《初詣 Ver.怜サク+皓》「起きれなくてごめん……」
「いや、おれも一緒に寝てたし全然いいよ! それより手が死んじゃうかもしれない……」
日付がかわり、深夜二時過ぎ。僕は怜くんと初詣に行くべく、街灯が照らす夜道を歩いていた。人通りはまばらではあるが、いつもよりも人の姿が多い。本当ならもう少し早く出たかったのだけれど、久しぶりにはしゃぎすぎて、日付が変わる前に眠くなってしまい、飛び起きたのはつい先程。
「うぅ、死んで欲しくないから、僕の手袋と交換しよう」
「えっ、でもそしたらサクくんの手が」
「いーよ、僕はこうやって暖かくしてるからね」
僕は怜くんの腕に手を滑り込ませた。怜くんは手先こそ冷えやすいが、胴体は暖かい。ここぞとばかりにくっついてしまえば、体温を抱擁した指先は熱を取り戻す。
「わっ! びっくりした」
「へへ、怜くんあったかいね。冬の間こうしてたいよ」
「そう? おれは別にいつでもくっ付いてくれていいんだけどね」
「もうっ、そういうとこ……が、好きだけどさ」
ほんとに、こういうストレートな所が怜くんのいい所でもあるのだけど、もう付き合い初めて半年になると言うのに、未だに慣れてなくて僕の心臓に良くない。
「あ、ねえ」
「あれっ、皓くん?」
もう見慣れた姿を前方にみつけ、怜くんが咄嗟に声をかける。それに続いて僕も手を軽く振った。
「……あ、怜くんとサクくん。こんばんは」
「こんばんは! もしかして初詣の帰り?」
「そう、友達……に、誘われて」
「あ、そうなんだ? 今はひとり?」
「うん、家が逆方向だから」
「僕達いまから初詣に行くんだけど、一緒に行こうよ」
「……え」
皓くんにとってあまりにも想定外の話だったのか、口を薄く開けたまま黙ってしまった。皓くんと行動する事は、僕にとっても、きっと怜くんにとっても、そんなに遠慮するような事でもないのだけど、皓くんにとってはそのくらいの事なのだろう。
「ねぇ、怜くん。いいよね」
「うん! 一緒に行こう!」
「帰りにコンポタと肉まん買って食べようよ。僕が奢るからさ」
「いやいや、サクくん何で?」
「怜くんと皓くんは、この間一緒に出かけた時にジュースとホットドッグ奢ってくれたでしょう?」
「そうだけどさ」
「……まって、そもそも初詣って、そんなに何回も行くものなの?」
僕たちが勝手に話を進めていると、皓くんがやっと口を開いてくれた。普段から口数は少ないのが彼ではあるが、僕たちがあまりにも話を進めるもので、何か言わなければと使命感に駆られての発言な気もする。
皓くんの疑問に応えるべく、僕はポケットからスマホを取り出し[初詣 回数]で、検索をかけた。
「今見たら別に回数は決まってないって。何回行っても良いみたい」
「だって! よかったね皓くん!」
「うん? うん……」
「行かない理由もないね、行こうか」
「いや、邪魔じゃない……?」
やっぱり思ってたんだ。僕は思わず怜くんと顔を見合わせた。信頼している友人にそう思わせてしまうのも申し訳ないが、そもそも何度も一緒に遊びへ出かけているのに、何を今更キミを邪魔に思うことがあるんだ。そう思うと、ひとつの言葉しか彼には返せない。
「「なんで?」」
「う……分かったよ、行こう」
皓くんは本当に優しいな。優しすぎて、いつか……あぁ、新年からこんなことは考えるものじゃないな。思考を切り替え、皓くんに笑顔を向ける。
「あはは、ありがとう」
「なんか喋ってたら寒いの飛んだかも!」
「ほんとにぃ?」
休暇中に会えないと思っていた友人と会うとテンションは上がるもので、怜くんはとても楽しそうにしていた。急にはしゃぎ出した怜くんの顎に、先程スマートフォンを触ったまま、むき出しにしっぱなし右手を添える。
「ひやっ! サクくん、手つめたい!」
「キミに手袋を貸したのもあるけどね。なーんて、さっきスマホいじるのに煩わしくて取っちゃった。いや、別に返して欲しいわけじゃないよ? 寒さはそんなに感じてないし」
「……サクくん、僕のカイロあげようか」
「えっ、いいの? 皓くん」
「うん、手袋もネックウォーマーもあるし。防寒は完璧にしてきてる」
ほら、と皓くんは僕を安心させるようにダッフルコートの襟をすこし引っ張って、ネックウォーマーと、黒のタートルネックを見せてくれた。
「ありがとう、皓くん……。肉まんにあんまんもつけてあげる」
「えっ、ずるい」
「じゃあ、怜くんにはプリンまんね」
「プリンまん?」
「……それ、数年前の季節品じゃない?」
「あれ、美味しかったんだけどな」
「えっ、おれそれ知らないかも」
笑いながら歩く夜道はとても明るかった。神に祈らなくても、きっと今年も楽しく過ごせる、そう思った。神には別のことをお願いしよう。例えば隣にいる彼らが、これから先も幸せでありますように。