しがだざちゃんと!楽しいハンター生活! 一、
特に何か変わったことがあったという訳でもなかった。
日々の日課である「あらくれ」潜書編成はいつもの通り、俺(太宰)、志賀直哉、小林多喜二の三名。
その他別の三編成は各自本の中へ潜っていると思われる。なんのことはない日常、ルーティンってやつだ。
「だというのに俺たちはいま晴天を仰いでいるのである…」
「それだけだと非日常感が読者に伝わらねえな…」
隣の直哉からそういうことじゃねえんだわっていう感想が飛んで来たんで、伸びきった腹直筋にげんなりするまま「どこに読者がいるんですかねぇ」と返した。
喉から空気が抜けてゆく、俺たちは二人仰向けで…洗濯物のようにして仲良く木の枝にひっかかっているのだった。
絶体絶命って訳じゃない、俺か直哉かどっちかが身を捻って状態を立て直し、片方に手を貸して木の枝に座るなりすればいい。
それをする気力がどちらにもないのは、両者現実を受け止める勇気がなくて詰んでいるからである。
上空にとんでもなくでかいドラゴンのようなものが二体いて、とんでもなくやばい喧嘩をしている。
咆哮なんかされると鼓膜がやぶれそうになる、耳を押さえて身をすくめていると、上空で激しく衝突する振動と轟音が骨の髄まで響いて、気持ち悪さを堪えているとどっちかが噴き出す業火が目を焼く。
生い茂る木の葉のおかげで、上空の生物から俺たちの姿は見えていないようだが、どさどさ落ちてくる火の粉で木が燃えやしないかとハラハラしっぱなしだ。だが今下手に動いて存在を気取らること、イコール、凶暴な野生生物のヘイトを買ったと同義…。「ヒグマの目の前で猛ダッシュするな」って多喜二とよく口にしてたけどまさにそう。(考えなしの飛び出し男がいるんでねこっちは)
実際の潜書先でだって侵蝕者と同じくらい野生動物は恐ろしい訳だ。ヒグマだったらワンパンチ、イノシシだったらワンダッシュ、小さい猛毒のアサシン連中もごまんといる。ああ~山とか林とか嫌いじゃないけど嫌いだ!ふるさとは遠く思うもの!そして悲しく歌うもの!
「治、もっかい言っていいか」
「何度でも言ったらぁ」
「なんだあれ、どの本だこれ」
「潜った本はあらくれに違いない、メンバーは俺とお前とあと多喜二に違いない、お願いだから多喜二はどっか無事なところにいてくれ…」
「ここが一番やばそうだしな、危機察知能力ならお前と遜色ねえから大丈夫だとは思いてえが」
洗濯物になりながら、直哉と二人可能な限り身を寄せてこそこそ話をする。静かな時は音は出せないものの、ぶつかる音だの燃える音だのがしている間は向こうにも聞こえないだろうという算段で…(鳥の鳴き声の方が大きい)
この世には司書の数だけ様々な形式の図書館があるそうだが、我が図書館のシステムにおいて、潜った本は予定とはうっかり違う本でした!なんてミスが起こる確率は低い。そもそもこれなんの本だよ、ファンタジーじゃん。ドラゴンが猛烈に喧嘩してる作品って誰が書くんだ?うちにそんな人いた?
本日のあらくれ潜書は一回目だった。転生体の器と魂を一時的に乖離させる特殊なプールに潜ったのは確かに俺たち三人、見えていた本はあらくれだった。が、本の中に入ろうというタイミングでエラーが発生した。通常のエラーなら、そのまま弾き出されて終わるのだが、今回はエラーのままの本の中に潜って行ったのだ。引きずり込まれたというべきかもしれないが。
「潜書中にエラーになることもあるけどさぁ、そのまま強制撤退が常なのにな」
こういったイレギュラーな事態が起こった時、最も冷静なのは春夫先生率いる安吾と乱歩のバカップルの三人チーム。おふざけお騒がせカップルを表情ひとつ変えず突き従えてる春夫先生には尊敬の念しかない…ってのはともかく、流石ミステリー脳とでもいうべきか、物事をタグ付けしてカテゴリ分けして論じて見せるのが上手なのだ。
それに比べ俺たちはというと、なかなか面白いことになる。一番冷静なのは多喜二、直哉は「冷静なフリをする」タイプ、俺は「混乱しながら冷静になる」タイプ。ある意味真逆で冷静の効能(?)に時間差がある。
そんな訳だから、この事態になってすぐ直哉はパニックになる俺を「落ち着け、大丈夫だから」とかいって抱きしめてくれたものだが、今は頭が追い付かないって表情で、余裕なさげに冷や汗をかいていた。
動揺が先にくる俺を、最初は身体から動く直哉が支えてくれるし、逆もまた然り。真剣な顔で黙り込んだ直哉のお腹を(仰向けなので)ぽんぽん叩くと、少しだけ力が抜け、余分な空気が漏れたようだった。
なんとか態勢を立て直して、木の上に座る。改めて状況を確認するが、木の下に飛び降りるには距離があり、武器の展開もやはりできない。
正常な潜書ではない事から、自身の肉体能力も普段通りにいっていない可能性がある。だが例えば戦闘能力や肉体の耐久性は変わっていないにしても、無闇に飛び降りた先に何があるかもわからない。
「見つかって攻撃されるのもそうだが、地面が安全だという保証もない」
「隠れられる場所があるかもわかんないよな」
「…今動くのは危険だ」
落ち着いたらしい直哉の低い声。目を合わせて頷く。
木の葉の間から上空の様子を伺ってみるが、ドラゴンのようなもの…の戦闘は激化するばかりでどうしようもなさそうだった。火の粉に被弾しないようにするのがやっと。火の粉ってレベルじゃないぞ、下手すりゃ小さな隕石だ。この大木も絶対安全って訳じゃないだろう、燃えることもそうだが、巨体がぶつかれば倒壊するかもしれない。だいたい燃え上がるだけで俺たちの物語が終わっちまうかもしれないしな。
「どっちかが負けて落ちてくるだけでアウトだな」
「怖いこと言うなよ~!」
まだこの木が無事なのは、結構な大木でありながら、それよりも遥か上を飛んで喧嘩してくれているおかげである。
どうやら俺たちに気を配る余裕はないと踏んで、少し気楽に話せるようにはなったが…。直哉と二人で思考を巡らせてもあのドラゴン二体がどっか行ってくれないことにはどうにもこうにもいかなそう。
「!おい治!」
ため息をついて身を丸めると、直哉の鋭い声が飛ぶ。馬鹿!大きな声を出すやつがあるかぁ!
ばっと顔をあげた時、すでに視界は白く濁っていて…いや違う、白い煙が充満していて…いやなにこれなにこれ!
「わーーーっ!」
「落ち着け、木が燃えてる感じはしねえ、霧…って訳でもねえな」
「じゃあなになになになんなのーーー!ガス?ガスじゃないの!もうおしまいだぁ!」
頭を抱えて泣きかける俺の口を、直哉のストールが塞ぐ。黙れという意味ではなく、この煙を吸い込ませないためだろう。
見ろ!という動作に合わせて上を見る。
ドラゴンが両者とも争いをやめて、旋回している。どこか動作が緩慢だ、もしかして煙を嫌がってる?
地上は既に何も見えない状態で、直哉の位置も危うくなる程度の濃く白い煙が充満している。息を飲んでいるうちに二体がどこかへ飛び去る影が見える、遠ざかる音から確かに遠く離れたことがわかった。
二人で長い呼吸を吐いたあと、顔を見合わせてほほ笑む、と、直哉の肩口からひょこっと…化け猫の顔が飛び出した。
「ニャ、ニャ」
まだ煙が充満している地面へ二人して尻から落ち、尾骨の割れる思いをしてのたうち回った俺たちを心配したのも化け猫だった。二足歩行だわ、なにやらごにゃごにゃと猫の鳴き声以外の言葉は発してるわ…。
殺意とかは感じないけど、意思疎通が取れる気もしなくて直哉と途方に暮れてると、遠くから人間の声がした。
「太宰~!直哉サン~!」
思わず顔を見合わせる、間違いない多喜二だ!
返事をしようとした時、同じ声で「しがだざちゃん~!無事ですか~!!」と続けられ、「名前をくっつけるな!」なんて突っ込んだ後、脱力して笑ってしまった。
数時間ぶりに会った多喜二は元気そうでホッとしたし、それどころか序盤と装備が違うし、どことなく逞しく見えた。
多喜二が言うに、この化け猫は手助けしてくれた味方らしい。気のよさそうな笑顔と、ユーモラスな愛嬌から俺たちもほどなくして打ち解けた。
そのまま安全な隠れ家のような場所まで案内してもらい、やっと一息つく。三人とも目立った怪我もなく(尻は強打したが)、身体に影響が出ているのは武器の展開だけのようだった。
二、
無事に合流した太宰と直哉サンから、多喜二はいままでどこにいたんだと聞かれたので、かいつまんで回想しようと思う。
俺は潜書のエラーで林の中にある水場に放り出された。なにがなんだかわからなかったが、太宰と直哉サンを探さねばならない。
そのために真っ先に必要なものは、だいたいの地理と、びしょ濡れの服を乾かすこと。
「‥‥‥おなかがすいた…」
それから食料。
火を起こして服を乾かし、状況と周囲を確認すると、武器が展開できない以外はまあまあ通常であることがわかり、草むらの一部に魚がいっぱいいる場所を見つけた。
どうやったら魚を上手く捕まえられるだろうと思いつつ、火を安定させてから、手ごろな石を手にする。勝負は一瞬、体重を乗せて、できるだけ頭に当たるように…!
「…うーん、いっぱい捕れたけど、俺でも食べれそうなのはこれくらいかな」
手持ちの小型ナイフで歯が立たないもの、今にも弾け飛びそうなもの、見るからに危険そうなもの、の気絶しただけのものは水に戻した。
単純に硬いもの…のうろこでナイフを研いだらナイフの切れ味がとてもよくなったので助かる。それから綺麗な金魚など。
唯一食べれそうな魚をわんさか捕って焼いて食べていると、どこからか視線を感じた。「?」きょろきょろ探してみると、なにやら二足歩行で両手になにか持った、大きな猫がいる。
「ンニャ…」
猫の鳴き声以外になにか言語が聞こえたが、聞き取れなかった。聞き取れないというより、俺の知る言語じゃないみたいだ。
身振り手振りで言葉がわからないことを伝えると、猫は理解したのか、俺のもってる魚を指す。
ああ、お腹が空いているんだな、と、生がいいか焼いたのがいいか聞くと、焼いたものがいいというので一緒に並んで食べた。
どうにもそれ以外に悩み事があるらしく、お腹がいっぱいになった後、猫は大きな葉っぱを取ってきてなにやら書き始める。
猫の手とあなどるなかれ、緻密で繊細な魚の図が完成していたのだった。キラキラするマークは俺たちと変わりがないようで親近感を覚えるね。
「ニャ!」
どうやらその魚を手に入れたいらしいが、俺の狩場には見当たらない種類だった。猫は違う場所を指している。
「なるほど向こうにも水場があるんだな」
現地の猫なら、太宰と直哉サンを探す手掛かりもくれるかもしれないと思って、協力することにした。
しばらく一緒にいると、なんとなく言葉がわかってくる。外国語と原理は同じだから、繰り返し単語の確認をしていればいずれ理解できるだろう。
「ニャ!」
これは警戒した時の言語、多分危ないとか危険とか。指し示す先を見ると、水場に大きな…青い、なにかがいる。熊…?いや、カラーリングはとにかくあのサイズだとヒグマに相当する。
思わず石を握って身構えるが、青いヒグマは周辺を平和にうろうろするだけで特に何かがある訳ではない。時折、魚を捕ったり、はちみつを舐めたり。
しばらく観察してると、がっかりした表情の猫を見て状況を察した。あそこの水場に猫の欲しい魚が生息しているのだ。
落胆具合から見ても、他の生息地がないんだろう。なんとかしてやれないかなぁ。
猫と一緒に元の場所へ戻って、乾いた服を着てベルトを絞め、ゴーグルを手に取る。猫はぐるぐるその場を回って考え込んでいるようだった。
ふと姿が見えないなと思ったら、何かを持ってまた出てくる。
「武器…?」
大きな刃物は壇のものと似ている。あとは見たことのない形状の銃だった、というより、猫の体格よりも何倍も大きくて重たいそれを軽々持ち上げる猫の筋力に感嘆する。
身振り手振りで説明する猫の意図を読み取ってコミュニケーションを図りながら、俺は大きな銃の使い方を覚えた。
ふたりで試行錯誤し、はちみつと青いキノコで睡眠(って猫が言ってた)弾を作る。他のアイテムやその辺の植物なんかもなんとなく教わり、なんとなくわかった。
そう、太宰と直哉サンが窮地に立たされているとき、俺は環境に順応していたのです!
遠くから青いヒグマ(アオアシラだって言っていたと思うが)を狙い撃つことは難しくはなかった、思ったよりもあっさりとヒグマは倒れ、寝ているうちに猫の欲しがっていた黄金色の魚を取得することに成功したのだった。
お礼をしたいという猫の申し出で、しがだざちゃんを探したいと伝えると、少しの間どこかへ行ったあと仲間を連れて戻ってきてくれた。
さあ、二人を捜索だというとき、遠くから轟音が響く。ヒグマの睡眠効果はとっくに切れていたはずだから、暴れているのかと見に行くと、ヒグマなんかよりもっと大きく、もっと凶暴そうな、鋭い牙を持つ翼のあるトカゲがヒグマと争っていた。
猫たちが怯え、俺を引っ張って離れるように言う。離れる最中にヒグマがでかいトカゲに殺され、捕食されているのを見たのだった。
もしかしなくとも、とんでもない世界に迷い込んでしまったんだろう。よりしがだざちゃんの安否が気遣われる、一刻も早く探さないと、そう思ったのだった。
「…ちょいちょい名前を繋げるの出てくんのはなんでなんだ」
「しがだざちゃんはセットだと思ったので」
「想像よりほのぼのしててよかったよ、っていうか順応はやッ!」
「そのあと、どう探そうか思っていたのですが、上空でドラゴンが争っているのを見つけて、トラブルに巻き込まれやすい二人だから…と思って双眼鏡で覗いたら赤い羽織が見えたという訳です」
「あの白い煙はなんだったんだ?」
「煙玉っていうらしいよ、アイルーが教えてくれたんだ」
「へえ、アイルーっていうんだこいつら」
太宰は可愛い猫と対面して、緊張感も緩んでリラックスしている。直哉サンは状況に追い付けていないのがため息をつき、とりあえず助けてくれてありがとなと言って笑った。
「いえ、俺はしがだざちゃんの守護者ですので」
「やってることはかっこいいんだよなぁ」
「名称以外な」
ほんの少ししばらくの間、俺たちはアイルー達から必要最低限の事を学びながら過ごした。俺はどんどん言葉を理解できるようになったが、二人にはまだ難易度が高いようで、時々首をひねって俺に通訳を求める。
アイルー達には異世界から来た存在というのは伝わらなかったが、大陸には多くの文化が存在していること、「ハンター」と「モンスター」の関係性だけはどこも共通なことを知る。つまりさっきのがモンスターで、個々には名称がある。ヒグマはアオアシラ、空を飛んでいたドラゴンはリオレウスとリオレイア、どうも軽い痴話喧嘩だったそうだ。アオアシラを襲ったのは、ティガレックスというのだという。
ティガレックス、まるで恐竜映画に出てきそうな迫力そのもの、博物館そのものの姿だ。
「街に出てみるニャ?」
太宰と直哉サンも環境に馴染んで、動植物の把握もできた頃、黄金魚を納品するために街へいくというアイルーに同行を薦められる。
とにかく今は情報が必要だ、通信もどこかでできるかもしれねえ、直哉サンがいう事に太宰も頷く。
かくして俺たちは、少しの間お世話になったアイルーの隠れ家に礼と別れを告げて、一路、どこかの街へと歩を進めることになったのである。
三、
そんな訳で志賀直哉だ。
密林の中から出てしばらくの移動は荷車を引っ張っての徒歩で、道なき道を通り抜け、時には小さな穴をこじあけるように通り抜け、多喜二が屈みすぎて腰を痛めたり、治が尻をつかえさせたり、俺が頭をぶつけたりして、ようやく人口に舗装されたらしい道に出た時の感動は形容しがたいものであった。
「もうすぐ街だそうですよ」
「街にはなにがあるんだろうな~」
「なんでもいいからまともな食事と睡眠がとりたいぜ…」
多喜二と治は困窮した生活を送った経験もあって随分へっちゃらに動いているが、自分には少々きつい。とはいっても育ち云々でなく(俺だってタライを風呂にするくらいは質素生活してたからな)単純に疲労の問題だ。治だって平気そうにしているけど、電池が切れるのは一瞬なんだ、猫の住処で過ごすには限界が来ていた。街に来る選択肢がなければどうなっていたことやら。
「あっ直哉!」
重たい足で歩いていたせいか治が教えてくれるより先に後ろからふわふわしたものに背中を押された。驚いて飛び上がったが、その両脇を何かに支えられる。
いや人だ、誰かに支えられて、ついでにひょいと巨大な何かのものの上に乗せられる。
困惑するまま小高くなった視界で多喜二と治を見下ろすが、二人の表情は柔らかなままだったし、なんならこっちを見て笑っていた。
なんだ?なんだ?跨っているものはよく見ると鳥…ダチョウのようだが。ぽんぽん羽毛を叩くと、ゆったりした動きで上下する。体に繋がれた荷車を見るに、俺を支えた人物は行商人かなにかで、このダチョウを引っ張って歩いていたのだろう。それにしてもさっきまで気配がなかったじゃねえか。
「なんて言ってんの多喜二?」
「疲れてるみたいだから街まで乗せていってあげるよ、だってさ」
「そうなん…うひゃ!」
その人と会話を終えたらしい多喜二が、ニコッとして太宰を抱え上げ、ダチョウの上に押し上げる。思わず治を抱きかかえて引き上げて、びっくりしたじゃんかって文句言ってる治の様子にホッと安堵して笑った。
言語はまだちゃんとはわからないが、表情やニュアンスやトーンの癖はわかってきた。行商人は俺たちのことを「旅人かハンターか」と聞き、多喜二は「モンスターとは対峙したよ」と答える。
遠くに地平線の見える、広大な緑と青空。
行商人は「素質がありそうだと思うなら、ギルドに行ってみるといい」と言って荷台の多喜二に、規格外らしい果物を俺たちの分までくれた。なんていい人なのか、感心しながらゆらゆら心地のいい乗り心地に船を漕ぐ、治が後ろから抱くように腕を回して手綱を握ってくれていた。
「直哉、着いたよ」という声で目覚めるなり感嘆したのは、どこでも見たことのない新しい文化の存在する様を目の当たりにしたからである。
見たことのない品物、これは外国ならありそうな雰囲気だが、街を歩く人の格好に戦いの装備品のようなものが見られたり、盾や剣や矢、それらを鍛える鍛冶場などが露出して見えるのが大層珍しく、良い迫力だった。
俺たちを案内してくれたアイルーは道中、行商人と取引が成立したらしく黄金魚を納品できて喜んで礼を言っている。
「俺たちもいろいろ売ってお金も出来たし、宿も取れたし、ギルドに行こうか」
「よくわからない種子とかキノコとか虫とか結構なお金になるのもあるんだなぁ」
俺のぼんやりしている間にとんとん話が進んでいたとみて、なんだか照れくさい気持ちになる。
街の中央部に拠点があるそうだが、いまは全員街の奥まった部分にいるらしいと聞いてそちらへ向かうが、向かっている途中に数人がバタバタと出入りしている様子があった。なんだ?よく見るとどこか焦燥感が街に漂っているような気もする。
「多喜二、街の人はなんて言ってんだ?」
「…少しざわついていますね」
「え?そう?ぜんぜんわっかんないな~」
治はぽかんと多喜二に返している、おそらく疲れて眠いんだろう。電気切れが近いのだろうと肩を抱くと、おとなしくよりかかってくる。
「すみません」と声をかけてテントを覗くが、誰もいないように思えた。簡易的な丸太の椅子に治を座らせて、頭を抱いて身体を支えてやる。
ようやく奥から女性がひとり顔を見せてくれた。軽装だが機能的な服を着ている。彼女と多喜二が会話しているのを見守りつつ、染みついた疲労からあくびがひとつ。
「退け!退け!!!」
気の抜けたところに怒声が響いて、俺も治も飛び起き、多喜二も驚いて俺たちの側へ寄る。
「早く」とか「運べ」とか急を要しそうな単語が散らばっている。
女性になにかを説明されてから多喜二は頷いて俺たち二人の背を支え、決めた宿へと移動した。
「ティガレックスの調査中にハンターが怪我をしたそうです」
一息ついている間に眠ってしまった治の服を脱がせて、ちゃんとベットに収めてやってから、多喜二とぽつぽつ話をする。
「街を守るハンターが怪我をしてしまったので、代わりのハンターを要請しているようですが、困った状況ではあるでしょうね」
「なるほどな、あの騒ぎはそういう」
「はい、それで思ったんですが…」
緩んだ表情で寝息を立てる治の髪の毛をふわふわ撫でつつ、久しぶりのベットに沈み込む。
順応が早いことはなによりだが、精神に身体がついて行っていないような気もした。物語でいうなら、展開が早いってやつだ。生活が急激に変わったのにゆっくりする暇がない。テンポがいいのは俺好みではあるが…。
「情報が欲しいな」
「それと拠点に相当するものが欲しいです、俺たちは探すものはあるけど旅をしたい訳じゃない」
「あとは路銀だな」
んにゃ、と治が可愛い声をあげたので二人で笑って、頷きあった。
翌日、街を守るハンターがいなくなってしまったということで、新参者でありながらもギルドの助けを得て臨時のハンターを務める旨をギルドに伝える。
ギルドには大歓迎といった感じで迎え入れられた。軽くしか事情を伝えてない治が昨晩のやり取りを知るのは少し後のことだが、事情を呑み込むのが早いのは作家ならではの楽なところだと思う、特に治はな。
四、随時更新