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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▷しゅてんちゃんと王様

    ##第三者がいる話
    ##3001-5000文字

    しゅてんちゃんと▽しゅてんちゃんと王様がだべってるだけ
    ▽ぐだキャスギル





     甘だるい花の蜜を溶かしたような空気に満ちた室内。床には空になったグラスや瓶が転がり、中身を零している物もある。その周囲には、安らかに寝息を立てている者、高いびきをかいて寝ている者、むにゃむにゃと聞き取れない寝言を発しながら寝ている者、隣りにいる者にしがみつき寝ている者、しがみつかれ険しい顔つきで寝ている者、死屍累々といった有り様だった。
    「――さすが、あんたはんは酔わんのやねぇ」
     室内の空気を更に煮詰めてどろどろに溶かしたような、窒息しそうなほどの甘い酒気を纏った小鬼が隣でころころと笑う。床で潰れている誰よりも酒を煽っていた彼女だが、幼気な少女の姿をしたこの鬼が、酔っているところなど召喚されて今日までついぞ見たことがない。
     酒呑童子の気まぐれで開催される酒宴は、いつも彼女の一人勝ちだった。ギルガメッシュは潰されるような失態はまだ演じていないが、最後まで付き合っていてはいずれそうなるだろうと程々で去ることにしていた。ここにあの征服王でもいれば違っただろうが、幸か不幸かあの豪気な男はまだ召喚されていない。立香はいつか召喚するのだと息巻いていたからいずれは喚ばれるのだろうが、さて。
     その立香は早々に部屋へ逃がした。酒乱に絡まれて面倒なことになるのはもうごめんだし、立香の方が酔い潰されても困る。大抵の場合ギルガメッシュも共に抜け出すのだが、今日は呑みたい気分だったので一人帰らせた。立香は一人で帰ることをだいぶ渋っていたが、適当なところで迎えにくることで妥協したらしい。離れがたいと顔に書いてあるのはなかなかにいじらしかった。
    「泥酔して酒の味も解らぬようになるには、惜しい酒であったからな」
     手のひらサイズの朱漆の盃を傾け、上等な酒を嚥下する。ひりつくように強い酒精が喉を焼くくせに、香りはなんとも芳しい。日本の酒とやらも悪くない。
    「あらまぁ、嬉し。王サマの宝には敵わんと思っとったけど」
    「無論、我のとっておきには敵わぬわ。つけあがるなよ、雑種」
    「なんやの、いけず」
     ギルガメッシュの持つ盃よりも一回り大きな、己の顔ほどもある盃を持つ酒呑童子は背中をギルガメッシュの腕へ預け、盃を煽る。腕にかかる重みはほとんどない。この小さく華奢な身体のどこに、生き物の肉を千切り引き裂く力があるのだろうか。
     意識のある者がギルガメッシュと酒呑童子しかいない部屋で、ふたり言葉もなく盃を傾ける。空になった頃合いに、目ざとく酒呑童子が酒を注ぎ足すので盃が乾く間はない。本人は手酌で黙々と呑んでいる。その顔にはいつもの甘い笑みが張りついていた。
    「……前から気になっとったんやけど」
    「なんだ」
     無言の時間が数分続いただろうか、何杯目かの酒をギルガメッシュの盃へ注ぎながら、酒呑童子が沈黙を破る。
    「旦那はん……マスターが言うには、うちの宝は雅重視、あんたはんの宝は性能重視。やからうちらの物の見方は相容れんのやと」
     ねっとりと絡みつく蜘蛛の糸のようなとろけた声で静かに語る声を聞く。そういえば以前ギルガメッシュも立香から聞いたことがあったような、なかったような。価値観が合わないのであればギルガメッシュの財宝へ手を出すこともないだろうし、なんの問題もないのだが。
    「けんどなぁ……うち、あんたはんが雅を解らんなんて思えへんのよ」
    「この我に解らぬことなどないが……貴様の物の見方とやらを理解しようとは思わぬな」
    「ふふ、そう言わんと、そやなぁ……たとえば、春の桜。昼間の桜も綺麗やけど、夜のお月さんと桜も乙やわぁ。それから旨い酒と、あとはきれいな――」
     言いかけて、酒呑童子は不自然に言葉を切る。言葉の先を待つ間、知識としてはあるものの実際目にしたことのない花を思い浮かべる。立香の国で愛される花。満開だけでなく散る姿まで愛でられるとか、そんな花だったか。それは立香の精神性と通じるところがあるような、ないような。
    「……王サマなら、やっぱり旦那はんやろか」
    「何がだ」
     隣からした声で我に返ったギルガメッシュは酒呑童子を見下ろす。見上げる黄昏刻の紫が悪戯っぽく弧を描いている。
    「旦那はんの蒼い瞳ぇにまぁるいまぁるいお月さんが映って……どや? ええと思わへん?」
     立香のあの蒼い瞳に、月。静かな水面を切り取ったようなあの大きな瞳ならば、映る月も大きいだろうか。ああ、それは見てみたい。
    「それは…………それは、好い、な」
     その時は今日のような上等な酒でも用意しよう。花見酒、というやつか。立香の年齢制限とやらも解けたようだし、ふたりで酒を酌み交わすのも悪くない。
    「――――」
     手元の盃を見下ろす。絶え間なく注がれていた酒は、今水滴ほどしか残っていなかった。そこでようやくお喋りな酒呑童子が黙りこんでいるのに気づく。一方的に問うておいて答えは無視か。自由すぎるにもほどがあろう、と咎めるために隣を見、こちらに向いていた満面の笑み、その隠されることのない邪気に一度目を瞠り、すぐに眉を顰める。
    「……なん、」
    「あぁ……ええわぁ、そのお顔。蕩けそやわぁ、蕩かしたいわぁ。旦那はんとふたぁりまとめて蕩かしたら……どないな味がするんやろねぇ。あまぁいあまぁいお砂糖菓子みたいになるんやろかねぇ」
     うっとりと、熱の篭った眼と声。神経を直接撫で上げられるような、快と不快を同時に感じる。指の先がぴりぴりと痺れていた。
    「……この酒に免じて今の発言は流そう。だがそれ以上は赦さぬぞ」
    「いややわぁ、いけず。そない冷たいこと言わんと、酒は楽しぃく呑まんともったいないえ?」
     こういうのを立香の国の言葉でなんと言ったか。なにか相応しい言葉があったような気がするが、探し出すのも面倒だ。後で聞くか。
     覗き込んでくるニタニタ笑う女童から視線を外し、いつの間にか満たされていた盃を口へ運ぶ。そろそろ頃合いか。しかし迎えにくると言っていた立香はまだ現れない。待つべきか待たざるべきか。
    「あんたはん、綺麗ぇなお顔してはるんやから、難しい顔せんとわろてたらよろしおす。それとも、そんな顔は旦那はんの前だけ、なんて、かいらしこと言わはるんやろか」
     つ、と熱いような冷たいような、温度の解らないものが頬に触れる。顎のあたりまでなぞられてようやく、酒呑童子の指だと気づいた。叩き落とすか否か、迷っている間に片頬にその掌がぺたりと触れた。しなだれかかるように、酒呑童子の華奢な身体がギルガメッシュの方へと寄ってくる。
    「ほんに、綺麗――――」
    「ススススストーーーーーーーーップ!!!!!!!!!」
     突然の叫び声と共に、ズササッと視界の中へ飛び込んできたのは、
    「立香」
    「なんや、旦那はん、もう来てもうたん?」
     そこはかとなく安堵の色を滲ませたギルガメッシュに、酒呑童子は身体を起こしながら唇を尖らせる。飛び込んできた立香は、制止したいらしく両手を左右に伸ばして、ギルガメッシュと酒呑童子の顔を交互に見る。
    「これどういう状況なんですか」
    「どうも何も、王サマの顔は綺麗ぇやなぁ、って見てただけやえ?」
    「ホントに ホントにそれだけ」
    「それだけや。なあ? 王サマ」
    「ああ……まあ、そうとしか言えぬな」
    「ホントに 魅了とかかけられてないですか」
     床に膝立ちになった立香は身を乗り出すようにして慌ただしく問うてくる。何がそうさせるのか、ギルガメッシュには理解できないが、心配していることは理解した。
    「我がかかるわけがなかろう。それとも鬼の魅了ごときも弾けぬとでも?」
    「酒呑ちゃんの魅了は空想樹にだって有効なんですよ」
     慌てふためく立香に、呆れ顔のギルガメッシュ、そして鈴を転がすような声で笑う酒呑童子。同じ問答を何度か繰り返して、ギルガメッシュが呆れ果てて返答に飽きた頃。
    「王様、本当に」
    「くどい。まったく……こうでもせねば信じぬか」
    「え?」
     溜め息混じりにぼやいたギルガメッシュは、己の方へ乗り出している立香の顎を指先で軽く持ち上げ、半開きの唇を同じもので塞いだ。「おやまぁ」と酒呑童子の呑気な声が聞こえる。
    「〜〜〜〜」
    「これで信じたか?」
     驚きすぎて声も出ない立香へ、ギルガメッシュは目線をあわせて首を傾げる。立香はぽかんとしたまま乗り出していた身体を戻して、今し方ギルガメッシュが塞いだ唇に手を当てた。ぱちぱちと音が聞こえそうなほど瞬きをして、それから一気に顔面を朱に染めた。
    「はわわ……」
    「はわわではない。信じたかと訊いている」
     言葉が出なくなったのか、立香は手を当てたままこくこくと何度も頷く。酒呑童子のクスクス笑う声がするが、酒呑童子に見られたところで痛くも痒くもないのだ。それより立香を信じさせる方が肝要だ。なまじ酒呑童子の魅了を間近で見ているから、信じられない気持ちも解る。解るが、疑われ続けるのもなかなかに面倒だから、良い解決方法だっただろう。と、そう思考するギルガメッシュも多少、酔っていた。
    「ナニモナクテヨカッタデス。ジャ、カエリマショウカ」
     真赤な顔の立香は今まで喋っていた言葉を忘れたかのようにぎこちなく言い、立ち上がる。動きもどことなく固くて妙だ。
    「シュテンチャンモ、ホドホドニネ」
    「はぁい。ほなおやすみ、旦那はん、王サマ」
    「オヤスミ〜」
     ぎこちないまま、立香は歩き出す。と、数歩進んで足をもつれさせる。襟首を掴んで転倒を防ぐと、「ぐえ」と潰されたような声を出して踏みとどまったから、すぐに離してやった。
    「……もっと他にありましたよね」
    「咄嗟にマスターを守ったのだから称賛せぬか」
    「アリガトウゴザイマス」
    「心がこもっておらぬわ。やり直しだ」
    「ありがとうございます!」
    「及第点だな」
    「そこは満点くださいよ」
    「たわけ。努力が足らぬわ」
     立香はギルガメッシュを引き連れて遠ざかっていく。くだらぬやり取りを、楽しくて仕方ないといった顔でギルガメッシュを見る立香は、童のように瞳を輝かせている。見下ろす真紅の瞳も、表情の割にやわらかい。
    「――仲よきことは美しき哉、やなぁ」
     見送る酒呑童子は独りごちる。扉を開けた立香がこちらに手を振るのを笑って振り返し、また何か戯れながら扉の外へ消えていくふたりを見送った。
    「えろう愉快なモンも見れたし、今日はこのくらいで堪忍しとこか」
     元の位置、酔い潰れた面々の輪の中心に戻り、朱漆の盃を酒で満たす。と、側に倒れていた茨木童子が「しゅてんんん……」とかなんとか言いながら足に擦り寄ってくるので、ふ、と笑う。
    「はいはい、茨木はええ子やねぇ」
     茨木童子の頭を撫で、盃を呷る。もう目を覚ましている者がいない部屋で、酒呑童子の一人酒は続く。
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