《Data》「……あれ、こんな所に人が?」
ふと目を開けると、真っ白で何も無い部屋に、自分と背の高い青年の二人きりになっていた。朝露に濡れる薔薇のように赤い瞳と、襟足が腰まで長く伸びた月のような白髪が印象的な青年は、わたくしを見るとそれは楽しそうに笑っていました。
「ふふ、人が来るのは久しぶりなのでとても嬉しいです。あんなにたくさん人がいたのに、ここに居るのはもう僕だけなんですよ」
わたくしが警戒したところで、遠慮なしに彼は距離を詰めてきました。ニコニコと微笑む美しい顔は、どこか生とかけ離れた存在に感じました。そんな彼に寂しくないのか、と問いました。
「そりゃあ寂しいですよ。生まれた時から一緒にいた双子の兄さんや恋人も、いつの間にかいなくなっていたんですからね」
大人びた顔立ちからはあまり想像がつかない、子供のように拗ねた表情を見せる。
「けどね、僕は元々一人だったんですよ。そうやって生きていくつもりだったんです」
彼は視線を自らのつま先へ落とすと、ゆっくりとわたくしの周りを歩きながら、物語を読み聞かせるように静かに語った。
「家族の温かさも、好きな人と結ばれ愛し合うことも、求められることも、求めることも、もちろん……死ぬことも、全部、全部教えられた上で──」
わたくしの目の前で足をピタと止める。ゆっくりと上げた顔は今にも泣きそうで、わたくしは心臓をぎゅうと締め付けられました。次の言葉を言い淀んでいる彼に、視線で促します。意を決して震わせた喉へ空気が引っかかり、彼の心の悲鳴が、次の瞬間にわたくしの耳からも伝わることになりました。
「……急に一人にされちゃいました。みんな、僕のことが嫌いになっちゃったんですかね」
そんなことない。そう声を大にして、抱きしめてあげたかった。けれど拳を握りこんだまま、指先の一本も動かない。そんな資格はないと、手のひらに食い込んだわたくし自身の爪が咎めているように感じました。
「えへへ、すみません。こんなことを」
大丈夫だと否定する意味を込めて、わたくしは首を横に振りました。しかし、彼はどこか諦めたようにわたくしの目を見つめて微笑みました。
「……ところで。あなたとは、どこかでお会いしたことがありましたか?」
そう、彼が問いかけてきた瞬間。足元に虚空が広がり、備える暇もなく、引き込まれてしまう。
「あぁ、もう時間ですか。……また、違う形で会えたらいいですね。僕の鏡」
目を閉じる前に見えた彼の姿は、少し幼く見えた。ラムネ瓶の底のような瞳は、そう──。
「おやすみなさい」
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