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    えんどう

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    えんどう

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    ▽VD2019?

    ##VDの話
    ##5001-9999文字

    ユーフラテスの夕べの話▽王様のVD礼装の話
    ▽ぐだキャスギル






     いつもお世話になっている人へ感謝を込めて。友人へ友情を込めて。愛する人に、愛を込めて。様々な気持ちを甘い菓子に乗せて贈る日、バレンタインデー。そんなバレンタインに立香はギルガメッシュへチョコを渡した。込めたのはもちろん、愛する人へ、の気持ちである。贈るチョコレートも、手伝おうという人達の気持ちを丁重に辞退して(ネットの力は借りたが)誰の手も借りず、一人で作り上げたものである。未知の素材であるカカオを相手に奮闘し、やっと作り上げたものである。出来栄えは良すぎず悪すぎずではあるが、間違いなく立香に今できる最大限だと言えるだろう。
     それを受け取った王は、やはりというかなんというか、感謝はしてくれなかった。それは解っていた事ではあるが、反省しろとまで言われた。ああこれはやはり失敗だったか、と、解ってはいたなりに落胆した立香は、気がついたらウルクにいた。何を言っているか解らないと思うが、ウルクにいたのである。やはりダメでしたか、と言う立香に王が質より量の問題だ、と言ったのは覚えている。いや、王の言葉であればちゃんと覚えている。が、宴席を数分で終わらせるつもりか、真に誉れあるバレンタインを、ウルクを見せてやる、と言われて耳を疑っている間にあれよあれよとレイシフトさせられ、気がつけばウルクで王の用意した舟に乗っていたのである。
     そう、いま立香は王――ギルガメッシュとふたりきりで、約四千年前、古代シュメル時代のユーフラテス河に浮かんだ二人乗りの小舟に乗っているのである。小舟に乗っているのはふたりの他に用意した果実や酒のみで、人のかたちをしたものは立香とギルガメッシュのふたりしかいない。
     小舟の浮かぶユーフラテス河の流れは緩やかで、舟はゆったりと、進んでいるのかも解らないような速度で河を下っていく。河は一面に灯籠が浮かび、水面をぼんやり照らしながら、舟と同じようにゆっくり下流へと流れていく。舟から見渡せる岸には、ウルクの街並みと、聳え立つジグラットが見えた。ウルクのジグラット――あの日、あの時、ひとつの世界の終焉を見た場所。最後の時を見届けるべく王が立っていた場所。あの時、大切なものを掴み損ねた場所。あの冒険の象徴とも言える場所が、水面の灯りと、松明の灯りと、ジグラットから漏れ出る灯りと、中天に浮かぶ三日月の灯りに照らされている。それはとても美しく、幻想的に見えた。
    「――どうだ? 我が宝は美しかろう?」
     振り返ると舟の縁に片肘をついて杯を傾けるギルガメッシュがいる。その表情はとても誇らしげだ。見せたかった宝はこれだろう。これは、その言葉通りに、美しい。
    「はい。……元々、いい国だとは思ってましたけど、これは……」
     特異点だった時のウルクも、窮地であっても生きる事を諦めない、強く美しい国だった。そんなウルクで過ごせた事を立香は誇りに思うが、元々この国の民は強いのだろう。その生への想いと、国を誇りに思う気持ち、窮地でなくともそれらが綯い交ぜになった今のウルクも、あの頃に負けず劣らず美しい。
     景色に見惚れる立香の横顔を見、ギルガメッシュは満足気に双眸を眇める。
    「その眼に焼きつけておくがいい、立香。……これが貴様の護ったものよ」
     その言葉はぽつりと水面に落ちた雫のようだった。ともすれば聞き漏らしてしまいそうなその声を、しかし立香の耳は拾い上げた。
    「王様……」
     二の句が継げない。目線の先にいる、目を伏せる程度俯いたギルガメッシュはやわらかく笑んでいて、その様は一枚の絵画か何かのようで静かに美しく――どこか憂いを帯びているようにも見えた。
     小舟を揺らさぬよう立香はギルガメッシュに近づき、空いた手を両手で取る。こうして何度手を繋ごうと、あの時の代わりになどなり得ない、が。それでも。
    「……あれは、オレが護ったんじゃないですよ。みんながいたから……ギルガメッシュ王が、いたから」
     あのジグラットで、彼が死んだから。神代最後の神として死んだから。だから今の、人の世が、立香の生まれた世界が続いている。彼は、ギルガメッシュは、最後まで人の王だった。人間を愛し、尊んだからこそ人のために死ねたのだろう。――その行為は、神と呼ぶにはあまりにも。
     両手でギルガメッシュの手を握り込む立香に、ギルガメッシュは嘆息してからふと微笑む。
    「……真に貴様はお人好しよな、立香。もっと自らを誇れ」
     呆れているような、それでいて優しい表情だった。ここへ連れてきた時のような強引さなど微塵も感じさせない。月明かりと仄かな炎に照らされたのは、ただただ慈愛に満ちた笑みだった。
    「こうして我がウルクが在るのも、人の営みが続いてゆくのも、こうして――我が、此処に在るのも……この記憶を持ち得ているのも、立香、貴様が成した結果なのだぞ?」
     アーチャーではなく、キャスターとして。全盛期の姿ではなく、それより後の賢王として。そして、あの時の事を、本来なら歴史には存在し得なかった、本来のギルガメッシュは経験しなかった特異点での出来事を記憶したまま、ギルガメッシュが顕現した、その理由。
     立香は言葉を失う。自分が成した事は、歩んできた道はすべて無駄ではなかった、と、教えてくれたのはギルガメッシュだった。そうして、今も、また。
    「ギルガメッシュ王……――!」
     名を呼ぶのが精一杯だった。なにひとつ言葉など浮かんではこなかった。せめて少しでも何かが伝わればいいと思い、強く抱き締める。耳元で「おっと」と零れかけた杯の中身を気にかける声がした。
    「しかし、宴の席で酒の一滴も呑めんとはな。貴様の国は良い面もあるが面倒な面もある」
     国としては当然だろうが、とつらつら涼やかな声が聞こえてくるのをただ聞いていた。今はどうにも、離れがたかった。
     ギルガメッシュの肩越しに水面の灯りが見える。その灯りと、三日月の淡い光がゆるやかな流れでゆらめいている。耳の側でこくりと喉の鳴る音がする。杯を傾けているのだろう。こくり、こくりと二度、三度。酒の味など立香はまだ知らないが、仄かに香る酒気が上等なものである事くらいは想像できた。王の舌に乗るに相応しい上質なもの。
    「――おい。この我の玉体に触れたいのは解るが、そうしがみつかれては身動きが取れん。暫し離れよ」
    「う」
     唐突なギルガメッシュの言葉に思わず唸る。離れがたいと思っていたところにこれである。しかし離れずに機嫌を損なう事もしたくない。おとなしく身を離せばようやく解放されたとばかりにギルガメッシュが息を吐く。
    「さて、確かここに……」
     呟きながらギルガメッシュは果実の積まれた器を漁る。ころりとリンゴに似た果実が船底を転がるが、それには目もくれない。
    「これだな」
     そう言ってギルガメッシュが取り出したものには見覚えがあった。月明かりに照らされるそれは先程――レイシフト前に立香が渡したチョコレートの包みだった。
    「持ってきてたんですか!?」
     てっきり途中でどこかに置き去られたと思っていた。取るに足らないものだと、そう思われたと思っていた。
    「当然であろう。これは貴様の想い、とやらだからな。バレンタインとはそういう日なのであろう?」
    「えっ」
    「立香の想いを無下にはできまいよ」
     顎を上げてこちらを見下ろし気味に、ふん、と笑う顔は悪戯を思いついたような、愉しげな、どこか自慢気な笑顔だった。
     と、いうか。
    「王様、バレンタインの意味、知って……!?」
     最初の反応で、てっきり知らないものだと思っていた。が、そう言われてみれば「真に誉れあるバレンタイン」とか言っていたような。あれ?じゃあ最初の反応は?
    「この我に知らぬ事などないわ! この我を誰だと心得る。すべてを見通す眼を持つ至高の……」
     ふはは、とギルガメッシュはとても愉しそうだが今は王の言葉どころではない。意味を知った上で、想いを伝える日だと解っていて、こんな、こんな席を設けて?宝を、ウルクを見せてくれて?そこに篭められた想いって、いったい。
     混乱気味の立香をよそに散々己を讃美し倒したギルガメッシュは包装をほどき、中に収められたチョコレートをつまみ上げる。
    「え、食べるんですか」
    「当然であろう。我の話を聞いていたのか貴様は」
     聞いていませんでした、とは言えない。
    「いや、でも、足りないって……」
    「質より量だ、と言った筈だが? 質なら足りている」
    「それって……」
    「ふむ。見た目は悪くないな。雑種の手によるものにしてはなかなかやるではないか」
     値踏みするように顔の前に翳して裏表を見、ふむふむと頷く。確かに手作りではあるし、何度も失敗した末の成功作品ではあるが、とても質が見合っているとは思えない。
    「む、無理して食べなくてもいいんですよ……?」
    「誰が無理などするか。我は世辞など言わん」
     なら、それなら、その言葉は真実であると受け取ってもいいのだろうか。なかなかやる、と、褒められたと受け取っても。この想いごと、受け取ったと思っても。菓子に篭めたこの想いは、正しく伝わるのだろうか。
     はらはらしながら見守る立香の前で、ギルガメッシュは決して整ってるとは言えない歪なチョコレートを口へ運ぶ。ゆるく結ばれていたうすい唇がほどけ、奥から覗く白い歯がかり、とチョコレートの端を齧り取る。ぱき、と小さな音を立てて立香の作り出した甘い菓子の端が砕けて、齧り取られた分だけ唇の奥へ消えていく。見えはしないが、それはその舌の上で溶かされ、喉を伝って身体の中へ落ちていくのだろう。そして、彼の一部になる。
    「…………むぅ。甘いな……」
     当然の感想を吐かれた。僅かに寄った眉間の皺で、もしや甘いものは苦手だったのだろうか、という懸念が過る。今更ではある。しかしそんな立香の不安をよそにギルガメッシュはぱきりぱきりとチョコレートを齧っては口の中で食み、溶かして飲み下していく。それを見る立香は無理しなくても、と何度か言いかけては口を噤む。無理などする筈がないのだ。食べたいと思ったから、食べている。ただそれだけの事が解らないわけではない。が、真意までは解らない。どうして、食べてくれるのだろうか。欠けた三日月の下、頬にかかる睫毛の影すら一分の隙もなく完璧な王をただ眺める。
     この量では二口ももたないと言っていたギルガメッシュは、言葉に反して三口四口とごく少量ずつ口内へ収め、食べ進めていく。その様はまるで惜しんでいるようにも見えた。
    「ど、どうですか……?」
     ちびりちびりと食べ、最後のひとくちを飲み込んで指を舐めるギルガメッシュに恐る恐る問いかける。何か一言でも良い感想が聞ければ、という期待が脳裏を過る。同時に、それは無理ではないか、という懸念も。でもこの想いは無下には扱わない、と、そう言った。
    「…………ふむ。そうさなぁ。……及第点だな」
    「そ、そうですか……」
     及第点、ならばよしと思わなければならないだろう。元より満点など期待できる出来ではない。ただ、ギルガメッシュが満足気に笑っているから、その笑顔だけで充分だ。
    「しかしその健気な努力と想いは買おう。どれ、」
     舐め取った指とは逆の、黄金を纏った人差し指がちょいちょいと立香を招く。呼ばれるがまま近づいた立香に、真紅の双眸を伏せたギルガメッシュは前屈みに上体を倒して無防備な顔を寄せ、あ、と思う間に――ふたりの唇の間に、立香の右手が入り込む。ふにゃりとした感触が掌に当たった。
    「…………なんだこれは」
     タイミングを外されたギルガメッシュが露骨に眉間に皺を寄せる。王の誘いを断るとは何事か、と言外に言っていた。
    「待ってください、あの、えっと…………誰にも見せたくないので」
     何をしようとしたかは想像がつく。褒美を与えようとしていた事も。だからこそ遮った。なぜならばここは河の上で中天には三日月の浮かぶソラの下である。対岸には街が見え、ジグラットが聳え立っている。ロケーションとしては最高なのだが。
    「何を恥ずかしがる事が……こんな夜更けに出歩く者もおるまいよ。心置きなく王からの褒美を――」
     ギルガメッシュの指が立香の手の甲を這う。皮膚をくすぐるようなその手が確実に色を纏っている事は立香でも解る。が、しかし。
    「あの、えっと。その、…………月が」
    「月?」
     口ごもる立香にギルガメッシュは首を傾げる。月ならば確かにソラにある。その三日月の光は水面に反射してゆらゆらと輝いていた。
    「…………月にも、見せたくないなって」
     ぽつり、と立香が零した言葉の後、数秒、数十秒の静寂が訪れる。さらさらと葉擦れの音だけが聞こえ、王は立香の窺うような眼を見つめ、二度三度瞬く。
     それから、弾かれたように笑いだした。
    「!?」
     ギルガメッシュが大笑する前で立香は目を白黒させる。そんなに面白い事を言っただろうか。ただ、思ったそのままを言っただけなのだが。
    「――これ、これは、これはまずい、貴様、我を一度ならず二度までも笑い殺す気か……!」
     ひい、と笑いの収まらないギルガメッシュは腹を抱えて荒い息を吐く。立香を挟むように伸ばした脚をばたばたと交互に動かし、子供のように笑う。そんなに面白い事を言っただろうか。そもそも笑い殺した事もない。まったくの濡れ衣だ。そんなに面白い事だったのだろうか、今の言葉は。
     そのあともギルガメッシュは顔を上げて立香を見てはまた笑いだし、を数回繰り返し、ばしばしと自分の膝を叩いて笑い、なんとも楽しそうに笑い声を響かせる。大笑いするギルガメッシュとは逆に、呆然と眺めていた立香は徐々に顔を顰めていく。
    「……そんなに笑わなくてもいいじゃないですかぁ……」
     本当に、他の何にも見せたくないと思ったのだ。このうつくしい人の無防備な姿を、自分以外の、何にも。ここは自室ではない。自分と王以外のものが多すぎる。だから何にも、ソラに浮かぶ月にすら見せたくないと思った。それだけなのに。自分の想いはそういうものなのに。
    「――ふは。はは。そう、そうさな。貴様のその健気な想い、応えられぬ我ではない」
     まだ笑いの残るギルガメッシュは眦に浮かんだ涙を指先で拭い、おもむろに立ち上がる。僅かに舟が揺れたのにも構わず立香の背後へ回り、その動きを追って振り向いた立香は――
     ばさり、と布のはためくような音がして、周囲が暗闇に包まれる。視界には、立香を見下ろして口角を吊り上げたギルガメッシュしか映らない。月明かりも、灯籠の炎のゆらめきも、ギルガメッシュ以外は、何も。
     舟の縁から垂れていた布を己と立香へ被せたギルガメッシュは上機嫌で笑い、見上げる立香へ膝を折って距離を詰める。灯りを遮られた暗闇でも、その黄金と真紅は輝きを失わなかった。
    「これならば、文句はなかろう?」
     被った布の下、いたずらっぽく笑ったギルガメッシュに、はい、と応えるより早く、立香の口は塞がれる。仄かに甘い香りがした。暗闇で真紅と目があって、笑みのかたちに歪められたそれにつられて笑う。自分の想いなど、伝わっていなくてもいいのかもしれない。ただ、この時を共にいられたら。本来重なる筈のなかったふたりの時間が一時でも重なれば。
     どちらからともなく指を絡めて握り込み、深くくちづける。唇の隙間から名を呼べば、呼び返される。それだけでいい。それだけで、もう、息が止まりそうなほど幸福だ。
    「ギルガメッシュ王……」
     りつか、と熱く蕩けた声で呼ばれる。その吐息ごと飲み込んで唇をあわせ、舌を絡める。いまここにはふたりしかいない。ふたりの他にはなにもない。
     うつくしい人とふたりきり、過ぎる時間を惜しむようにキスをする。世界から隠れて、何度も何度も、繰り返し、ずっと。
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