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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽風邪を引いたぐだおと看病する王様の話です

    ##5001-9999文字

    ぐだおが風邪を引いた時の話▽王様が看病します
    ▽王様の死後についての捏造があります
    ▽ぐだキャスギル






     苦しい。息がうまくできない。暑い。熱い。身体が重い。喉が裂けたように痛い。なのに喉が渇いている。水がほしい。冷たい水。この際ぬるくてもいい。喉が渇いた。水。水。
    「みず…………」
    「? ……ああ、水か。そら」
     すぐ近くから声がして、重い瞼を持ち上げると、目の前にコップを持つ手があった。白くて、骨ばった指が細長い。この手、は、知ってる。
    「…………お、さま、」
    「なんだ? 飲まぬのか。……飲めぬのか」
    「なん、で」
     コップを差し出しているのは間違いなくギルガメッシュだ。意識が朦朧としていても間違えるはずがない。けれど、ここにいるはずがない。熱が下がるまで他の部屋を使ってほしい、と、立香はダ・ヴィンチ伝てにギルガメッシュへ頼んだはずだ。医務室から戻った時には部屋に彼はいなかったから、聞き入れてくれたのだと思っていたのだが。
    「我が我の部屋にいて何が悪い? 起こすぞ」
    「う゛」
     ことり、とコップを傍のテーブルへ置いたギルガメッシュは、ベッドへ上がり込んで横たわる立香の背の下へ腕を差し入れ、ひょいと上体を持ち上げる。脱力した身体は重力にも負けるらしく、押されてもいないのに身体の前面を万遍なく圧迫されたようで立香は呻く。
    「持てるか?」
     ギルガメッシュの手の中に収まって揺れている水面を見下ろし、頷く。重い手を持ち上げて受け取り、そろそろと口元まで運ぶ。いつもならなんてことない動作なのに、今は全身に錘がついたようでひどく鈍い。いつもなら遅いと怒られそうだが、立香を支えるギルガメッシュはじっと見つめながら待つだけで何も言わない。口へ運んだのと同じくらいの遅いスピードで、ほとんど舐める程度の水を口の中へ流し込む。少量でも熱の上がった身体には冷たく、二度目は一口分程飲み込んだ。喉が殴られたように痛んだが、渇きは少し癒えたような気がした。
    「もう一口飲んでおけ」
    「や、もう……」
     コップを渡そうとギルガメッシュの方へ動かした手の中からコップを奪われ、コップの縁を口へ押し当てられる。断ろうとしたのを無視して水が唇の隙間からじわりと流れ込み、うぐ、とくぐもった呻き声を漏らしながら一口ほど飲まされた。強引ではあったものの水の量はさほど多くなく、やはり喉は痛んだが咽ることはなかった。
    「……ありがとうございます……」
    「よい。倒すぞ」
     立香が頷くのを待って、支えられたままの身体がベッドの上へ戻される。今度はそっと、驚くほど優しく寝かされて、不快感もなにもない。
    「…………王様、」
     ベッドを降りようと四つん這いになっていたギルガメッシュを見上げ、半分以上息だけで呼ぶ。二人の他に誰もおらず、雑音もないから聞こえるだろう。ギルガメッシュはベッドの端へ腰かけ、振り返るようにして立香を見下ろす。向けられた鮮やかな真紅は薄灯りの下で少し翳って見え、夕焼けみたいだな、と思い、それから、夕焼けよりももっと赤い、と思った。
    「無駄口を聞く暇があるなら目を閉じよ。眠らねば治るものも治らぬ」
    「……王様が、出て行ったら……寝ます」
    「なんだと?」
     元々治るまで一人でいるつもりだったのだ。医療チームの者は様子を見に来ると言っていたが、それ以外はなるべく近づけないようにと頼んである。そうしないと見舞いだ看病だと優しい人達が押しかけてくるのは目に見えている。それは大層ありがたいし嬉しいし甘えてしまいたくもあるけど、今は気を使われるのも気を使うのも負担がかかる。回復に集中したかった。
    「…………我がどこにいようが我の勝手であろう」
    「そ、ですけど……いまは、ここ 、いても、落ち着かな、でしょ、」
     言い終わらないうちに、げほ、と一度咳をすれば数回はおまけでついてくる。そんな状態で近くにいてもギルガメッシュの邪魔をするだけだろう、と思っての伝言だったのだが。
    「もっ、 しずかな……」
    「いらぬ気を回すな莫迦者。病人は病人らしく己の身のみ案じておればよい」
     それだけぞんざいに言って、立香を見下ろしていた眼がふっと逸らされる。ギルガメッシュはそのまま立香へ背を向け、宙からタブレットを取り出す。出しただけで使わない、ということはないだろう。出て行く気配など微塵も感じられない。
    「おうさま……」
     傍にいてくれるのは正直嬉しい。嬉しいけど、それよりも申し訳なさが勝つ。こんな、自分の不注意とも言えるような状態で邪魔をしたくはないのに。
     タブレットのボタンを押すコツコツという音、画面をタップする微かな音が聞こえる。背を向けられているから、立香にギルガメッシュの顔は見えない。けれど、しばらく待ってみてもやはり立ち上がる気配などなく、立香の願いが聞き入れられることはないらしいことは解った。
    「――――……これは、独り言だが」
     どうしよう、ダ・ヴィンチちゃんに連絡、とか、熱でよく回らない頭で考えていた立香は、ぽつりと呟かれた言葉に視線を上げる。見えるのは背中だ。剥き出しの腰も見えるけど。
    「我は死後、シュメルの掟通りに冥界へ落ちた。肉体もなかったゆえ、戻ることもない。そも、迎えに来る者ももうおらぬ」
     死後、と立香は吐息だけで繰り返す。第七特異点で別れたあとのことだ。特異点が修復されても、死者は蘇らない。死はなかったことにはならない。裏返せば死ななかった、助けた者は、特異点が修復されても生きている――それを教えてくれたのは王様だったなあ、と、靄がかかった頭で思い出す。うっかり過労死したのを冥界に迎えに行ったこともあったっけ。あのあと、迎えに行ける人はいなかったのか。そうか。
     立香の呟きが聞こえたのか聞こえていないのか、ギルガメッシュは何の反応も示さず、再び口を開く。
    「そして冥界が人の世より完全に消え去るまで留まり、エレシュキガルらと共に人間共の魂を管理していた。と言っても当然エレシュキガルめが殆ど管理していたがな。――確か貴様の国にも似たような話が……閻魔、とか言ったか。死者の罪を裁定し、魂の行く先を決める者。あのようなものだと思えばよい。厳密には違うが、貴様にそれを説いたところで何の益もない」
     それはそうだ、と立香はぼんやりする頭で納得するが、そもそも独り言の体でもなくなっていることには気づいていない。ギルガメッシュの背骨に沿ってできたくぼみを眺めながら続きを待つ。
    「無論、我の冥界での事など地上の民達は知るべくもない。だが、偉大な王である我を民達がただ徒に風化させるはずもなく、死した我を冥界の王とした」
     ギルガメッシュの声はいつもよりも抑えられていて、ただでさえ甘く、艶のある声がゆっくりと語る言葉は、まるで寝物語のようだった。
    「あの羊モドキのように神になったのではなく、我を人間の傍らに在るものと考え、民達は何代にもわたり平穏を願って崇め、災厄から護ると信じ続けた」
     ふ、と短く息を吐く音がした。呼吸音にしては短いそれは、もしかしていま、笑ったのだろうか。
    「――……あやつらはこうも願っていた。『悪霊を退け、奴らが齎す病が早く癒えますように』」
    「――――」
     痛む喉が、ひゅ、と鳴った。
    「まあ、我にそんな権能などありはしないがな。こうも言うだろう? 病は気から、……信じる者は救われる、だったか?」
     仰向けの重い身体を、立香はなんとか横へ向けて、ギルガメッシュへ少しでも近づこうと手を伸ばす。持ち上がらないからシーツの上を這わせるのがやっとだったが、衣擦れの音で気づいたのかギルガメッシュが振り向いて立香を見下ろす。
    「まだ起きていたのか。何をしている」
    「だっ、 て、そんな、そんなこと、」
     そんなこと聞いてしまったら、言われてしまったら、そのまま寝るなど立香にはできない。
    「おうさま、 こっちに」
     手が届くほどには近づけなくて、立香はシーツを叩く。その手を瞬きをして見つめたギルガメッシュが少し目を瞠ったのだが、立香はそれに気づかない。「はやく」と嗄れた声で呼ぶ。ギルガメッシュは珍しく迷っているようだったが、深めの溜め息をついて再びベッドへ上がった。肩越しにタブレットが光の粒になって霧散する。
     ベッドへ上がる体重を受けてシーツに沈むギルガメッシュの手へ、立香は手を伸ばす。近づいて諦めたように触れた手が、力なく伸びる立香の手を掬うように持ち上げ、何かを言う前に指を絡めてきて立香は緩く笑う。ギルガメッシュは片手を繫いだまま這い寄ってきて、間近で止まった。見上げる立香の顔へ影が落ちる。本当ならこのまま引き寄せて抱き締めてキスのひとつやふたつ、みっつやよっつくらいしたいけど、力なく笑うくらいしかできない。
    「………………そう物欲しそうな目をするでない」
     微苦笑するギルガメッシュが、困っているように見えたのは熱のせいだろうか。と、その整った顔を見つめながら考えていた立香が、見つめる顔がすぐ間近にあることに気づいたのは唇が触れる寸前だったから、やはり熱にやられているのだろう。
     いつもなら温かさこそ感じれど冷たいと思うことなどないのに、重なった唇はひやりとしている。熱も移らないうちに離れ、早い、と思わず文句が口をついた。
    「たわけ。病人の分際で高望みが過ぎるわ。どうしてもと言うなら、疾く治してみせよ」
     高圧的な言葉も、そんな優しい声で言っては意味がない。嬉しくなるだけだ。
    「なおします、 すぐに」
     いつもの快活さはないが、それでもあふれる嬉しさをそのままに、へにゃ、と笑う立香を鼻で笑って、ギルガメッシュは隣へ寝転がる。手を繋いでいるから、背は向けられず立香の方を向いている。
     独りでいるつもりだったけど、独りが心細くないと言えば嘘になった。そんなのも見透かされていたんだろうか。どこまでも見通せる夕焼けより紅い瞳は、今は立香だけを見ている。
    「――――……おうさ、」
     言いかけて、口を覆い乾いた咳を数度する立香の呼吸が落ち着くまで、ギルガメッシュは何も言わない。ただ少し、握る手に力がこもっていた。
    「…………すみませ、……おやすみなさい、王様」
    「ああ、……おやすみ、立香」
     返る言葉があることが嬉しい。繋ぐ手があることが嬉しい。傍にいてくれることが嬉しい。全部、ぜんぶ、嬉しい。
    (独りにしてほしい、なんて、ホント馬鹿だったなぁ、オレ)
     心細さも不甲斐なさも、全て愛しさに塗り潰されて、立香は目を閉じた。

         ✣✣✣

    「――――」
     病を得たにしては穏やかな、けれど衰弱の影が差す寝顔は、鼻が詰まっているのか口がうっすら開いている。その口から漏れる呼吸も苦しげに掠れて、喉に引っかかるような奇妙な音を立てている。
     眠りに落ちて力は緩んでいたが、掌を合わせた右手はそのままにして、左手の甲を立香の頰へ当てる。仮初めの身体でも体温はあり、尚且つその温度は決して低くはないと思っているが、今の立香は明らかにギルガメッシュよりも熱い。頰から額へ、今度は掌で触れる。汗ばんだ肌はやはり熱い。
     ただの風邪だと聞いている。それが重病でないことも、数日、ともすれば明日には熱も下がり、起き上がれるだろうということも。それは事実だろう。人間は知識も技術も進歩した。もはや悪霊や呪いによって病に冒されることはない。故に、心配などしていない。あんな、心臓どころか心まで押し潰されるような思いは、もう二度とあるはずがない。これは疲労が溜まって免疫だかなんだかがどうのこうの、ダ・ヴィンチがくどくど説明していた気もするが、八割ほども聞いていない。あのシュメル熱にすら罹らなかった立香がたかが疲労で、――いや、されど疲労か。
    「……疲れたのなら、休まねばな」
     二人揃って過労死経験者になるなど、今度こそ腹筋が大崩壊してしまう。そんな不名誉称号はどこぞの軍師か夢魔に押しつければよい。
     下がっていた上掛けを肩まで引き上げ、立香へ被せる。吸い込んだ空気を苦しげに深く吐く立香の、汗ばんだ額へ唇を押し当て、もう一度手の甲で頬に触れ、撫で下ろす。眉間の皺が僅かに緩んだ気がした。
     いつまで経っても頼りなさの残る顔は、寝ていても変わらない。これが人理を修復し、世界を剪定し、異星の神と戦おうとしているなどといったい誰が思うだろう。平穏なのは寝顔ばかりで、立香の運命は過酷極まりない。故に、目が離せないのでもあるが。だが、そればかりでは飽きもする。緩急というものは必要だ。
    「ならば、今は――よい夢を」
     くちづけても反応のない立香など面白くもない。疾く快癒させてまた我を愉しませろばかもの、と立香の寝顔に悪態をついて、横たえた身体から力を抜いた。去るつもりはそもそもない。しかし病人相手にできることもすることもない。寝顔を眺めていても何も面白くなどない。さてどうしたものか、とギルガメッシュは数秒思案する。そうだ、立香の見る夢でも覗いてみようか。己が願ったのだから良い夢を見ているに違いない。愉快な旅の夢でも見ているなら、そこに己がいても何もおかしくはないだろう。そうだおかしくはない。おかしくないのだ。
     善は急げとギルガメッシュは目を閉じ術式を編み始める。指を絡めている手が、離すまいとでもするように強く握り締めていることには、気づかないままだった。
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