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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽王様がアイスを食べる話

    ##食べる話
    ##1000-3000文字

    王様がアイスを食べる話▽王様がアイスを食べます
    ▽空の境界?のコラボの時に書いた気がする
    ▽ぐだキャスギル






    「なんだ これは」
     誰もいない夜の食堂にて、目の前に置いた小さな円筒状のものを見下ろしながら、ギルガメッシュが問う。箱には本体とフタがあり、フタ部分には黒のマジックで『藤丸立香』と書かれているのがはっきり読み取れる。冷蔵庫にしまう個人的な食料には名前を書いておくのがここのルールだ。書いてなければ容赦なく誰ともしれない誰かに食べられてしまう事もあるし、食べられていても文句は言えない。稀に名前を書いていても食べられる事もあるが、それはそれ。さすがに立香の名前の書かれているものを盗み食いしようと思える者は少ない。
    「オガワハイムで集めてたアイスですよ。一個だけ余ったので、式さんに頼んでもらってきたんです」
    「貴様の名前が書かれているではないか。これは貴様のものであろう」
    「王様に食べてもらおうと思って、ですよ。なのでこれは王様のです。遠慮なく食べてください」
     溶けちゃうので早めに、とつけ加えながらギルガメッシュへスプーンを差し出し、立香はテーブルを挟んで向かい合わせに椅子へ座る。理解できないと言いたげな顔をしながらでもスプーンを受け取ったギルガメッシュは、フタを開けて横に置く。蓋の下から現れたのは、カップを埋め尽くすようにみっちりと詰まった淡い紅色の氷菓子だ。この色はイチゴ味だろうか。
     幾許かの警戒を漂わせながら、ギルガメッシュはスプーンをアイスに突き刺す。が、冷凍庫から出したばかりでまだ固いアイスには先端しか埋まらず、眉間に皺が寄った。
    「なんだこれは。刺さらぬではないか」
    「冷凍庫から出したばっかりなので……もうちょっと溶けてからの方がいいかもですね」
    「これは溶けるのか……」
    「これ、ざっくり言うと氷なんですよ。クリームとか色々混ざってますけど。ウルクにはさすがにこれはなかっただろうと思って。珍しいでしょ?」
    「ふむ……そうさな、氷か……それがあれば……」
    「とか言ってる間にちょっといい感じになってきたんじゃないですか もっかいやってみてください」
     顎に指を当てて思案しかけていたギルガメッシュを引き戻すように立香は笑ってアイスのカップを彼の方へ押す。固かったアイスは、器の縁から少しずつ溶け始めていた。ふむ、と、ギルガメッシュは立香に従い再度スプーンを刺してみる。先程の硬さが噓のようにすんなり刺さったスプーンに、ひと匙分の薄紅色のアイスがとろりと乗る。口に入ればどんな反応を見せてくれるだろうと胸を躍らせる立香の前で、しかしギルガメッシュはそれ以上スプーンを動かさず、まるで口に運ぶのを躊躇するかのようにスプーンの上のアイスを凝視している。
    「もう……そんなに警戒しなくても大丈夫ですって」
    「あ」
     警戒する気持ちも理解できる。なので安全性を目の前で確かめてもらう事にした。具体的に言うと、スプーンを持つギルガメッシュの手首をおもむろに掴み、身体を乗り出してスプーンをぱくりと咥えた。舌と上顎、それから口内へ、キン、とした冷たさが広がり、遅れてじわりと甘さが舌に広がる。やはりイチゴ味だったらしい。甘さの中にほんのり果物の酸味がある。うん、おいしい。
    「――ほら、大丈夫ですよ。毒も入ってません。というか、オレが王様にそんな危ないものあげると思います?」
     そう思われたなら心外中の心外だ。世界中のおいしいものを食べさせたいと思いこそすれ毒を盛ろうなどと思うはずがない。
    「……、……そう、だな」
     するりと手を離せば、ギルガメッシュは長い睫毛に飾られた真紅をぱちぱち瞬いて立香を見た。少し驚いているようにも見えた気がしたが、突然手を掴んだから驚いたのだろうと解釈し、どうぞどうぞとアイスを再び勧める。
     アイスをひと匙掬ったギルガメッシュは、今度こそ薄く開いた唇の隙間にスプーンを滑り込ませた。立香の期待も最高潮だ。そしてその瞬間、ギルガメッシュの真紅の瞳が見開かれた。
    「ね? 美味しいでしょう 暑い時に食べるとこれがまた美味しいんですよ。冬に食べるのも乙ですけど」
     ギルガメッシュは美味い、とは言わなかったが、二匙目を口に運ぶ様子から察するに美味しいと思ったはずだ。おそらくは初めて食べるのであろう、甘く味のつけられた氷菓子を、ギルガメッシュは無言かつ無心で食べ、立香は目を細めてそんなギルガメッシュを眺める。口許が笑っているのが自分でも解った。
     その後も三匙四匙と無言で食べ続けるギルガメッシュを、立香は微笑いながら見つめる。気に入ってもらえたのなら、渋る式から無理を言って譲ってもらった甲斐があるというものだ。
     そして器の全てをスプーンで掬いとったギルガメッシュが視線を上げる。にやついていたのがバレてはいけないと立香は顔を引き締めるが、ギルガメッシュが言及する事はなかった。
    「……もう終いか」
    「……一個しか残らなかったんです」
     あとは全部素材になって消えた。思いの外お気に召していただけて嬉しいのだが、どこか残念そうな顔をされてちょっと心が痛んだ。
    「夏になったらきっとカルデアにも入荷されますから。その時また買ってきますよ」
    「……そうか。であればこの王の舌に乗るに相応しいものを選んで来るのだぞ」
    「もちろんなのだぞ」
     これはストロベリーアイスだが、バニラにチョコに抹茶……他にも様々な味がある。色々買ってきたらギルガメッシュはどんな顔をして食べてくれるのだろうか。想像して無意識に微笑う立香を、今度こそギルガメッシュは「何をニヤついているか」と咎めたのだった。
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