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    yama_kogashita

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    yama_kogashita

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    七虎l愛と孤独の話 終lTwitterに投稿した話の最後になりますl7️⃣死ありl気持ちはハピエン

    #七虎
    sevenTigers

    一人で逝けナナミンが死んだ。
    遺体が綺麗に残ることはなく、身体には大きな火傷と内側からの破裂。とてもじゃないが、回収出来るような状態では無かった。
    無惨と言えば、そうなのかもしれない。
    それでも、呪霊と戦って、戦って。
    人を助けて助けて。
    そんな彼の生き様を、誇らしい精神を遺したままの死だった。

    なぜなら、俺は見た。

    あの日、あの時、あの場所で。

    俺は、彼の死を見たのだ。

    「虎杖くん」


    「後は、頼みます」


    パチン。



    ポケットで震えたスマートフォンで目が覚める。

    開いた瞼の先は真っ暗で、もうとっくに夜が来訪していることを知った。
    ここはナナミンの家で、二人の部屋で。
    ソファーにもたれ掛かるに寝ていた身体はすっかり冷え切っていたが、いつもそれを諌めて起こしてくれるはずの人も、そっとブランケットをかけてくれる人もいない。

    ここに、いない。


    (とりあえず…飯、食わないと…)

    そう思っても、身体は動かない。必要性がないと言わんばかりに、筋肉が動作を拒否する。
    「…だめだよ、ナナミンに言われたんだから」
    言い聞かせるように呟くと、渋々と頭が持ち上がった。関節がぎいぎいと軋んで、泥濘みからやっと這い出る感覚。サイドテーブルのリモコンで灯りをつけると、急な眩しさが網膜を焼いた。

    変わらない。何も変わらない部屋の風景。

    何も変わってないはずなのに、致命的なパーツが足りない。

    足りない、いない。


    ―ナナミンが、いない。


    のろのろと冷蔵庫を開けると、つい2日前にナナミンと一緒に作ったミートボールとポテトグラタン。確か、このグラタンの名前は「ヤンソン氏の誘惑」だっけ。変な名前の料理だねって、この台所で笑ってた。

    一昨日まで笑ってた。
    昨日まで笑ってた。

    二人で、笑ってた。


    「うっ…ぁ…」
    急に鼻の奥がツンとして、目の奥から熱い波が押し寄せる。
    知ってる、これ。泣きそうになったら来る感覚。
    自覚をするともう止められなくって、俺は冷蔵庫を開けっ放しにしてその場に蹲った。

    ナナミンが死んだ。昨日死んだ。
    俺の目の前で、呪霊に殺された。
    間に合わなかった。助けられなかった。
    来た時には何もかもが手遅れで、ナナミンが死ぬ瞬間をただ見ていた。

    「ぅ…うわぁ…ああああ…っううううう、あ、あああああ」

    冷蔵庫が非難するようにピーピーと電子音を繰り返す。それを無視して泣いていると、やがて諦めたように電子音と照明が消えた。

    出来なかった、何も出来なかった。
    好きだった、大好きだった。
    今までの感情がままごとだったと思う程に、強く深く愛していた。
    なのに、なのに。
    「ナナミン…う、あぁ、ナナミン、ナナミン、ナナミン…うあ、ああああああっやだ、やだよぉナナミン、ナナミン、いかないで…俺を置いていかないで…やだ、やだぁナナミン、ナナミン」

    泣いた。泣いた。
    ひたすらに泣いた。
    空腹すら感じず、寒さも分からず、上下左右も判断できない程。
    泣いた、泣いた。

    「ねぇナナミン、逝かないで、逝かないで、お願い、お願い、逝かないで…」

    逝かないで、逝かないで。

    ずっとずっと、傍にいて。


    一人でなんか、逝かないで。






    虎杖くん、虎杖くん。
    聞こえていますか虎杖くん。
    またそんな所で寝て…風邪を引いてしまいますよ。
    ほら、起きなさい。電気をつけて。
    そうです、良く出来ました。では、次に食事にしましょう。もうとっくに夕食の時間です。
    確か冷蔵庫にショットブラールと「ヤンソン氏の誘惑」があったはず。君が北欧の料理を知りたいと言って、二人で台所に立って作ったもの。正確には私の実家の料理ではないのですが…それでも私のルーツを知りたいと。
    嬉しかったですよ、君の気持ち。あの時は言えませんでしたね。

    虎杖くん。
    虎杖くん。

    私は、君にひとつ嘘をつきました。

    「死ぬ時は誰でも一人」
    私はかつて君にそう言いました。
    大勢に囲まれて死ぬることを夢にしている君に、ひどく酷な事を言ってしまいましたね。それでもその時、私自身は確かにそうだと思っていましたし、そうだと信じていました。


    ―君を愛するまでは。


    君を愛してから、私は多くを知りました。
    誰かが自分を待ってくれること。誰か自分を呼んでくれること。誰かが自分を愛してくれること。
    その数多の幸せを、私は君に逢ってからようやく知ったのです。
    笑ってくれても構いません。君に偉そうに説教しておきながら、この世の何一つ理解していなかったのですから。

    だから、そう、今の君にも分かるはずです。

    あの時確かに、私は孤独ではなかった。

    一人ではなかった。

    私の傍には、いつだって君がいました。
    今だってそうです。
    虎杖くん、君だって。
    今この瞬間も、君は一人ではないのです。

    どうか、どうか泣かないで。
    いえ…やはり泣いてくれても構いません。
    でもそれはどうか、暖かいところで。
    今の私には君を抱きしめることも、布団を掛けることさえ出来ないのだから。

    ねぇ、虎杖くん。虎杖くん。

    愛しています。この世の何よりも、誰よりも。


    「君をずっと、愛しています」







    それは夏のことだった。
    磯の香りを含んだ風が乾いた唇を舐めて、清々しく視界を開いていく。
    ざぁん、ざぁんと波が寄せる浜で、青年が本を開いた。上等な革表紙には年季が入っており、青年がそれを愛読していることが分かる。
    一頁ずつを愛おしそうに捲っていく様子はひどく穏やかで、目には深い慈しみ。通りがかった人も思わず微笑みを溢すほどに。

    ざぁん、ざぁんと波が寄せた。
    時折遠くでぼぉーっと船が煙を上げた。

    時計も時間もない浜辺にも少しずつ夕暮れはやって来て、やがて青年は本の最後の頁を捲る。

    その最後に、印刷ではないインクの走り。
    几帳面で誠実な筆致は、文字を書いた人間の性格を表すよう。

    青年はその文字をゆっくりと撫でて、字の端にキスを一つ。

    「…俺も、愛してるよ。そっちに行くまで、もうちょい気長に待っててね。ナナミン」



    ―君の最愛より、愛を込めて

                 七海健人
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