《Happybirthday future→Kou×Io》 日付が変わった頃、友人より誕生日プレゼントということで、数年前からの恒例になった、ゲーム内アイテムを受け取り、せっかくだからとボイスチャットをつないで他愛もない話をした。何年経っても彼はこういった行事に緊張しているらしく、お祝いの言葉を告げるのに随分と戸惑いを見せた。デイリーミッションを終え、ふとスマートフォンを見ると数件通知が来ていることに気がついた。
ひとつは小学生からの親友、もうひとつは高校の時に同じ委員会だった友人、いずれも僕の誕生日を祝うためにメッセージをくれていた。その後に着信が一件、さらに同じ人物から《おきてますか? いまから、お話できますか》と、控えめなメッセージか届いていた。
メッセージ自体は零時ちょうどに届いていたのだが、
時刻はすでに深夜の一時を迎えようとしている。明日は僕も相手も一限から授業がある。正直、もう寝てしまおうかと思っていたところではあるが、何か急ぎの用事かもしれないと、着信の履歴から彼に折り返しの発信をする。
──数回コールした後、電話は留守番電話サービスへ繋がった。彼は床に就くのが早いから、きっと待っている間に寝てしまっているのだろうと思った。
「……折り返しが遅くなってごめん。いまからなら大丈夫。起きてたら連絡をくれる?」
申し訳ないなと思いつつ、短くメッセージを残して終話ボタンをタップする。直後、端末を机に置く間もなく、着信を告げる画面に切り替わる。再び終話ボタンをタップしそうになり、慌てて通話ボタンをタップした。
「もしもし、衣桜?」
『こうくん。遅くにごめんなさい』
「……ううん、大丈夫。何かあったの?」
『えと、なにか……っていうか……』
「?」
『……お、お誕生日おめでとうございます』
遠慮がちに発せられた言葉にすこし驚く。衣桜から祝われることは特に驚くことでは無いが、驚いたのはそのタイミングだ。去年までは、学校などで会った時に直接伝えられていたため、まさかその為だけにこんな深夜に彼が起きているとは思わなかった。
『あ……もしかして寝てしまってましたか……? ごめんなさい』
「い、いや。起きていたよ。衣桜からこんな時間にメッセージや着信があると思わなかったから、驚いてしまったんだ」
『今年は、はやくこうくんにお祝いの言葉を伝えたいなって思って、頑張って起きてました』
「それは……申し訳ないな。ごめんね、久しぶりに先輩と話していたんだ」
『そうでしたか、それなら仕方ないですね!』
「……ごめん」
電話口から聞こえる健気な声に、気付くのが遅くなってしまったことをさらに申し訳なく思い、素直に謝罪を口にした。
『えっ、なんで謝るんですか』
「いや、せっかくのきみからの連絡に気付かなかった」
『いいえ、それは謝ることじゃないです……そもそも怒ってないですし。でも、そうですね……来年はボクが一番がいいなって、わがままを言ってもいいですか?』
普段、わがままどころか、ほとんど、自分の主張をしない衣桜から可愛らしいお願いが飛び出し、僕は思わずスマートフォンを握りしめてしまった。答えは決まっているのに、なんと返そうか悩んでしまう。
「……」
『あっあっ……わ、忘れてください……こんなわがままを、すみませ──』
「いい」
『え、っ』
「……わがまま、言ってほしい」
沈黙にすきま風が通る。今日は雪が降るんだっけと思いながらソワソワと落ち着かずに窓の外を見るが、澄んだ空に満点の星空が綺麗だった。
『……は、はい。わがまま、いいます』
「うん、たくさん言って」
『あ、すぐには出てこないですけど……!』
「これから先、少しずつ聞かせて」
『……はい。こうくんも、わがまま聞かせてくださいね?』
「……そう、だね。……じゃあ、今日はもう遅いから、明日起きられなくなったら困るし……一緒に寝てくれる?」
『!もちろん。えへへ……おやすみなさい、こうくん。また明日』
「おやすみ、衣桜」
『ふふ、良い夢を』
相槌を返すと、衣桜が遠慮がちに笑って、通話が切れた。きっと通話口の向こうでは、いつものようにはにかんでいたのだろう。
明日は自分が生まれた事以上に特別な日になるといい、そんなことを思いながら、端末を机に置いた。