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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▷下総終わった話

    ##眠たい話
    ##3001-5000文字

    下総のあとに▽下総(剣豪)終わったあとの話
    ▽魔術回路に対して捏造があります
    ▽ネタバレは特にないはず…?
    ▽ぐだキャスギル





     長らく昏睡状態にあった立香が目覚めた、と報せがあった。それはようやく、あの、影のような己の一部分が意識のない筈の立香に喚ばれている奇妙な感覚が終わりを告げた事になる。その報告を受けた時には一刻も早く顔を見たいという考えが脳の裏を過ったが、閉め切られた扉の前で今か今かと扉が開くのを待つ女共に混ざる気にはなれなかった。
     それよりも、自室へ戻った立香を迎えてやろう、と判断した。稀にこうしてサーヴァントやそうでないモノの夢に巻き込まれる事があるという立香を、いつものように当たり前に迎えてやることにしよう。立香の事だから、泣いて喜ぶに違いない。……少し盛り過ぎたか。
     立香の戻りを待つ事に決め、自室で横たわっていればカシャンと音がして扉が開く。そちらを見遣れば立香ではなく、珍しい姿があった。
    「……何用か、巌窟王」
     禍々しい光を発しながら現れたのはアヴェンジャー、巌窟王だった。見れば通信用の小型礼装を手にしている。
    「何、マスターに届け物だ。他に用はない。……貴様が見ても構わんが、奴が見るのが正しいだろう」
    「盗み見などするものか。我に要らぬ気を回すな」
    「…………そうだな」
     会話はそれだけだった。用は済んだとばかりに巌窟王は霊体化し、部屋から出て行く僅かな気配だけを残した。机には通信用の装置が置かれている。通信用装置、あの形は録音録画機能のあるものだったか。であれは、何かが記録されていて、巌窟王はそれを立香に見せる(もしくは聴かせる)ために残したのだろう。何か、立香の夢と関係があるのかもしれない。
     が、内容はどうでもいい。それは立香が見るべきものだ。盗み見るつもりはないとそう言ったのは本心である。己ができるのはここで待つのみだ。それ以外は蛇足である。
     ぼんやりと淡い灯りが室内を満たしている。身体はずっと眠っていたとは言え、立香の疲労度は測りかねる。眠っていた分、衰えてもいるだろう。すぐに元通り動き出すのは無理だろうし、他の者もそれは許すまい。最低限のメディカルチェックをしたとして、ここまでどの程度の時間がかかるかは解らない。ただ待つしかできない事は何やらいつぞやを思い出すようだ、と思えば思わず口許が緩んだ。さて、迎える時はどのような表情をして迎えるべきだろうか。笑えば良いのだろうか。必ずしも笑顔が良いわけではあるまい。いつも通り、が妥当か。はて、いつも通り、とは。改めて思えばどのようなものだっただろうか。睨めつけるのとも違うし、笑うのも違う。はて、どうだっただろうか、とギルガメッシュが独り思考を巡らせている間に、再び扉が解除される音がした。
    「――――」
     今度こそ立香だった。立香が帰ってきた。扉を背に立つ立香は無言で、酷く疲弊した様子だった。ふらふらと覚束ない足取りでこちらへ何歩か進み、無表情でベッドの上のギルガメッシュを一瞥する。蒼い眼。無表情。無。本当に何もない、無の表情だった。常ならば何かしらの感情を浮かべている立香が、浮かべていたのは虚無だった。立香、と呼ぶつもりだったギルガメッシュの言葉は喉に引っかかって、声にならなかった。
     そのままベッドへ、こちらへ来るのかと僅かに身構えたギルガメッシュの前で、立香は机を見遣る。正確には机の上の端末を。巌窟王から聞いていたのだろう。立香は端末を開き、通信機の起動する音がする。そこに映し出されたのは見知らぬ女の映像だった。そこでようやく、立香の横顔が歪む。泣き出しそうな、安堵したような、複雑な笑顔だった。そしてブヅ、と映像が途絶え、室内が静けさを取り戻す。――次にこちらを見た立香はもう、いつもの表情だった。それに何故か己が安堵する。あんな顔で見られるのは初めてだった。知らず動揺していたらしい己を悔しく思う。
    「ギルガメッシュ王」
     ベッドに乗り上げた立香が両手を伸べて倒れ込んでくるのを受け止め、その背中に腕を回す。立香は羽交い締めるように腕を回し、胸のあたりにギルガメッシュの頭を抱き寄せる。
    「……なんか、疲れました……。身体は……平気なんですけど……」
    「で、あろうな。入室してきた貴様は異様な顔をしていたぞ」
    「そうですか……? オレ、王様、ひさしぶりだから……、安心しちゃって」
     とても安堵した表情には見えなかったが、本人が言うのであればそうなのだろう。昏睡していた身体が上手く反応しなかった、というところだろうか。
    「精神のみが転移していたのだから、ただの雑種である貴様が疲弊するのは当然であろう。……どうする。眠るか?」
    「どうしましょうか……。いま寝たら、またおかしなことが起こりそうで」
     ふう、と溜息が聞こえる。顔は見えないが、その声は明らかに疲弊している。いつもの、底抜けに明るく弾む声ではない。
     ギルガメッシュ自身、眠りにつき、目が覚めた時に過労で死んでいた事はあったような気がするが、その後は普通に眠れていたように記憶している。確か、そんなような、気が、する。このギルガメッシュが何かを恐れるなど、もう二度と有り得るわけがないのだから、あの時は気にしてなどいなかった。そもそも過労死とはいったいなんの事か。まあ、過労死は二度とごめんだが。そんな事はさておき、眠るのを忌避するほどの立香の疲弊は、やはり測りかねる。
    「おうさま……でも、なんか、疲れてて。変な感覚ですね、これって……」
     ぼんやりとした声がする。眠気に近いものは感じているのだろう。精神の疲弊は肉体の疲弊にも繋がる。その逆もまた然り、だが。
     幼子をあやした事などないが、おそらくそのような感じで、立香の背中をギルガメッシュは撫でる。
    「眠りたければ眠るがいい。眠らずにいたければ、我が話相手程度にはなってやろう」
    「うん…………はい、ありがとうございます……光栄、ってやつですね」
     そこでようやく、ふふ、と立香が笑った。その声は、眠そう、と呼ぶのが一番相応しい。
    「…………夢を見たくなければ、そのようにしてやろう」
    「え……? そんなこと、できるんですか」
    「たわけ。この我にできぬ事などあるわけがなかろう。何、貴様の貧相な魔術回路を少しいじれば」
    「魔術回路」
     ヴッ、と立香が妙な声を出し、素早く二人の身体の隙間へ片手を突っ込んで腹を押さえた。咄嗟に、という風に身体を離して茹でられた海老程度に曲がる。なんだそのポーズは。茹でられた海老か?腹が痛い……というわけではないだろうが、腹を押さえている。あちらの国で腹に何かあったのだろうか。
    「そ、それって、痛いですか」
    「? 大したものではないのだから、痛みはないはずだが」
    「よかった…………」
     心底安堵した声で立香は言い、身体を寄せて腕を元の位置へ戻す。いったい何があったのだろうか。聞くのもいまは野暮か。そのように怯える程の経験をしてきたのだから、聞かない方が良いのかもしれない。
    「ならば、腕を離せ立香」
    「はい」
     名残惜しげに腕が離れていく。もぞもぞとギルガメッシュは身体を動かし、頭の位置を立香に揃える。
    「額を貸せ。……痛みはないが、妙な感覚はあるかもだぞ」
    「は、はい」
     やはりどこか怯えたような立香の額へ額を合わせる。基本的にサーヴァントは夢を見ない。勿論例外もあるし、その例外に立香はよく巻き込まれるが、それでもギルガメッシュですら夢を見なくなったのだから、サーヴァントが夢を見る可能性は限りなく低いと言っていい。そのサーヴァントと意識を同調させれば、人間である立香でも夢は見なくなる。完全に同調させてしまうとまた別の問題が起こるので、ごく弱く、寄り添わせる程度に。
     立香とギルガメッシュの間にはとうにパスは繋がっている。額を合わせたのは単純にその方が操作しやすい、というだけなのだが、じわりと立香の体温を感じて、ギルガメッシュの方が安心してしまう。そうではない、と思考を振り払って脳部分の回路のみをごく弱く揃え、一時的に書き換える。一時的な、弱い処置だ。明日の朝には元に戻っているだろう。一晩限りの儚いもの。だが、それでも立香が眠れるならばそれでいい。とかく人間は休息が必要な脆い生き物だ。
     じわり、と、熱ではない何かが一本の線のように二人を繋ぐ。絡まらず、けれど磁石のように引き合って、触れ合う寸前で固定させる。立香が僅かに身じろいだ。
    「…………終わったぞ。痛みはなかったであろう?
     どうだ。眠れそうか」
    「……はい。……なんか、へん、な、感じ……、ですね……。あったかいような、なんか、ふしぎな…………」
     言いながら、立香はうつらうつらと蒼い瞳を瞬かせる。この蒼を見るのも随分久しぶりのような気がするな、などと思考しながら額へくちづけると、顔を上げた立香に唇をふさがれた。ああ、このような戯れも久しぶりだ。
     抱き締める腕の力が徐々に弱まるのを感じる。間もなく、意識を失うだろう。不要な夢も見ず、張り詰めた糸を弛ませるような、やわらかな眠りに落ちる。
    「――よい夢を、とは言えぬな。……よく眠れ、立香」
     閉じられる溟海の瞳を見守りながら、ギルガメッシュは独り、やわらかい声で囁いた。


     
     
     
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