峠前の茶屋所(坤💊売りさんと🌸の会話)町と町を繋ぐ道すがらに、1軒の茶店兼宿屋があった。
そこは旅人や飛脚などが往来する中間地点にあり、店を構えた当初は細々と商いをしていたが、利用客から「茶菓子もだが飯もあるといいな」「峠を越える手前、泊まれたりもしたら有難い」など様々な声もあり、今では茶屋兼宿屋といった少々珍しい場所となった。
そんな茶屋兼宿屋には、1人の看板娘がいた。
幼い頃に両親を天災で無くし、途方に暮れていた際に店主夫婦に拾われ、血の繋がりはないが娘同然に可愛がられ愛し育てられた。それ故かとても明るく、はきはきと。何より仕事対し真面目に、そして楽しく働く娘へと成長した。そんな楽しげに働く姿に、利用客からは「元気で器量ある娘さんだ」「見ていると元気をもらえるよ」と褒めるものが多く、また彼女の結い上げた髪には、薄桃色の椿を模した摘み細工の簪が髪を彩り、利用客の中では「🌸ちゃん」という愛称で親しまれていた。
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