告書、かよ……まじか……作文は苦手なんだよな……」
    「スフィク、俺も手伝うよ」
     学校で小論文的な文章の構造と書き方は一応学んでいるので、いざやれば出来るのだろうが、いかんせん苦手意識が先行してしまって気が重い。
    「ありがとうイーサン。ま、体がやばかったら休んでていいからね」
     と返す笑みはぎこちない。それでも悪戦苦闘、夕飯を挟み、気がつくと宿舎周辺の喧騒が失せた頃に、「こんなもんかな」とペンを置いて伸びをし、ざっと見たイーサンも「まあいいんじゃないかな」と同意した。いくつか忘れてしまった部分はイーサンがほぼ補ってくれて、とても助かったと思っている。なお肝心の入手場面については、まさかそのまま採用されることは無いだろうと、あえてスフィクが見たそのままを記すことにした。提出は明日にして、後片付けのちイーサンの隣の、自分に充てられた寝台に移動し、そそくさと潜り込む。
    「イーサンありがとう、君のおかげだ」
    「どういたしまして。ていうかスフィク、今日はむしろ冴えてると思ったけど?」
    「そうかな? それにしても、君が居なかったらあの石どうなってたんだろうね。隊長もあの大きさは初めて見たらしいし。ほんとに女神様だったの?」
    「何となくだけどな……そういえばまた『勇者』とは言われたけど」
    「ああ、あの(イーサンを騎士に抜擢した)使者さんも言った……」
    「何で俺なんだろうな、まじで」
     うんざりしている口ぶりだった。
     それこそ女神ではないが、人間離れな能力が備わっているわけでもなく、学校も首位を取れたことすら無い。そんないわば「ごく普通の青年」のどこに勇者の資質があるのか。買いかぶるのもいい加減にして欲しい、とは同郷のよしみか、二人きりになると幾度となく聞かされた。スフィクも最初は羨ましかったので、ずいぶん贅沢な悩みだと思っていたが、次第に覚悟を決めようとしない彼に少しのいらだちと、それでも孤高を避けられない立場に同情を抱(いだ)いていた。そして決まって、
    「オレが代わってやれればいいんだけどねえ」
     とスフィクが言って、
    「そうは行かないみたいだし、仕方ないさ」
     と、諦めで終わるのが常となっていた。
     この日も日中こそ捕物騒ぎとなったが、終わってしまえばいつもと変わらぬ穏やかな夜だった。たったひとつ、スフィクの魔力計測を全員が失念していたことを除いて。今回の「女神の加護」の多くはスフィクに渡ってしまったようだ。後日、気まぐれに測ると倍増していて心当たりが無かった彼は仰天したのだった。

     かくして、勇者イーサンと、従者スフィクや仲間達とによって世界のとある災厄を退けるのだが、それはこれよりもっとずっと先のことである。
    〈了〉
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    DONEペーパーウェル14「欠片」参加作品です
    テキストとプリントに、キャプション・奥付以外に違いは無いです
    全年齢版ですがスフィク☓イーサンのBLをふんわり想定していますので気になる方は引き返して下さい
    それでも宜しければどうぞ
    女神のかけらと呼ばれた魔石にほんとに女神がいた(らしい)件女神のかけらと呼ばれた魔石にほんとに女神がいた(らしい)件

    「イーサン!」
     最初に勘づいたのはさすがにリヴィ隊長だったが、一番近くに居たスフィクが呼応しとっさに「それ」から彼を護るように立ちふさがった。彼らの視線の先にある、魔石の中でもひときわ大きな石──この世界で「女神のかけら」とあだ名がつくほど見事な宝石からにわかに煙が立ちこめ、あたかも人の上半身のように見えたかと思うと、まるで矢のように一方──イーサンへと向かっていったのだ。だがそもそも魔石に込められているのは魔力であり、煙のように見えたとて実際は何なのかはこの時点で分かりようがなく、ただ反射で盾になったところで焼け石に水であり、煙はスフィクを(おそらく)素通りしたのちイーサンを取り囲み、あっという間に霧散したと同時に彼はへたり込んだ。すぐさま助け起こそうとしゃがんだスフィクに、イーサンはどうにかすがりつくものの、少し焦点の合わない目で
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