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    えんどう

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    えんどう

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    ▷パシャッとするやつ

    ##1万文字以上

    王様がぐだおをパシャッとする話▽王様がぐだおをパシャッとする話
    ▽ぐだキャスギル





    (明日の修練場は……剣かぁ。秘石落ちるかなぁ……)
     日替わりのクエスト情報を端末で確認していると、背後でカシャ、と聞き覚えのある音がして立香は顔を上げる。振り向けば金色の四角いタブレットをこちらへ向けているギルガメッシュの金髪がタブレットからはみ出して見えた。顔は隠れている。ルルハワで着ていた現代服でなく普段の露出高い装束に戻っているので、異国情緒あふれる鮮やかな装束と文明の利器は不似合いのようではあったが、タブレットが黄金なのでそうでもないような気もした。
    「もしかして今、背中撮りました?」
     寝そべっているのにタブレットの背面はこちらへ真っ直ぐに向けられているし、今の音はシャッター音だ。
    「何、貴様がいつまでも考え込んでいるようなのでな。日々のことであろうに、未だに覚えられぬのか」
    「ゔ。いや、確認しておかないと間違えるんで……」
     タブレットを下ろしたギルガメッシュは呆れたような目で立香を見る。確かに、毎週決められた曜日に決められたクラスのエネミーが設定されているのだが、立香は未だにクラス相性を間違うことがあるのだ。特に寝起きの出陣は。編成は決めてあるにも関わらず、なぜか間違えるのだ。
    「明日はセイバーであろう? であればアーチャーの我さえいれば問題なかろう」
    「そうですね、編成さえ間違わなければ……」
    「まあ、貴様がトンチキな編成で出陣しても我がどうとでもしてやろう。そのために我に財を貢いだのだからな」
    「……いつもお世話になっております」
     もしものためにどの編成にもそこにいるギルガメッシュは組み込んである。それでも以前ライダー相手にキャスター組を連れて行ったことがあるが、さほど問題もなく片づけてくれたので、確かに何とかなるのだ。
    「で、王様、なんでオレのこと撮ったんですか?」
    「貴様が以前我の許可なく我をパシャッとしたであろう? 仕返しだ」
     パシャッとするもの、ではなくカメラなのだが、その正式名称はギルガメッシュの知識に組み込まれているはずなのだが、あえてそう言うギルガメッシュに立香はかわいい、と思わざるを得ない。知識あふれるギルガメッシュは時折こういった言葉選びをする。わざとやっているのか、無意識なのか立香には計り兼ねるが、かわいいのでそんなことは瑣末なことだ。
    「撮るなら言ってくれればいくらでも写りますよ?」
     全く気恥ずかしくないと言えば嘘にはなるが、ギルガメッシュが撮りたいと言うのならいくらでも撮って構わないのに。
    「貴様の作り顔など撮ってもつまらぬわ。それよりいつもの間抜け面の方が万倍愉快よ」
     ごろりと仰向けになったギルガメッシュは先程撮った写真を確認しているのか、視線はタブレットの画面へ向けられている。今撮ったのは背中だったはずだが、それには触れずにおいた。
    「そんなに間抜け面してますか、オレって」
    「出逢った頃から全く変わらぬな。これが人理を修復した人間とは到底思えん」
     ふふ、と含み笑いで返す横顔は楽しそうであり、バカンスの名残があるのか以前より幼く見えた。あれ以降ギルガメッシュは更によく笑うようになった、と思う。元々感情表現豊かで表情のバリエーションが多い人ではあったが、なんというか、気の抜けたような笑顔を見せるようになった気がする。簡単に言えばかわいらしく笑うのだ。自分より遥かに年上の人間に思うことではないのかもしれないが。
    「でもせっかくなんだから顔撮ってくださいよ。王様、それ宝物庫に入れるつもりでしょう?」
    「たわけ。斯様な玩具、我の財に加える価値はないわ。まあ、玩具なだけあって愉快なものではあるがな」
     そう言うが、寝る前には宝物庫へしまっているのを立香は知っている。これから先も持って行く気満々ではないのだろうか。
    「いいじゃないですか。ほら、撮ってくださいよ。いえーい、ピースピースぅ」
     お竜が見せていたのを真似て両手でピースを作り、立香はギルガメッシュへ笑顔を向ける。
    「………………」
     ギルガメッシュはそれを蔑んだような目で見たあと、仕方なく、を前面に押し出した表情で溜め息混じりに立香へタブレットを向けシャッターを切る。
     これで、ギルガメッシュの持ち物に自分の顔が残った、と立香は内心で微笑う。ギルガメッシュが座へ戻ったあとの宝物庫はどのような扱いになるのかは解らないが、少なくともここにいる間はその写真が残り続ける。ギルガメッシュが見返すかどうかは解らないが、その手元に残るということに立香の顔は自然と緩む。と、そこへまたシャッター音がした。
    「なんで今」
    「間抜け面の方が愉快だと言ったばかりではないか」
    「ええ……そんな顔してましたか、オレ」
     要は自然体というか普段の立香がいい、と言っているようなものなのだが、立香はそれに気づかない。ギルガメッシュも無意識の発言である。
    「あ、じゃあオレにも撮らせてくださいよ」
    「断る。これは以前貴様が我の許しもなくこの我の尊顔を撮った仕返しだからな」
    「ええー」
     立香はただギルガメッシュの顔を一時でも手元に残したかっただけなのだが。もちろん今でもあの写真を残している。たまに見返してもいる。ギルガメッシュの今の行動が立香が写真を撮ったことへの単なる仕返しだというなら、撮ることだけで済み、写真自体は不要ということになる。ならば写真は削除されてしまうのだろうか。それは普通に悲しい。
     まあ、ギルガメッシュの記憶能力があればただの画像など必要ないのだろうが。今の立香の一挙手一投足も記憶し、思い出そうと思えばいつでもいつまでも思い出せる。それはそれで立香にとっては喜ばしいことなのだが、座に戻ってしまったあとのことは解らない。別のマスターに召喚されたギルガメッシュはこれまでの経験の実感を伴わない別人として召喚されるのかもしれないし、一切を覚えていないかもしれないし、目の前にいるギルガメッシュのように記憶したまま現界するのかもしれない。自分以外のマスターに召喚されるギルガメッシュを想像すると、なんとなく、胸のあたりが嫌な感じにざわつくのを立香は自覚する。これが所謂嫉妬、というやつだろうか。
    「…………王様、その写真どうするんですか? まさか消してます?」
    「……この我のものを我がどう扱おうと我の勝手だ」
     意味深な間があった、ので、もしかしたら、と立香の中でわずかに希望が生まれる。同時に、好奇心も。
    「そんなこと言わずに、見せてくださいよ。別にやましいものなんて入ってないですよね?」
     立香はベッドに乗り上げてギルガメッシュのタブレットへ手を伸ばす。
    「やめよ。我の物を我の断りなく触れるなど、」
    「いいからいいから」
    「あ、コラ、立香」
     身体を起こしたギルガメッシュがタブレットを遠ざけるように掲げ、立香が手を伸ばしてそれを追う。四つん這いでギルガメッシュの身体を乗り越えて、その脚と脚の間へ膝を押し込んで露出だらけの赤い布を押さえつけ、立ち上がられないようにしながら立香は膝立ちになる。こうすれば身長差もどうということはない。宝物庫へしまわれてしまえば手が出せなくなるのだが、珍しくそこまで頭が回っていないのかギルガメッシュはなんとか腕だけで立香から逃れようとする。そんなに慌てられると逆効果なのだが。
    「とっったどー!!」
     はしっ、と両手でタブレットを掴んだ立香は、そのまま素早く身体を引いて金のタブレットを掲げる。人生で初めて手に持った純金は、想像よりも重かった。
    「待て、立香、返せ」
    「いやいやそんな、王様が慌てるなんていったいどんな秘密が――」
     本当に珍しく狼狽える様を横目に、ギルガメッシュから距離を置くために素早くベッドから降りた立香は立ち上がりタブレットの画面を見る。やはり写真が収まっている画像フォルダを開いていたらしく、そこには今し方撮った立香の背中と、顔と、それから、
    「あ、…………え?」
     ずらっと並んだサムネイルには、いつ撮ったのか解らない、誰かと談笑している立香の横顔、遠くから撮ったのであろう何かを大口開けて食べている立香の顔、おそらくギルガメッシュを控えにして連れ出した戦闘での立香の真剣な顔、どこかを歩いている後ろ姿、エトセトラエトセトラ、極めつけは真横から撮られたであろう、半分口の開いた立香の寝顔。
    「、え、あ、あれ? えっと、これ、………………オレですか?」
    「………………………………………………………………………………………………そんな間抜け面、貴様以外に誰がいる」
     苦虫を噛み潰したような顔と声で言葉を吐き出したギルガメッシュが、顔を背ける。もうこれ以上何も言いたくないとばかりに口を抑えたその横顔、短い金髪から覗く耳の縁が赤いように見えた。
    「あ、あは、あはは…………」
     立香も立香でなんと言ったらいいのか解らない。脳の処理速度はとっくに限界を超えている。つまり、ええと、これは、どういうこと、なのでしょうか。問いかける言葉が浮かぶが、声にはならない。ただ、とんでもないものを見てしまった、ということは混乱した頭でも解った。とんでもないものを見てしまった。これは所謂隠し撮り、というやつか。でも、なんで。
    「えっと、エエト………………スミマセン」
     絞り出した言葉もぎこちない。そっぽを向いたギルガメッシュが居心地の悪そうな顔をしている。耳は赤いままだ。口を覆っている手で顔の半分が隠れてはいるが、その手が届いていない部分の皮膚も赤いように見えた。解りやすく照れている。照れているのか?怒っているのではなく?いや、怒っているのならとっくに怒鳴られて奪い取られているだろう。そうしないのは、ギルガメッシュもそこまで頭が回らないほど狼狽えている、のか。
    「……………………」
     無言でギルガメッシュが手を差し出してくる。返せ、ということだろう。見てはいけないものを見てしまったことに動揺しながら、立香はその手へタブレットを渡す。そこでやっとひったくるように立香の手からタブレットを奪い取ったギルガメッシュは、こちらも画面も見ないままタブレットのロックボタンを押した。消すつもりは、ないのか。
    「………………他人の物を勝手に見るなと教わらなかったのか、貴様は」
    「教わりましたスミマセン」
     目を合わせてはくれない。当然だし、立香も今どんな顔でギルガメッシュを見ればいいのか解らない。
    「…………これは、貴様の間抜け面を後世に残すつもりで、深い意味などない」
    「ハ、ハハ、ソウデスヨネ」
     そんな訳がないのはお互いに解っているのだが、今はその言葉に乗るしかない。だって、この王が、自分のことを隠し撮りするなど、そんな、立香からしてみれば、〝好きな人の姿を残しておきたい〟行為など、そんな。
     そう思った瞬間立香の顔面に、か、と一気に血と熱が集まるのが解った。
     だって今の写真はどう見たって、――
     ――愛おしむような気持ちがあふれている。
    (王様が、そんな風に、オレのこと、いや、でも、ええ? マジで?)
     これはまずい。非常にまずい。秘められていたものを暴いてしまった罪悪感と、写真から読み取った感情に対する嬉しさと、想像していたよりも自分は好かれているのかもしれないという思考と、なにかいろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざってどうしたらいいのか解らずに立ち尽くす。ギルガメッシュもギルガメッシュで気まずいのか怒っているのか一言も発しない。怒らせてしまったのか。いや、怒るよな、これは。怒る。怒るしとても恥ずかしい。
    「スミマセン」
    「…………よい。聞き飽きたわ」
     ギルガメッシュは目線は逸らしたまま、怒っているとも恥ずかしがっているとも解らない声で言い、歪めた空間、蔵へタブレットを押し込めようとする。その前に消したような仕草はしていない。消さずにおくのか。あの写真たちを。立香の、いろんな顔を。
    「待ってください!!」
     タブレットが半分ほど吸い込まれたところで立香は叫ぶ。突然の大声に驚いたのかビクッと肩を跳ねさせたギルガメッシュは、タブレットを蔵へ半分入れたまま止まった。
    「王様」
    「なんだ、謝罪ならもうよい」
    「いや、それは本当に申し訳ないと思ってますけど、そう、じゃなくて」
     言葉の途中で発声をやめた立香へ、ようやくギルガメッシュの深紅の瞳が向けられた。その目に怒りが見えなくて立香は安堵する。怪訝ではあったが。そしてその表情を前にした立香はしばらく迷ったあと、再び口を開く。
    「あの…………王様さえよければ、なんですけど」
     一面に並んだ写真が脳裏に焼きついている。その中の立香は、先程撮ったもの以外、カメラを見てはいなかった。隠し撮りだから当然ではあるのだが。
    「一緒に、写真、撮りませんか?」
     意を決してそう口にした立香をギルガメッシュは目を何度か瞬いて、ぽかんとした表情で見た。まるでその発想はなかったと言わんばかりの表情だ。
    「ていうか、撮りましょう。撮ってください。一緒に」
     離れた距離を戻って、入りかけのタブレットをずるりと引っ張りだす。ギルガメッシュはそれを見ているだけで止めようとはしなかった。了承、と受け取っていいのだろうか。受け取ろう。
    「……そんなもの、撮ってどうしようと言うのだ」
    「えっ? ええと…………待ち受けにします」
    「悪趣味にもほどがあろう」
     ギルガメッシュの隣へ座る。文句は言うがさして抵抗もしない。満更でもないのか。ないのだろう。ないのだ。ないと思う。思いたい。思おう。そしてそれはちょっとだいぶかなりめちゃくちゃ嬉しい。
    「好きな人、と撮るんですよ? 待ち受けにしますって」
     ボタンを押してロック画面を開く。誰にも触らせるつもりなどなかったのだろう、パスワードはかかっていなかった。
     ギルガメッシュの使っているタブレットは立香に与えられたものとそう変わりないようで、慣れた手順でカメラを起動させることができた。インカメに変えれば自分の顔が映ってなんとなく気まずい。自撮りなどしたことがない。ギルガメッシュは何も言わずおとなしく立香の操作を見ている。その視線だけは感じた。
     インカメを起動させた状態で、タブレットを持ち上げる。片手で上げられるところまでは上げたが、片手では重く、震えて安定しない。
    「王様、反対側持ってください。これ結構重いです」
    「……軟弱者め」
     悪態をつきながら、でも、ギルガメッシュは立香の言葉に従ってタブレットの反対側へ手を伸ばして支える。画面には、ふたりが映っている、が、微妙に見きれていた。
    「王様、もうちょっと寄ってください。顔入ってないです」
    「む」
     言われたギルガメッシュは素直に顔を立香へ近づけてくる。ふたりを収めるには意外とカメラの範囲は狭く、頰と頬が触れるような距離でないと収まらなかった。腕を伸ばすにも限界がある。
     少し足らない距離を立香は自ら顔を寄せて埋め、画面にふたりが映る。
    「王様、笑ってくださいよ。そんな仏頂面せずに」
    「いくら我が箸が転がっても面白い年頃とは言え、愉快なこともなく笑えるか」
    「ええ……せっかくなのに……じゃあ面白いことでも思い出してください。ウルクでオレのこと大笑いした時とか、冥界でイシュタルが小さくなった時のこととか」
     立香がそう並べると、画面の中のギルガメッシュの顔が緩む。少し苦笑いのようでもあったが、眉尻を下げて微苦笑する顔は悪くない。
    「あれは確かに愉快であったな。あの時の貴様の戯言のような啖呵……よもや実現させようとは。駄女神の憐れな姿もなかなかの見世物であった」
     懐かしむように、ギルガメッシュは微笑う。ああ、その顔はいい。
     隣で微笑うギルガメッシュを見ながら、立香はカシャ、と画面を見ないままにシャッターボタンを押していた。
    「なんだ? 撮ったのか」
    「王様が楽しそうだったので、つい」
     これはあとで自分の端末にも転送しておこう、と立香は勝手に決めながら、今度はタブレットへ向き直る。そこに映っているギルガメッシュは元の仏頂面だ。
    「……今の顔でいいんですけど」
    「おかしな奴だな。まあよい。気は済んだか? であればそれを――」
    「いえ、もう一枚撮りましょう。今度はカメラ見てください」
     笑ってなくていいんで、と付け加えれば呆れたように大きな溜息をついてギルガメッシュの目線が画面へ動く。続けて立香も画面を見やり、空いた左手でピースサインを作る。
    「ほら、王様もピースピース」
     真顔、とまではいかないが呆れたような顔のギルガメッシュが渋々すらりとした指でピースサインを作る。にやけた自分の顔と、真顔と嫌そうと面倒臭そうと若干の不機嫌とうっすらとした照れと、複雑な表情のギルガメッシュが並ぶ。複雑な表情ではあるが、立香は改めてギルガメッシュの顔は整っているな、などと思考する。パーツの造形や配置配分、睫毛の一本一本に至るまで計算し尽くされたような造形美がそこに在る。
    「……王様って、綺麗な顔してますよね」
    「当然であろう。我は至高の王であるぞ」
     ふふん、と自慢気な表情を浮かべたところでシャッターボタンを押す。
    「…………今ので、」
    「あと一枚」
    「立香、いい加減に――」
     咎めるような言葉ではあるがどちらかというとやはり呆れの強い声音で立香へ顔を向けようとしたギルガメッシュへ、立香は素早く顔を寄せ、続きを言うために開かれた唇を塞いだ。驚いたように見開かれる紅い双眸、猫のように縦に細くなる瞳孔、それらを間近で見ながら立香はシャッターボタンを押す。
     そうして唇を重ねたまま、タブレットを降ろしてしばらくリップ音を立てつつ柔らかい唇を啄んだあと、ぷは、と息を吐きながら離れる。
    「立香、貴様、今のは、」
    「待ち受けにしますね」
     ふへへ、と相好を崩して立香はタブレットを拾い上げる。キスプリといえば男子高校生のちょっとした憧れだ。プリクラではないが。確認のために画像を開けば画面を見ずに撮ったわりにブレることなく撮れている。口許の緩んだ自分の顔は情けないが、驚いたように目を開いているギルガメッシュの横顔はばっちり撮れている。残りの二枚も確認し、立香は自分の端末を取り出す。
    「ええと、オレの端末は、と……」
     タブレットの転送モードをオンにして立香は自分の端末と繋ぐ。画像を転送し、自分の端末に保存されているのを確認して更に顔を緩めた。
     ――と、ここまでギルガメッシュが何か口出しすることはなかった。何か文句のひとつふたつみっつよっつ、ついでに抵抗されると思ったのだが。
    「…………王様?」
     送信までばっちり終えて隣を見れば、ギルガメッシュは呆けたような、理解が追いついていないような、ぽかんとした顔をしていた。多少なり怒っているのかと思っていた立香も呆気に取られる。
    「……ギルガメッシュ王? あの……大丈夫ですか?」
     今更お叱りを受けようが画像を消すつもりはないが、無言でいられるのもなんだか落ち着かない。よほど嫌だったのだろうか。
    「あの……嫌でした? すみません」
     消すつもりはないですけど、と心の中で続けて、立香はギルガメッシュを窺う。立香の視線に気づいたのか、ギルガメッシュはハッとしたような顔をして、一瞬で眉間に皺を寄せた。
    「悪いと思っているのならば消せ」
    「それは嫌です」
     即答する立香にギルガメッシュははああ、と心底しようがないとばかりに息を吐いた。悪いと思うことと、消すか消さないかは別だ。
    「……であれば、返せ」
     呆れたような諦めたような表情はそのままにギルガメッシュは催促するように手を差し出してくる。目的は果たしたので立香は素直に金のタブレットをギルガメッシュへ渡す。開きっぱなしの写真を見て、はああああ、と長めに嘆息して、ロックボタンを押し、今度こそ歪んだ空間から蔵の中へしまい込んだ。若干早めに。消す動作はしていなかった。消さずにいてくれるらしい。その様子を見ていた立香の顔は知らず緩んでにやにやと崩れ、それを横目で捉えたギルガメッシュの眉間に刻まれた皺が更に深くなる。そして、左手を持ち上げたかと思えば長い中指で立香の額を弾いた。
    「っで!」
    「気色の悪い顔をするな。気色悪い」
    「二回も言わなくてよくないです?」
     デコピンされた額を片手で押さえて立香は眉尻を下げる。それを見たギルガメッシュは、ふは、と吐息だけで笑い、閉じられた眼が吊り上がり気味に弧を描く。
    「好い。貴様のその間抜けた面は本当に変わらぬな」
     よい、と繰り返されて立香は褒められているのか貶されているのか悩むところだが、それよりも楽しそうに笑うギルガメッシュの相貌に見入った。今の顔を撮ればよかったな、と思ったが画面越しに見るよりは自分の目で見た方がいい気もした。自分にもギルガメッシュのような記憶力があればいいのに、と思いながら。所詮ただの人間である自分はいつかこの顔も忘れてしまうのだろうか。
    「…………あ、そうだ。待ち受け」
     このまま見ていたかったが、忘れないうちに設定しておくことにした。初めに有言実行でキス写真を設定して、ホーム画面で見てみてあまりの恥ずかしさにやめておいた。これはさすがにまずい。直視できない。諦めて無難にピース写真を設定しておいた。これはこれでまあ、恥ずかしい気もするがこのくらいならいいだろう。根拠はないが。
    「…………立香」
    「なんですか?」
     設定し終わった端末をロックし、ベッド脇のサイドボードへ置く。振り向けば真顔、に少し複雑……先程と違い複数の感情が入り混じったものではなく、純粋に複雑な表情をしたギルガメッシュが立香を見ていた。
    「貴様のソレは、持ち出せぬ物であろう」
    「そうですね。機密情報てんこ盛りですし」
    「ならば、今の行為に意味は」
    「まあ、無駄、ですね。オレの携帯燃えちゃってますし」
     無事だったところで私的なデータだろうが転送などできないだろうし、この端末は返却すれば必要なデータ以外は抹消されだろう。その前に写真消さなきゃなあ、と、それは少し残念に思う。
    「いいんですよ。全部終わるまではこれでいつでも王様の顔見られますし」
     へら、と立香は笑う。立香が人理修復に深く関わり、ましてや主体となって定礎を復元していったことはなかったことにしなければならない。それは心優しいスタッフたちが立香のこの先を案じて、のことだ。立香自身、名を残したいとは思っていない。やるしかなかったからやっただけで、生きるためにやっただけで、それ以上でも以下でもない。
    「…………そんなものなくとも我はここにいる」
    「――――」
     ギルガメッシュの複雑な表情に悲しみというか、憂いのようなものが滲む。立香はただ軽い気持ちで撮っただけだし、いずれ消去されてしまうことも承知の上なのだが。
    「…………そうですね」
     立香は手を伸べ、傍にいるギルガメッシュの頰へ触れる。エーテル体の仮初めの身体でも、体温はあるし触ればあたたかい。今はこうして触れられるが、いつかそれも叶わなくなる。
    「でもほら、オレ、突然レムレムしたりしますし」
     夢(というのだろうか)の中ではまともなサーヴァント召喚はできない。戦闘時のみの限定だし、触れようにも触れられないし、勿論本物とは違う。触れられない点では画像も同じなのだが。
    「戦地に行く人が家族の写真とか……恋人、の写真とか……持っていくじゃないですか。あんな感じです」
    「む。その思考は理解できぬことはないな……」
    「でしょ? だからいいんです」
     逡巡したギルガメッシュが、そうか、と呟けば立香はなんだか勝利したような気分になって笑顔になりつつ滑らかな頬をするりと撫でる。
    「触れる時はこうやって触るんで、大丈夫ですよ」
    「ふむ」
     そのまま耳飾りに触れ、耳の縁を指先でなぞる。くすぐったいのか目を細めたギルガメッシュは次の瞬間同じように立香の耳へ触れ、囁くように、
    「そんなところだけで良いのか?」
     艶のある低音で言われ、立香は目を見開く。それから瞬きを数回して、ふんす、と鼻から息を吐く。
    「そんなワケないじゃないですか」
    「貴様の顔はよくもまあそんなにコロコロと変わるものよな」
     言いながら、ギルガメッシュは立香の首へ両腕を回す。戯れるようにシーツへもつれ込みながらどちらともなくくちづける。
    「触らせてください。王様の……ギルガメッシュ王の、奥まで」
    「ほとほと色気のない誘い方をするものよな、貴様は。しかし……許してやろう」
     吐息も絡みそうな距離で囁き合い、立香は剥き出しの腹へ手のひらを這わす。熱の滲んだ深紅を見つめながら、再びそのやわらかな唇を塞いだ。
     いつか必ず訪れる永久の別れまで、瞬間だけを切り取られたものよりももっと鮮烈にこの身に刻んで、そして彼にも刻んでしまいたい、たとえ次の召喚で何も覚えていなくとも、うっすらとでもその霊基に傷痕のように残せたら。無理だと解っていても、そう祈らずにはいられなかった。
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